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8話

街道で車輪をとられ、斜めになっているのは乗り合い馬車のようだ。


その周りに見るからに野盗だという格好のゴロツキが集まっているのを見て、私はさらに馬を早めた。


「へっへっへっ、お嬢さんたち、金を出しな」


ギラリと光る大太刀を出した野盗に、馬車の中から悲鳴が上がった。



「キャーーーッ!!」


「いやーー!!!」


「変態!こっちへ来ないでーっ!!」


この乗り合い馬車の中に居たのは若い女性ばかり。

それぞれが恐怖のあまり大声で叫んだので、その声のデカさに馬車に踏み込もうとした野盗頭も思わずのけ反った。


「ったー!なんて声出しやがるんだ!耳がおかしくなっちまう!」


後ろに続こうとした部下たち数人も、あまりの声量にビビってしまって数歩下がった。


「ったく!お前ら大人しくしろ!」


悲鳴をやめさせようと、野盗頭は持っていた大太刀を振り回したが、


「「「「「イヤーーー!!!!」」」」」


余計悲鳴が大きくなったので、思わず手で耳をふさいだ。


だが、その時後ろでかすかに悲鳴と何かが倒れる気配がした。


「今度はなんだ!」


野盗頭が耳をふさいでいた手を離して後ろを振り返ると、そこにいたはずの仲間達が消えていた。


「何だ?どこへ行きやがった!!」


その時、野盗頭の目の端で金髪が舞った。



☆☆☆



「てや!!」


私は、走る馬から野盗の一人に飛びかかり、そのまま後ろから首に手をかけ引き倒す。


「ぐへっ」


無様な声を上げて沈んだ相手から離れ、驚いてる残りの連中の間を素早く距離を詰め、当身で沈める。


「がっ!」


「だはっ」


まだ他に残っていたゴロツキ二人は顔面を殴って無力化した。


「ぎゃぁ!」


「ほげぇ」


全部で5人、


「…残ったやつはいないな」


周りにいた雑魚を蹴散らすと、馬車内にいる頭とらしき男の方へ向かう。

相手は異変に気付いたのか、こちらを振り返った。


すかさず、鞘に入ったままの剣で相手の武器を弾き飛ばす。


「のわっ!」


相手が怯んだところへ懐へ入り即座に股間へ一発鋭く蹴りを入れる。


たちまち相手は白目をむき崩れ落ちた。


「……ふう」


野盗達を一掃すると私は息を吐いた。


魔物が相手なら即座に一刀両断している所だが、人々を襲う悪党であっても相手は人間だ。

父からはたとえ悪人であろうと命は奪ってはならないと教えられてきたので、剣は抜かずに相対したのだが、


「何とか血を流さずに制圧できたかな」


人間相手では魔物と勝手が違うので、力加減が難しかったが、殺さずになんとか倒せたようだ。


「お嬢様方、お怪我はありませんか」


私は馬車内にいた若い娘達に声をかけた。


途端に、固まっていた娘達がいっせいに歓声を上げた。


「きゃー!素敵!!」


「なんてお強いのかしら!!」


「まるで噂の"白き乙女"のようだわ!」


「いーえ、もっと凄いわよ!剣を抜かないで倒したんですもの」


「本当にあっと言う間だったわ!"白い乙女"よりこの方の方がもっと素敵よ!」


あっという間に、キャアキャア歓声を上げる娘達に囲まれてしまった。


「け、怪我が無いようでなによりです。わわ、その、すみませんが、馬車を直しますので、しばらく、お待ちください」


娘たちにもみくちゃにされながら、なんとか抜け出すと、私は馬車の前方へ向かった。

そこで気絶していた御者と、見習いらしき小僧がいたので、協力して倒した野盗達をまとめて縛り上げる。


「……くっそー、なんて女だ!」


縛られた野盗の頭らしき男が毒づく。

何人かは気絶したままだが、こうもグルグル巻きにしたら逃げ出す心配はないだろう。


御者と見習い小僧の二人の力を借りて、斜めになっていた馬車をなんとか立て直してみると、幸い馬車はまだ走行可能のようだ。


御者が外れかかった車輪を直している間に、このままケレシュへ引き返すか、オルドアに進むか聞いた。


「私としては、ケレシュに戻るのをおすすめしますが…」


私は控えめにケレシュに戻ることを提案した。


「馬車は無事ですし、このままオルドアに向かいたいわ」


「そう、国境を越えたら次の街は近いはずです」


「それに、早く行かないと、パレードが始まっちゃうわ」


聞くと、娘たちはオルドアの首都、ウィルナで行われるアンリ大公即位5周年を祝うパレードを見に行くらしい


「うーん、ケレシュの警備隊に野盗たちのことを伝えなければいけないから…、仕方がない、私が戻るか」


パレードを楽しみにしている娘たちに、今さら戻れなんて事は強制できない。先を急ぎたいが、ここは私がケレシュまで戻るか。

そう決めて行こうとすると、


「なら、オイラ行ってくるよ。姐さん急いでるみたいだし、ちょうどここに野盗が乗ってきた馬もいるから」


さっきまで泣きべそをかいていた御者見習いの小僧が言った。その隣には確かに鞍のついた馬といる。


「すまん、頼んでもいいか」


「いいって!助けてもらったんだもん、当然さ」


私はその小僧の言葉に甘えることにする。



ちょうど御者の修理が終わったようだ。

馬車の準備もできるのを待って、私は先に行くことを伝えた。


「あ、待って、もう行ってしまわれるの?」


「どうせなら、私達と一緒に来ればいいのに」


「それなら心強いわよね」


娘たちは残念そうに引き止めるが、私も先を急ぐので、丁重にお断りした。


馬を走らせ、もう居ないと思うが、街道の周りに野盗の残党はいないか注意しながら進んだ。


「今度は魔物が出ないといいが」


もうすぐ国境だ。



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