表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第三章 遭遇編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/186

第二十話 お邪魔します

「なんでしたら、お手伝いさせてください。弟も私も畑仕事は慣れていますから」


「!? そんな事までっ…!」


清江きよえさんがお休みになる間、人手があった方が良いでしょう? お気になさらないでくださいな」



 そうと決まればと、早々に照真しょうまは畑に入る。「兄ちゃんもやるの?」「やらせてもらう」と子供達と仲良さげに話しながら、くわを振るい、雑草を取り除く作業を始める。


 申し訳なさそうにそれを見ていた清江だったが、子供達のすっかり不安もなくなり楽しそうな表情に、ホッと息を吐いた。そしてゆっくり咲光さくやを見る。



「本当に、ありがとうございます。ですがやはり、して頂くばかりでは申し訳ありません。何かお礼を…」



 決して無理強いするでもない、しかししっかりとした声音が紡ぐ言葉に、咲光も困った。

 礼を求めてはいない。子供達には同情するが、だから助けたいわけでもない。笑ってくれるならそれが一番。

 そう思う一方で、清江の言葉も解る。



(何か…何か…)



 本音を言えば、大根一本でもありがたい。野宿をする時には食べる物が欲しい。

 んー…と咲光が考えるのを見ていた末娘が、不意に咲光の着物を引いた。「ん?」と視線を向ける咲光をまっすぐ見つめる幼い瞳。



「おねーちゃん、おうちに来るの?」



 無垢むくな言葉に、清江と咲光はぱちりと瞬いた。一瞬固まる二人から離れた畑の中では、照真が子供達と畑仕事に勤しんでいる。

  末娘の言葉に、清江はぱっと表情を明るくさせた。



是非ぜひ! 是非そうしてくださいな。狭い家ですが、お越しください」


「…では、お言葉に甘えて、そうさせていただいて、よろしいでしょうか?」


「勿論です」



 ありがたい申し出だった。でなければ、今夜は野宿をする羽目になる所だった。

 余計な気遣いをさせてしまう所だったと咲光はホッと息を吐く。



「ありがとう」



 そう、末娘に伝えると、ニッと嬉しそうな笑顔を見せてくれた。そして、その笑顔のまま畑の中の兄と姉に向かって走っていく。

 土に足を取られないよう走る姿に、すぐに気付いた長男が駆け寄る。



「あのね、おねーちゃんが、おうちに来るって!」


「そうなのか? 良かったな、好子よしこ


「うんっ!」



 話はすぐに兄弟たちに広まる。照真もそれを聞き、咲光を見た。帰って来る頷きに、了解と頷きを返す。

 そしてまた子供達を見て、威勢よく告げた。



「それじゃ、夕暮れまで頑張ろう!」


「おー!」



 拳を上げる子供達に笑みを向け、畑仕事に勤しんだ。


 子供達との話は途切れる事もなく、一人ずつ自己紹介もしてくれた。

 長男の拓美たくみ。長女の夏子なつこ。次男の雄一ゆういち。三男の晴正はるまさ。次女の好子。母親と五人の子供で暮らしているそうだ。


 雄一と晴正は元気なやんちゃっ子で、すぐに夏子に叱られている。拓美はそんな下の子らに呆れているが、何か危なそうな時には誰よりも先に注意するしっかり者だ。



「雄一、晴正。鍬振ってる時は近付くな。危ないだろ」


「はーい」


「ねえ、照真さんはあのお姉さんと姉弟?」


「そうだよ。俺が弟」


「へー。兄ちゃんと姉ちゃんは何してる人?」


「旅してるよ。国中の色んな物を見に」


「すげー!」



 代わる代わる向けられる言葉はどれも好奇心に溢れている。どの言葉も微笑ましくて、照真も笑みが絶えない。


 今はまだ母との暮らしが精一杯な子供達。将来はどんな大人になるのだろうと考える。外に出ていく子もいるかもしれないし、皆で協力して暮らしていくかもしれない。

 この兄弟にとってお互いはどんな存在なのだろうと考えて、照真は自分の姉弟を想う。



(兄弟が多いって、やっぱりいいな。俺は姉さんと喧嘩した覚えないけど、居てくれるってだけで一人じゃないって思えるから)



 目の前の賑やかな兄弟の将来に、幸多からんことを。そう願いながら、照真は鍬を振り下ろした。








 太陽の昇るうちは畑仕事をし、日が暮れる頃に離れた家へ帰る。

 少し前の自分達と同じ生活。思い出しながら咲光と照真は清江宅にお邪魔した。

 活発な子供達には少々手狭そうではあるが、多少声を上げても周囲の迷惑にはならない、子供には良い環境でもあった。土間や台所、居間が広い一室になり、別に寝室がある造りになっていた。


 荷物を隅へ置かせてもらい、咲光は夏子と夕食作りに、照真は拓美と雄一と共に風呂の水汲みに向かう。日が落ちてきたので、照真は念のために刀袋を持って行く。

 そんな照真に頼もしさを感じながら、咲光はてきぱきと夕食作りを進める。その隣では手慣れたように夏子も調理をする。



「いつもお母さんとやってるの?」


「はい。お母さん一人じゃ大変だから」


「いつもありがとうね、夏子」


「ううん」



 目を細め、優しく娘を見つめる清江の眼差しに、咲光も夏子の日常を想い見つめた。


 帰って来た照真達と共に食事の席につく。たくあん、おひたし、豆を淹れた粥。質素な暮らしがうかがえる食事だが、笑いに溢れていた。

 


「兄ちゃん。明日町行くからさ、一緒に行こ!」


「町?」


「明日は、お母さんが作ってる竹籠とかを町に売りに行くんです」


「俺も一緒に行っていいの?」


「うん!」



 雄一の表情がパッと明るくなった。

 そんな雄一に、拓美はやれやれと肩をすくめた。



「俺は畑やるから。夏子、そっち頼むぞ」


「うん。照真さんも一緒に」


「ありがとう」


「じゃあ、私は拓美君と畑やるね」


「ありがとうございます」



 暗い空の下に灯る一軒の灯りの家は、夜遅くまで灯っていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ