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2話


「エルイース様!ユリウス殿から何を言われたんです?!」


「あの男が王命などと言ってましたが…」


私が広間から出るなり、別室に控えていた部下が私の元へ駆け寄ってきた。


急に王宮に呼ばれたので、連れてきたのは年も近い、長めの灰色の髪の、冷静沈着さが売りのベルトランと、直情的な茶色の巻毛が特徴でアイザックの二人だけだった。

他の部下達は領地で魔物相手に、討伐や警戒にあたっている。


「二人ともよく聞け、王命により、私は辺境伯の爵位の権利、領地と屋敷や財産の一切を剥奪される事となった。よって、これから私は君たちの主君ではなくなったのだ」


「なっ?!そんな馬鹿な!そんな無茶はいくら王命でもありえません!」


「そうだ!横暴すぎる!」


私の話を聞いたアイザックとベルトランは猛反発した。

二人からしたら当然の反応だった。


敬愛するエルラント家次期当主で、先祖が国王より贈られたという魔法の白銀の鎧に身を固めるその美しい姿から、民衆から"白き乙女"とたたえられるエルイースが、何故急にそんなことを言われなければならないのか、納得できるはずはない。


「ああ、そうそう。それと、ユリウスとのも婚約破棄だそうだ、あいつがなんだか偉そうに言っていたぞ」


思い出したようにエルイースが告げると、


「爵位と領地を奪ったら婚約破棄とはわかりやすいヤツですな。まあ、あんなヘタレはエルイース様にふさわしくなかったので良かったですが」


元々部下たちはユリウスにいい印象をもっていないので婚約破棄についてはよかったと思ったようだ。


「…って、婚約破棄はともかく、問題は爵位と領地の没収ですよ!前代未聞じゃないですか!」


「正確には爵位を継ぐ権利だな。まだ私は父の跡を継いでいなかったから」


「同じ事ですよ!」


確かにアイザックの言う通り、普通は王命とは言え、正当な理由なく貴族の位を剥奪するのは無茶というものだ。それこそ反乱を起こされてもおかしくない。


「私が父の喪に服している間に、と言うことだろう。まあ、してやられた、という感じだな」


私は肩をすくめた。

今のエルイースの身分は、辺境伯の令嬢のままだった。十ヶ月前に、エルイースの父であるエルラント辺境伯が亡くなってから、慣例に習いエルイースは一年間の喪に服していて、それがあけてから爵位を継ぐ予定だった。

爵位がない立場上、国王とユリウスや後ろにいるブレマン侯爵にも強くは出ずらい。


あっさりと言うエルイースにくらべ、アイザックとベルトランの二人は納得がいかないようだ。


「だからといって、はいそうですかとすぐに受け入れられないでしょう。辺境伯の地位を他の親族の方に渡すというならともかく…」


「そうですよ!おかしいですよこんなの!受け入れちゃ駄目っすよ!」


そこにユリウスの部下であるザインが広間から出てきた。


ザインの姿を見るなりアイザックと、ベルトランの二人は詰めよった。


「ザイン、お前の主人が話したこと、詳しく聞かせてもらおうか」


「こんな事しやがって、ビスコンティはただですむと思うなよ!」


怒りのあまりアイザックはザインの胸ぐらを掴んでいる。


「二人とも落ち着け!ザインに当たっても仕方がないだろうが。こんな所で揉め事をおこすな、あちらに行こう」


さすがに王宮内の廊下で悶着を起こすのは体制が悪い。


事実扉の前に立っている衛兵が、オロオロとして、こちらを見ていた。

衛兵ならばこういった時には即座に止めに入るべきなんだが…、私はそう思いながら、近くにある控えの間に移動した。

他に人も居ないようなのでちょうどいいだろう。


「ザイン、お前この事についてどこまで知っている」


最初に口火を切ったのは冷静な方のベルトランだ。


「俺が知っているのは、例の男爵令嬢との事で、エルイース殿とは婚約解消したいとユリウス様がブレマン侯爵に相談した事がきっかけだな」


「やっぱり、あのバカ息子が成り上がりの男爵の娘と結婚したがっているという噂は本当だったんだな」


アイザックが吐き捨てるように言った。


私も噂で、ユリウスがその男爵令嬢と人目もはばからずにベタベタとしていると聞いていたので、婚約破棄と言われても驚かなかった。


そもそも、父が決めた婚約だからとクズでヘタレなユリウスと婚約をしていただけで、あちらから破棄と言われても、やっとバカの面倒をみなくてすむとほっとしたところだ。


「ああ、それがどうした訳か、エルイース殿の爵位と領地の剥奪という話になって、驚いたのはこちらも同じだ」


ザインはいつもの感情の読めない顔で言った。

だがこの男が嘘をつけない男だということは、今まで協力して魔物相手に戦ってきた仲なのでエルイースもアイザックとベルトランもよく知っている。

暗殺術を使うという恐ろしげな経歴に反して、ザインは意外にまともな男なのだ。


「ブレマン侯爵の意向でしょうか」


考えながらベルトランは言う。


「ああ、おそらくブレマン侯爵が欲しがっているのは、うちの鉱山だろうな。ザイン、新しい領主は誰が聞いているか」


私の問いに、ザインは思い出すように首をかしげた。


「確か、その成り上がりの男爵だ。名前は、…ラギエ男爵だったかな」


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