第四十六話 衝撃の事実
万相談承所の総元と四人の“頭”が緊急会議を行って数日後。
火ノ国。その北は豊かな森と険しい山々が広がっている。しかし、田舎の長閑な風景は少なく、都会から伸びる道のおかげか、町の姿は大きく発展している。
町の中心街は道も石畳。木造の建物もあれば、煉瓦造りの建物も。異国の品を扱う店もあれば、ゆったり休憩できる喫茶店もある。店が並ぶ街の中心から少し離れれば住宅街が広がり、町の外は森が自然の要塞のように広がっている。
そんな町から少し離れた寺が、今回指定された集合場所だった。咲光と照真は、鳴神達と別れてから、急いでこの場所へとやって来た。
緊急の指令。近づくほどに緊張が高まる。
(私達はこなした仕事も少ない…。でも、あの男が相手でも、やらないと)
(緊急…。一体なんだろう)
緊急と召集されているから、同じように近くにいた他の万所の者達も召集されているかもしれない。知り合いという知り合いはあまりにも少ないが、それでも一人でないという事は、二人の緊張を少し和らげてくれた。
都会になりつつある町が近くにあるとは思えない、静かな緑の中を伸びる道。さらに伸びる階段を上り終え、立派な楼門をくぐった。
広い境内に伸びる石畳。正面には本堂と、その右手に平屋の建物。石畳の右手には鐘もある。しかし人の姿は見えず、咲光と照真はキョロキョロと周りを見た。平屋の前に一人の男性の姿を見つけ、二人は顔を合わせるとすぐに駆け寄った。
寺の住職なのか、法衣をまとっている。そんな二人に気付いた男性は、二人が来るのを待って両手を合わせ、ゆっくりお辞儀をした。
「突然失礼します。私達は万相談承所の者です」
「はい。よくお越しくださいました」
木札を見せた二人に、住職はゆっくりと頷いた。そして建物の扉を開ける。
「どうぞお入りください。皆様もおいでになっておられます」
「はい。ありがとうございます」
丁寧な物腰の住職にぺこりと頭を下げ、咲光と照真は建物にお邪魔する。
草履を脱ぎ、人の気配のする方へ進む。玄関をすぐ右へ進むと部屋が数室あり、その奥の部屋の襖が開け放たれていた。咲光と照真はその部屋へ足を踏み入れる。
「!」
大広間にはすでに人が集まっていた。
人数は恐らく数十名。数人ずつ集まって親し気に話をしている者もいれば、一人座る者もいる。全員が万所の者らしく、その光景に照真は驚く。
広間をくるりと見ていた咲光は、見知った人物を見つけパッと表情を明るくさせた。そして照真の袖を引く。何かと視線を向けて来る照真にその人物を示すと、照真も表情を明るくさせた。
逸る心を抑えながら、失礼にならないくらい急いでその人へ駆け寄る。周囲はそんな二人に気付き、行く先を見て少し驚いた表情を見せた。
「神来社さん!」
二人の向かう先に、この道へと導いてくれた恩人であり師匠がいた。
元気な呼び声に、総十郎の視線が向けられる。振り返って見えた二人の姿に、総十郎は少し驚いた顔を見せ、すぐにフッと笑みを浮かべた。
「咲光、照真。久しぶりだな。元気か?」
「はいっ!」
変わらない笑顔と元気な声。総十郎の笑みが深まる。
緊張していた広間の空気だが、そこだけ和やかな空気が流れていた。
「神来社さんもいらしてたんですね」
「あぁ。ちょっと手のかかる仕事でな。後で説明する」
「はい」
力強く頷く二人に、総十郎も頷きながら二人を見つめた。
(試しの時とは、やっぱりちょっと変わったな…。強くなった。初の共同任務、期待してるぞ)
頭には、鳴神からの報告がちらつく。それはまた聞かなければと思いながらも、今は再会が嬉しい。
そう思いながら二人を見つめていた総十郎の後ろから、ひょいと別の人物が顔を覗かせた。急な事と知らない人に、咲光と照真は驚いて体が固まる。
「あら? 神来社さんの弟子じゃない」
「日野。驚かせるなよ」
固まっている咲光と照真を見て、呆れ交じりの視線を日野に送る。が、当の日野は気にした風もない。
総十郎の知り合いらしいと思いながら、咲光と照真は日野を見た。腰に手を当てて堂々としている女性。
「こんにちは」
「こんにちは。今回はよろしくね」
「よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる二人を日野は見つめた。一方的に知っているが、対面するのは初めてだ。
「村雨咲光です」
「村雨照真です」
「私は、神来社さんと同じ、万所退治衆“頭”の一人、日野天音よ」
日野の自己紹介を頭に刻んでいた、咲光と照真の表情と動きがピタリと止まった。
目を点にする二人は、ギギッ…と機械仕掛けの人形のように視線を総十郎に向ける。と、なぜか総十郎の視線が逸れていく。気まずそうな表情だけが少し見えていた。
微妙な空気の三人に、日野はパチリと瞬くと総十郎を見た。
「言ってなかったの? 知らなかった?」
「………言ってなかった」
「……知りませんでした」
「何で言ってなかったのよ。別に言っちゃいけないわけじゃないのに。他の衆員は知ってるのに」
「!」
「あの時は、必要外の事は言わないようにしたんだよ。後々知るだろうし、鍛錬に集中すべきだと判断した」
日野の言葉に目を剥く咲光と照真だが、頭を掻く総十郎の言葉に徐々に頭が冷えて来る。
(でもそっか…。そうだよな。神来社さん、妖を一瞬で倒せる人だし)
(鍛錬つけてもらって、こうして戦うようになって分かったけれど、神来社さんは本当に強い…)
驚きはしたものの、思い至ることがない訳ではない。冷静になって二人も納得の表情が浮かんだ。
二人の表情の変化を見て取り、総十郎は少し眉を下げた。
「悪かった。言わなくて」
「いえ。多分、最初に言われてもよく分からなかったと思いますから」
「そうか…。組織構成は知ってたんだな?」
「はい。ここに来る前に鳴神さんと菅原さんって祓人に教えてもらいました」
「その様子じゃ、鳴神さんも祓衆“頭”だって言わなかったのね」
「!?」
呆れ交じりの日野の衝撃的言葉その二に、また咲光と照真が目を剥いた。




