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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第四章 霊祓い編

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第三十八話 特別な人間

 雑鬼ざっき達から貰った情報をひとまず整理し、菅原は一人頷いた。



「あの女性の霊はその娘さんで間違いないでしょう。“あの人”というのは相手の男性でしょうね」


「俺もそう思う。でも、その男の人はもう…。これからどうするんですか?」


「まずは、男の遺品か何か残っていないか探してみましょう。物には想いが籠りやすいですから。直筆の恋文でもあればいいんですが…」



 菅原は次の行動を考え終えると雑鬼達を見た。情報を渡し終えた雑鬼達は、コテンと首を傾げてその視線を見返す。



「その男の人の家がどこにあったか分かる? 家族か子孫はいる?」



 菅原の言葉に雑鬼達は顔を見合わせ、思い出すように腕を組む。むむ…と少し顔が険しい。

 数秒の後、沢山の記憶を再び掘り起こし終えたのか、パッと表情が晴れた。



「家族はいないと思うぞ。独り身だったみたいだし。親とか兄弟も見なかったなあ」


「家はもう取り壊されて残ってない。今は貴族の邸宅になってる」


「そっか…」



 菅原は顎に手を置き思案すると、またすぐ雑鬼達を見た。



「家があった場所分かる?」


「分かるぞ。仕方ないから案内してやってもいい」


「ありがとう。助かる」



 偉そうに言っても、頼られて嬉しそうな顔をすると、雑鬼はぴょんと土間に下りた。続いて別の二匹も下り、雑鬼代表の三匹に菅原と照真しょうまは道案内を受ける事になった。


 昼間の町の中を雑鬼と共に歩くという、なんだか少し不思議な体験をしながら、照真はちらりと菅原を見た。



(菅原さん。まだこの仕事一年ちょっとだって言ってたけど、そうは見えないくらいてきぱきしてて凄いな…)



 一年後、自分は同じようにてきぱきとしっかり出来ているだろうか。そう思ってももやもやとしか浮かばない未来像に、照真は「頑張ろ」と胸の内で拳を振り上げた。


 雑鬼に案内してもらった場所は、貴族の邸宅を囲む塀の前。ものの見事に何も残っていない。周りを見るが何も感じ取れない。



「見事に撃沈…」


「…全くです。じゃあ、娘さんの屋敷があった場所、分かる?」


「分かるぞ。こっちだ」



 今度は娘の屋敷があった場所へ。町の西を離れ、東側に。

 太陽も中天近くに差し掛かっている。いったん集合する事になっている昼に近い。空を仰いで確認し、照真はまた前へと急いだ。


 人々には視えない案内を受け歩いていた二人は、進む先に見慣れた二人組を見つけた。



「あ、鳴神なるかみだ!」


「おーい! 元気かー!」



 照真と菅原の前を歩いていた雑鬼達が、叫ぶや否や走り出す。


 先で立ち止まっていたのは咲光さくやと鳴神だった。突然自分を呼ぶ声に、鳴神は眉を下げて笑い、咲光は何事かと驚いたように振り向く。

 驚いている咲光などお構いなく、雑鬼達は走る勢いのまま鳴神に飛びついた。そのまま肩や腕によじ登る。

 好き勝手な雑鬼達に、鳴神は怒るでもなく「お前らなー」と呆れ交じりに好きにさせている。いきなりの事に驚いた咲光は少々唖然とする。



(初めて見る…。雑鬼にくっ付かれる人)



 呆気にとられる咲光の隣に、照真と菅原がやって来る。



「照真。菅原さん。これは…」


「雑鬼達。情報をくれて、女性の霊の生前の屋敷に案内してもらったんだ」


「ここがそうだぞ」



 照真の説明を継ぎ雑鬼が指を差したのは、何もない更地。咲光と鳴神が立っていたすぐ前だ。

 土と僅かな草が生えるだけの場所。何もない光景に照真と菅原も言葉を失くす。


 男も女も、もうすでに屋敷も残っていない。家族もいない。亡くなっているので当然かもしれないが、落胆はしてしまう。

 そんな人間とは違い、雑鬼達は元気で自由だった。



「鳴神、ちゃんと食べて寝てるか? 大きくなんねーぞ」


「ちゃんと食べてるし寝てる。ってか、もうデカくはなんねぇよ」


「うっわ。人間は成長早いなぁ。お前こーんなに小っちゃかったのに」


「それ米粒以下」



 ワハハと楽しそうに笑う雑鬼達と交わされる会話。昼間は休みの時間である雑鬼達だが、今はなんだか元気だし楽しそうだ。

 そんな目の前の光景を、咲光と照真はなんとなくじっと見つめる。



「もうちょっと顔出せよ。たまにしか来ないしさー」


「俺も忙しんだよ。分かってるだろ?」


「…そうだけど」


「俺達、悪さしないし、ちゃんと協力するぞ?」


「おぅ。今回もありがとうな」


「ちょっと前まで生意気だったのに、鳴神は成長したなあ…」


「お前らは親か」



 成長に涙しそうな雑鬼達に、やれやれと言いたげな鳴神だが、その表情は笑みに彩られている。

 なんだか親しそうな鳴神と雑鬼達に、照真と咲光はなんだか口を挟めず、菅原を見た。



「鳴神さんって、雑鬼と仲良いの?」



 二人の視線に、菅原は少し困ったような顔をした。



祓人はらいにんとしては、仲良しは良くないですね。無害とはいえ妖ですから。ただ、鳴神さんはあの雑鬼達とは付き合いが長いらしいです」


「そうなんだ」


「祓人の方々にはそういう方も多いの?」


「いえいえ。鳴神さんくらいです」



 とんでもないというように、菅原は顔の前で両手を勢いよく振った。

 それを聞き、咲光と照真は改めて鳴神を見た。その視線に気付き、鳴神は困ったように笑みを浮かべた。



「はいはい。お前らも戻れ。俺達はまだ仕事だ」


「はーい」



 ぴょんと素直に鳴神から離れる雑鬼達を少々意外に思いながらも、情報共有のため、一同はいったん宿へ戻る事にした。


 雑鬼達はそんな四人を見送る。退治人の少年が手を振ってくれ、同じように女性も手を振ってくれたので、嬉しくて大きく振り返す。そんな中で一匹が小難しそうな顔でむむっ…と何やら思案していた。




「何か、忘れてる気がするんだよなあ……」






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