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5話


王宮を出た私は大通りの一角にある質店に居た。


勢いよく飛び出しては来たものの、よく考えたら、金をほとんど持っていない。

手持ちにある分では、菓子でも買ったら無くなってしまうくらいしかない。


なので、身に着けてきた宝飾品を売り払って、この先の旅の資金の調達しようと思ったのだ。

安全か街道を行くとはいえ、念のために新しく鎧や武器を買い揃えたい。


しかし、めったに着けないアクセサリー類をつけて来て良かった。

何も持ってなかったら、冒険者ギルドにでも登録して金を稼ぎながら行くしかなかったところだ。


私は、王都の中でも高級店の並ぶ通りの一角、昔から店を構える名の知られた質店に入ると、カウンターに、持っていた懐中時計や指輪などの宝飾品を置いた。


「これを鑑定してほしいのだが」


「はい、かしこまりました」


最初はにこやかに鑑定していた若い店員は

、時計に刻まれたエルラント家の紋章を見ると、慌てて奥の別室へ案内してくれた。


その後、鑑定に時間がかかっているのか、通されたVIPルームらしい個室には現在エルイース一人だけだった。


「ここなら、人目も気にせず見れるな」


私は先程ザインから手渡された包みを開けてみた。


小さいわりには重いと思ったら、中には古い年代の金貨が十数枚と、台座から外されたような宝石が数点、それと国王の#印璽__いんじ__#で封蝋された手紙が一通入っている。


私は手紙を開けた。



「エルイース、こんな事しかできない僕を許してください。僕が貴女にあげられるのはこんな物しかありませんでした。売り払って旅の資金にでもしてください。貴女には酷い扱いをしておいてのお願いは厚かましいと思ってます。ですが僕には頼れるのはエルイースしかいないのです。アンリ大公への書状、くれぐれも頼みます。 


レオル二世」



読み終えたエルイースは手紙を閉じた。


昨夜の事だ。


王都に泊まっていた私の前に、ザインが突然現れて、(夜更けに三階のバルコニーから急に現れたので、さすがに悲鳴を上げそうになった)明日の王宮での呼び出しの内容を、教えてくれたのだった。

爵位と領地の剥奪をユリウスが告げること、それが王命によることを淡々と話してくれた。


「しかし、ユリウスの使用人のお前が何故私にこんな話をする」


ユリウスの事だ、私に爵位と領地の剥奪という事を突きつけ、ショックを与えた所でざまあみろ!とかなんとか叫びたいんだろうと思う。

大体が幼稚な男なので、考えることは予想ができる。


「貴女は剥奪だと言われてもショックで打ちひしがれる人ではないだろう。むしろ、こんな私用に国王を使ったユリウス様と、ブレマン侯爵を実力で排除しかねない。そんな事になって、お前たちと敵対するのは避けたいし、第一、ユリウス様のためにもならん」


たしかに明日急に告げられていたら、爵位の剥奪よりも、私への復讐のためだけに国王を引っ張り出した事への怒りしかないだろうと思う。


しかし、すぐ力ずくでなんとかしようとする暴力的な女に見られてるのだろうか、ザインにそう思われてることの方がショックだ。


「それと、これを国王付きのメイドから託された」


そう言ってザインが差出したのは国王の印璽が入った手紙だ。


「…お前が国王と繋がりがあるとは知らなかったぞ」


「まさか。王宮での情報収集をしていて、妙な縁が出来たまでだ。確かに渡したぞ」


そう言うとザインは来た時と同じように闇に消えて行った。


「まったく、とんでもない事を告げてくれたな」


一人になると、さすがに爵位と領地の剥奪という内容は


だが…、ザインに渡された手紙に目を落とした。

その国王がわざわざザインに託して私に手紙届けるとは、どうした訳だろう。


部屋にあったペーパーナイフで手早く封筒を開けると、中にはさらに厳重に封がされた手紙が一通と、国王レオル二世からエルイース宛に書かれた便せんが一枚入っていた。


「この手紙をオルドアのアンリ大公に手渡す事、か」


中に書かれていたのは、国王からこの封がされた手紙を、隣国オルドアのアンリ大公に渡すようにという内容だ。

そして、エルイースの爵位と領地の剥奪を止められなかった事への謝罪の言葉が綴られていた。


「陛下…」


イクリツィアの現在の国王、レオル二世は若干13歳の若い国王だ。

おまけに病弱なので政務の一切は、宰相のブレマン侯爵が取り仕切っている。


私は国王の青白い顔を思い出す。

即位する前、まだほんの子供の頃に、王宮に父と呼ばれた時、王子だったレオル二世と話をする機会があった。

私が話す辺境での話を、目をキラキラさせながら、


「エルイース!もっと辺境の話を聞かせてください」


そう言って話をねだってくれた。

その頃は、こんなに早く即位するとは思ってもいなかった。

病弱な体をおして即位した時、一生かけてこの年若い陛下をお守りする、と誓ったのだが…。


便せんにはレオル二世の細い筆記で書かれている。


「………もうこの国は終わりです。だから、エルイースもうこの国には戻ってこない方がいいです。私はすべてをアンリ大公に任せようと思います」


この手紙をどんな気持ちで書いたのだろうか。

それを読んだ時に私の心は決まった。


イクリツィアを出ると。




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