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4話



「くっそーー!くっそぉーーーっ!!あの脳筋女め!また俺をコケにしやがって!」



エルイースが去った広間では、ユリウス・ビスコンティがまた悔しげに地団駄をふんでいた。



「大体、アイツはいっつもそうなんだよ!この俺を!この名門ビスコンティ家嫡男たる俺を!昔っからバカにしやがってぇえ!」



広間に残されたギャラリー役のユリウスの取り巻き達はヒヤヒヤしながらそれを見ていた。



「何かにつけて、クズだのヘタレだの、ドンくさいヤツをちょっとイジメてただけで木刀でぶん殴ってくるような粗暴な女だし、よく今まで婚約していたな、俺は。そう俺が偉い!あんな女と婚約していたこの俺が偉いんだ!うわーはっは!」



何故か勝手に気を取り直したユリウスを見て、どうなる事かと遠巻きに見ていた取り巻き達は、ほっと胸をなでおろした。



ユリウスはバカでクズのヘタレだが、立ち直りの早さだけは数少ない彼の良さの一つだった。


むしろ一つだけかもしれないが。



「しかしユリウス様、これでやっとレミーラ嬢と婚約できますな」



「そうですとも。お優しいレミーラ嬢ならまさに名門であるユリウス様にお似合いの相手ですよ」



「ようやく運命の相手に巡り会えたのですからな」



取り巻き達の言葉に、さらに機嫌を良くしたユリウスは、エルイースへ怒っていたことを忘れ、恋人のラギエ男爵家の令嬢のレミーラとのノロケ話しをしだした。



「ああ、その通りだ諸君!これで晴れて愛しのレミーラと結婚できると言うわけだ!レミーラはあんな筋肉女とは違って控えめで優しくて美しい、この俺にふさわしい相手だからな。この間もレミーラは俺にダイヤモンドで飾られた時計をくれてな、覇者たる俺にぴったりだと…」



そこから延々とレミーラ嬢がいかに美しく素晴らしいかと言う話になったので、取り巻き達はまたか、と少しうんざりした顔をした。



確かにレミーラ嬢はなかなかの美人だが、女神のような、と言われるエルイースの美貌にはかなわないような気がする。


そこらへんは好みの問題もあるのだろうが、性格もユリウスがいうほど良くは思わない、むしろキツイ、と取り巻き達は思っていた。



そこへいつ戻ったのか、ザインの姿が現れた。



「そうだ、ザイン。そのレミーラはどうしたんだ、せっかくならこの場にも来てほしかったんだが」



ユリウスは言った。



「レミーラ嬢なら、しばらく買い物に行くと言って出かけたはずですが」



ザインが答えた。



「またか!ああ、やっとエルイースを追い出せたんだから一刻も早くレミーラとの婚約を国中に知らせたいんだが…」



「ユリウス!」



その時一人の貴族の令嬢が広間に入って来た。ゆるい巻毛の黒髪に白い肌が目立つ、紫色のドレス姿に沢山の荷物を抱えている。


噂の男爵令嬢のレミーラだ。



「どうでしたの?あのゴリラ女にちゃんと婚約破棄を、伝えられまして?それと辺境伯の地位と領地も、なくした事」



買い物でできた荷物を、立っていたザインに押し付けて、ユリウスにしなだれかかりながらレミーラは言った。



「あんな武勇しか取り柄のない女、ユリウスにも辺境伯にもふさわしくないですもの。すべてを剥奪なんて、国王様はさすがのご明断ですわ。これから魔物相手に、冒険者として酒場でくだを巻いてるのがお似合いでしょうね」



オーッホッホ!と高らかに勝利の高笑いを上げるレミーラに、まさに悪役令嬢…と、取り巻き達は思った。



「ああ、まったくレミーラの言うとおりだ!いや俺も国王があっさりエルイースの爵位や領地の剥奪に了承したのは驚いたんだが…。辺境伯に、お前の父のラギエ男爵を据えることも成功したしな!それもこの俺の力と、叔父上の力があったからだ!レミーラ、感謝してくれるか?」



「勿論ですわ!さすがユリウス様です!イクリツィア一の男ですわ」



「そうだろう、そうだろう!うわーっはっはっ!!」



高笑いをするユリウスとレミーラは、お似合いの二人といって良かった。



その二人を離れた所でザインはじっと見ていた。



「ユリウス様、今季の新しいドレスまた買っていただけませんー?さっきの買い物でお小遣いなくなってしまいましたの」



「レミーラ、この前も買っただろう。もうドレスは必要ないのではないか?」



毎日のようにレミーラに物をねだられて、裕福な家の一人息子のユリウスでも今回は渋った。



「そうおっしゃらずにー…。ほら、この通りお願いしますわ」



レミーラは胸元にある不思議な文様に飾られたペンダントを握ってユリウスにお願いした。すると、



「………、うん、そうだな、まだまだお前にはドレスが必要だとも。買ってやろうではないか」



「まあ、ありがとうございますユリウス様」



レミーラが、にんまりと笑みを浮かべた。




ようやく広間からユリウス達が去り、広い室内にはザイン一人残された。



(レミーラ嬢が使ったあのペンダント…)



レミーラがペンダントを触った途端、ユリウスが態度を変えた。



(やはりあれは魔道具…、精神に影響をおよぼす呪物に見える)



異国から来たザインには、そういった怪しげな呪物に心当たりがあった。


レミーラの持つペンダントは、あきらかにユリウスに作用していた。



(魅了系の呪物か、しかもかなりの強力だ。前から怪しいと睨んできたが、こうもあからさまに使ってくるとはな)



美人であるとはいえ、見栄と肩書を異様に気にするユリウスが、急にこれまでなんの接点もなかった成り上がりの男爵令嬢にあそこまで入れ込むのは少し不自然だった。



ザインとしては、エルイースと主人のユリウスの結婚には少し無理があると思っていたので、婚約破棄自体には賛成だったのだが、



「このまま放置するわけにもいかんな」



ああもあからさまに呪物を使うレミーラを見過ごすわけにはいかない。


どうもレミーラ嬢は、邪魔だったユリウスの婚約者だったエルイースを排除できたので、調子にのっているようだ。



「ユリウス様に害がおよぶならば…」



すでにユリウスは、レミーラの底なしの物欲でかなりの物を買わされていた。



「レミーラ・ラギエ、生かしてはおけんな」



ザインは暗い目をして呟いた。





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