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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第五章 北の争乱編

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第四十八話 どうやら奴ではないようだ

(でも、神来社からいとさん、本当に楽しそう…)



 目の前の光景に、日野ひのはクスリと笑みを浮かべた。このままにしておいてあげたい気持ちもあるが、こちらも仕事だ。

 日野は気を取り直し、総十郎そうじゅうろうの背をポンッと叩いた。



「神来社さん。そろそろ仕事の話に戻りましょ」


「そうだな」



 いかんいかんと表情を改める総十郎に、話しこんでいた咲光さくや照真しょうまもハッとなる。「また後でな」と二人に言うと、総十郎は揃っている一同に向け一歩前へ出た。



「全員集まってくれ。仕事の話だ」



 総十郎の掛け声に全員が集まった。


 総十郎と日野を前に、向かい合う衆員達。集まっているのは、退治人と祓人はらいにん。人数は半々というところだ。咲光と照真は一番後ろに座った。


 部屋の空気が引き締まる。誰もが真剣な眼差しで“とう”を見つめていた。



(皆さん、あやかしと戦ってきた実力者)



 後ろから見る衆員達の背中。咲光はキュッと拳をつくった。自然と背筋が伸びるのは照真も同じ。

 一同を前に、総十郎は仕事の話を始めた。



「少し前、この近辺で強力な妖が目撃され、二級祓人が犠牲になった。俺達の役目は近辺の見回り、その妖の退治()しくは撃退だ」



 告げられた内容に、一同に動揺が走った。しかし、ざわめく事は無く、誰も言葉は発しない。

 そんな一同の緊迫した空気に、照真も内心の動揺を押しとどめる。



(二級…それほどの人が…。まさかその妖って…)



 脳裏によぎる姿に、自然と体が強張る。が、そっと手に添えられたぬくもりにハッと隣を見た。

 咲光がまっすぐ自分を見つめていた。その目を見て身体の力がスッと抜ける。

 大丈夫だと伝えるように、添えてくれた手に自分の手を添え、二人は頷き合った。


 総十郎の言葉を引き継ぎ、日野が一同に指示を出す。



「見回りは組に分かれて行うわ。特に夜間に単独行動はしないように」


「はい」



 全員が頷いた。

 戦い方も階級もバラバラ。しかし、万所よろずどころに属する者にそれは関係ない。為すべきことは同じなのだから。


 “頭”二人の言葉を受け、一人の衆員が手を上げた。



「その妖はどういう相手なのか。何か情報はあるんでしょうか?」


「あぁ。人型で見た目は女だ。黒い髪と金色の目。遭遇すれば一目で分かるだろう。なにせ、とんでもない妖力だ」



 口端は上げながらもその目は笑っていない。そんな総十郎の言葉に一同に緊張が走る。

 息を呑み目を瞠る一同の中、咲光と照真だけは眉間に皺を寄せ視線を下げたのを、総十郎は見た。



(アイツじゃない。でも、アイツみたいな妖が他にも……?)


(神来社さんがそう言うくらいなら、あの妖並だと思わなきゃ)



 もう、あんな事は絶対にさせない為に――


 視線を上げ、強く前を見据える二人の目に、総十郎は僅か口端を上げた。



「見回り警戒範囲は、町とその周囲。組はこっちで分ける。全員、協力して仕事に臨んでくれ」


「はい!」



 力強い返事に、総十郎と日野も頷き返した。








 妖が動き出す時間が近づく。空が橙の色を見せ始める。


 寺の境内に一同が集まっていた。総十郎と日野から組み分けをされたばかり。これから見回りに出る事になっている。

 それぞれの組に分かれ、咲光と照真は少し新鮮さを感じていた。



(照真と別行動で仕事は初めて…)


(姉さんと別か…。前の仕事とは全く違うからちょっと新鮮だ)



 情報収集ではない。刀を抜く事になるかもしれない中での別行動。相手の事が気にはなるが、自分の事に集中しようと二人は気合を入れなおす。


 組は四つ。咲光は総十郎がまとめる一班に。照真は日野がまとめる三班に分かれた。ニ班と四班はそれぞれ階級が一番上の者がまとめている。退治人と祓人が混ざり合うよう組は分けられている。


 それぞれ分かれた組を見やり、「よし」と総十郎が見回り地域を言い渡す。



「一班は町の北。ニ班は町の南。三班は町の周囲東側。四班は町の周囲西側をそれぞれ警戒してくれ」


「異常発生及び発見時には、すぐに私か神来社さんに式を飛ばして。すぐ向かうわ」



 日野の言葉に、それぞれの組の祓人が頷く。迅速な連絡が組を繋げることになる。



「それじゃあ、行くぞ!」


「はい!」



 力強い総十郎の言葉に、一同は走り出した。






♦♦




 三班の照真は、日野と祓人の二人と共に町の周囲東側を見回りに向かう。町の東側に見えるのは緑豊かな山。その空気は、遠くからはまだよく感じ取れない。


 同じ組の祓人は、それぞれ赤羽あかばね山本やまもとと名乗った。少し年上らしい二人と話をしながら足を進める。



「俺、祓人の方と一緒に仕事するの初めてなんです。だから、もし至らない所があれば教えてください」


「分かった。まぁ、俺も退治人との仕事は経験少ないから、迷惑かけるかもだけど。滅多にないんだよな。祓いと退治の合同って」


「そうなんですか?」



 先輩の言葉に瞬いた。

 こういう事は珍しくないのかとも思ってしまった。が、「よっぽど強力な相手じゃないとない」と言われ、へぇと息を吐く。



(でもそっか。退治衆と祓衆は相手にする妖にも違いがあるから。祓衆は霊も相手だし…。大変だ)



 霊を祓った鳴神なるかみと菅原を思い出す。と同時に、鳴神が“頭”であった事を思い出して、何とも言えない表情が浮かんでしまった。

 そんな照真を、赤羽と山本は胡乱うろん気に見つめていた。






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