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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第五章 北の争乱編

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第五十一話 一端

 そんな照真しょうまの元に、洞穴から出てきた赤羽が近寄る。



「赤羽さん。さっきはすみませんでした。ちゃんと判断も下せなくて…」


「いや。お前凄いよ。あれだけの妖気感じると、すくんですぐ動けない奴も多いのに」



 感心した様子の赤羽に、照真は申し訳ないように眉を下げた。

 あのあやかしの妖気に委縮しなかったと言えば嘘になる。体はいつも本能的に恐怖を感じ取る。



(でも、アイツ程じゃない。アイツの妖気を知ってるから)



 体はもうすでに最上の恐怖を覚えている。今でもはっきり思い出せる。きっとこれからも消えることはないだろう。


 振り払うように気持ちを切り替え、照真は洞穴の近くに立つ少年に駆け寄った。

 年は照真と同じくらいだろうか。色素が抜けたような髪の色と、山吹色より少し薄い瞳。汚れている着物はほつれや裂けている所もある。足元も裸足だ。



「ありがとう。助けてくれて」


「ありがと」



 照真に続き、赤羽も頭を下げる。そんな二人に少年から言葉は返らなかった。

 頭を上げた二人の前で、視線を彷徨わせ、少年は少しだけ頷いた。落ち着きなく視線を彷徨わせ、両手の指をもじもじと絡める様子に、照真はコテンと首を傾げる。


 しかし、口を開くより先に、近付いて来る気配に刀の柄に手を添えた。


 照真と赤羽が警戒する先、草むらをバサッと人が突き破って来た。その勢いに「のわぁ!」と赤羽が声を上げる。

 上着をバサリとはためかせ、着地する人。



日野ひのさん!」


「無事ね。二人とも」



 上司である日野だった。

 表情に険しさを乗せ、日野は二人の姿を見つけるとすぐ無事を確認した。日野が突き破って来た草むらから、遅れて山本が姿を見せる。班員の集合だ。


 先の妖の事もありホッとする赤羽を横目に、日野は周囲を見回す。そして照真と赤羽の傍に居る少年を見て、あら? と大して驚いていない顔を見せた。



八彦やひこ君。こんな所にいたの?」



 日野が、八彦と呼んだ少年の傍に立つ。一歩下がった照真達は知り合い同士なのかと両者を見つめた。

 日野を見て、それまで少し強張っていた八彦の表情が動く。



「また山に? 町に居ても、寺に来てもいいのよ?」


「ん……。でも、ここがいい…から…」


「そう。今、この山ちょっと危ないの。奥には行かないで」


「…ん。それって…さっきみたいなの、いるから…?」



 八彦の言葉に照真はハッと思い出す。


 そう。先程の妖を少年は見つめていた。危ないと自分を止めてくれた。

 それはつまり――



(視えてる……?)



 よもや…と思う照真だがそれを問う事は出来ず、目の前では日野が真剣な表情で八彦と話をしていた。



「そう。私達が何とかするから。それまで山に入らないで」


「……ん。でも……」


「いつでも寺に来て。住職も喜ぶわ」



 日野の歓迎するというように明るい声音に、八彦はしばらく黙っていたが、やがて少しだけ頷いた。

 それを見て日野も感謝の笑みを浮かべる。「ありがとう。ごめんね気の進まない事言って」と言う日野に、八彦はふるふると首を横に振ると、身をひるがえして森の中に消えて行った。


 八彦の姿が見えなくなり、照真達は日野を見た。



「あの子は?」


「その前に、私に言う事は?」



 途端、上司の顔を見せる日野に、照真と赤羽がビシッと姿勢を正した。

 そう。聞くよりも言うべき事がある。腰に手を当てる日野に、すぐさま報告。



「妙な妖がいました。目的の奴ではないですが、かなりの妖力です」


「見た目は大きな岩って感じです。野放しには出来ないと思います」



 二人の報告に日野も大きく頷いた。そしてすぐに山本を見やる。



「他班に式を。今のを伝えて」


「はい」



 すぐさま式を飛ばす山本を横に、日野は三人に指示を飛ばす。



「仕事を追加するわ。これから目的に加え、二人が視た奴も探すわよ」


「はい!」



 威勢の良い返事に、四人はすぐに行動を開始する。まずは近辺の見回りだ。


 歩きながら、照真は日野に疑問をぶつけた。



「日野さんは、どうしてここに?」


「待ってた時に妖気を感じてね。貴方達が行った方だったからまさかと思って」


「そうだったんですか。ありがとうございます」


「当然の事よ」



 礼を言う照真に日野は笑って返す。そして前を歩き出す日野の背を照真は自然と見つめた。

 自分達姉弟を助けてくれた時の総十郎や、霊を祓う時の鳴神。そんな二人の背中のように頼もしさを自然と感じる。


 森からは妖気が漂っている。強ければ強い程感じ取りやすい。しかし、あちこちから立ち込めているこの中で、正確に一点の場所だけを瞬時に感じ取る。

 自分達が森に入ってあの妖に遭遇するまで、時間としては短かっただろう。だのに、日野は妖が消えてすぐやって来た。


 歩きながら、照真はその足取りを見た。

 迷うことなく、その足は先へ先へと進んでいく。


 負けじと、照真も顔を上げ、先へと進む一歩を踏み出した。


 姿が視えなくなってから、それほど時間も経っていないはずなのに、なかなか見つける事が出来ず、照真は額の汗を拭った。



「妖の中には妖気を消すのが上手い奴もいるわ。そうなると妖力頼りには探せないのよ。まぁ、完全に消せるものじゃないから、弱くなって探りづらいって所だけど」


「さっきの妖もそうなんでしょうか…」


「そう見る方がいいわね」



 夕暮れが近いが、ねぐらにしている所に戻り、妖気を出来るだけ消して身体を休めているということもあり得る。そう続ける日野に照真はキュと眉を寄せた。

 どこに潜んでいるか分からない。だが必ずいる。それを探るために感覚を研ぎ澄ませなくてならない。


 照真がフッと集中しなおした、その時だった。






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