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企画参加作品

密室で生死の果てにみたもの~或る老婆の独白~

作者: 山本大介

 堂々完結。


 July(受雷)に恋をしたのはいつの頃だったか。

 私は思いだせない・・・でも、ずっと昔から彼を愛していた。

 Julyがフットサルスタジアムでハットトリックを決めた日、私は告白しようと決めていた。

 試合終了のホイッスルとともに駆けだす。

 私はグラウンドの芝につまづき転んでしまった。

 顔をあげると、Julyに抱きつく女がいた。

 許せない・・・。

 なんなのあの女。

 私は惨めさと悔しさで頭の中がパニックになった。

 しばらくしてJulyが結婚したあの女とだ。

 チャペルでJulyの隣で微笑むあの女・・・本当は隣には私がいたはずなのに。

 私は号泣した。

 来る日も来る日も。

 Julyが家を建てたあの女との愛の巣。

 私は毎日、ご近所のふりをして家をのぞく。

 あの女と視線があった・・・笑顔で会釈なんかしやがって、余裕かよ。

 悔しい・・・悔しい。

 ある日、私は知らない内にJulyの家の玄関に立っていた。

「どなたですか?」

 女は尋ねてきた。

「泥棒猫」

 思わず、私は捨て台詞をはいてその場から立ち去った。

 女は困ったような顔をみせた。

 私は毎日Julyの家へ、あの女と何度も目が合う。

 見せる会釈に笑顔が癪に障る。

 来る日も来る日も。

 気付けばあの女は死んで、私もババアとなった。

 私の人生って・・・どうしてこうなってしまったんだろう。

 Julyが悪い・・・そうだ、Julyに復讐をしよう。

 愛するJulyの家で死んでやる。

 こうして、私はこれを生きる糧とし毎日、土を掘りトンネルをつくった。

 来る日も来る日も。

 私の何がそうさせたのだろう。

 そう、彼への愛・・・そうだ違いない。


 ついに念願が叶い、Julyの書斎へ。

 彼の家の間取りなんぞ、暗記しているわ。

「乾杯」

私は彼の空気を肺いっぱいに吸い込み、この世の別れとばかりに毒薬をワインで流し込んだ。

「サヨナラ」

 私は死んだはずだった。


 真っ白な世界の中、私の前には2人がいた。

 それは仲睦まじいJulyとあの女。

 見ていると馬鹿らしくなってきた。

「私って・・・」

 やがてJulyが消えた

 若いあの頃の女がこっちへやって来た。

 そっ。

 私の両手をあの女が掴む。

「美々さん」

「なによ」

「生きなくちゃ」

「いやよJulyを手に入れられなかったこの世なんて」

 あの女はあの時の困った表情を見せる。

 じんわり繋いだ手があたたかい。

「ねっ」

「・・・・・・」

「ねっ」

 こくり私は自然と頷いていた。



「はっ!」

 私は病院で目覚める。

 家族がいる。

 医者が言った。

「奇跡だ」

 と。


 ありがとうございました。

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