17話
さて、今日は大公に会う日だ。
「よし、気合を入れて行くぞ」
昨日は温泉を堪能しておまけにマッサージまで受けたから気力体力ともに充実している。
「大公がどれほどまでの男なのか見定めねばな」
イクリツィアに居る陛下のために。
とりあえず私は気合を入れるために素振りをする事にした。
「おはようございますエルイース様!……って、何をしてるんです??」
50回ほど素振りをしたところでリーリアが部屋に来たのだが、素振りをしている私の姿を見て目を丸くした。
「おはようございます、リーリア。何って素振りですよ。何しろあの大公に会うんですから気合いを入れとかないと」
「エルイース様ったら、決闘に行くんじゃないのに…。大公の姿を見てときめきとかなかったのかしら」
「ときめき……、ですか。いや、あの人間離れした目が合った途端、武者震いが走ったのは事実です。ですので気持ちで負けないよう、百回素振りしてからお会いしようと、思って、いまして!後30回!」
私は素振りしながらリーリアに答えた。
「はぁ、エルイース様には大公のハンサム具合も通じないのね、ピッピ」
「キュイィ」
リーリアが使い魔と呆れたように話す。
「リーリア、人間は顔の良し悪しで、良いか悪いか決まるもんではありませんよ」
「美人のエルイース様が言っても説得力がないですけど…。私だってエルイース様みたいな金髪が良かったし」
リーリアが不満げに自分の髪をいじって言う。
「そうですか?私はリーリアのその髪の色が大好きですが……」
「エルイース様が好きなのは私の髪の色じゃなくてお父様の髪の色じゃないかしら」
「んな!?」
リーリアの言葉に、私は素振りしていた剣を取り落とした。
「い、いやボルコフ卿が、というか、ボルコフ卿もリーリアの髪も素敵だと、思いって…」
「エルイース様はお父様がお好きなの?」
「な、な、な!私は、その、好きというかそ、尊敬をしてまして…、その…」
私はますます顔を赤くしてうろたえた。
ここだけの話、ボルコフ卿は私の初恋の相手だったのだ。
父の親友で、強くて紳士的なボルコフ卿へ憧れていたので、
「私を将来お嫁さんにしてください!」
なんて子供の頃に言った事をボルコフ卿は、忘れているといいのだが……。
そのボルコフ卿が、今は亡きリーリアの、お母上と結婚すると聞いた時には大泣きをして父を困らせたものだった。
そんな訳で、今でもボルコフ卿に優しい言葉をかけられると、ドギマギしてしまう。
(ボルコフ卿が今でも素敵だから子供の頃のようにときめいてしまって困る……、いやむしろダンディさが増してより格好良くなった気が…、な、何を考えてるんだ、私は!)
そんな顔を真っ赤にしている私にリーリアはギュッと、抱きついてきた。
「??リーリア?」
どうしたのかと、リーリアの頭をそっと撫でると、
「…エルイース様を大公の所へ行かせたくないわ。だって帰ってこない気がするんですもの」
「リーリア、そんな事ありません、私は…」
「大公のドラゴンの力は本物なの、エルイース様」
リーリアが、私の目を見て言った、
「だから怖いの。大公は絶対エルイース様を気に入るわ。そしたら手放さなくなりそうで…」
「リーリア、安心してください、必ずリーリアのところでへ帰ってくると約束します」
私は安心させるようにリーリアの頭を撫でながら言った。
「……本当?」
「ええ、エルラント家の名にかけて」
☆☆☆☆
午後になると昨日採寸したドレスが届いていた。
「……こ、これは胸元があきすぎなのでは?」
白くてふんわりとした素材のドレスは私の体にピッタリ合っていたのはいいのだが、ざっくりあいた胸元からは胸の谷間がまる見えで、私は赤面した。
「いーえ、これが流行りなんですよ。うん、サイズピッタリ!さすがは私!どうですか?このビジュー、エルイース嬢のイメージに合わせて昨日徹夜で一つ一つ貼り付けたんですよ!既製品の作り替えとはいえ、まったく新しい1枚!清楚さとエロさを兼ね備えた完璧な一着!これで大公もイチコロですね!」
ドレスを私に着せながら昨日採寸したチーフらしき若い女性リーダーが自信満々で私に話した。
確かに一日で作ったにしては素晴らしい出来ばえだ。
しかし、イチコロ?とは?なんだかおだやかな話ではない。
「……あの、素晴らしいドレスには間違いないのだが、べ、別に私は大公を誘惑するために会うのではないし、これは少し、恥ずかしいのだが…」
「あれ?私の受けたオーダーは、大公を虜にするような清楚さと女の魅力にあふれた一着、なんですがね」
「な?!だ、誰がそんな注文を……」
「これは素晴らしい!エルイース様、よくお似合いですよ」
そこへローレンスがやってきた。
「ローレンスさん!どうですかこのドレス!オーダー通りでしょう」
「ああ、ジルさん、さすがはオルドア一のドレスデザイナーです。このドレスでしたら大公も喜ぶと思いますよ」
「いやー、良かったです。もう少しセクシーにしようかとも思ったんですけど、それだとエルイース嬢の凛々しい魅力も失われちゃいますしこれくらいがベストかなあって」
和気あいあいとするローレンスと、ジルの後ろで私はワナワナと震えた。
「ローレンス殿!あなたがこのようなドレスを注文なさったのですか!これでは男をあさりに行く軽薄な女のようではないですか!」
「まあまあ、落ち着いてください。何もそんな深刻に考えなくても、これは大公の心象を良くするためのサービスのようなものです。それに、このドレスはそんなに軽い女には見えませんよ」
確かに言われてみれば、胸元は大胆だが、腰回りは上品で、そこから伸びるドレスの裾はむしろ清楚さを感じさせる。
鏡に映った私の姿は、思ったよりは下品には見えず、神々しくも見える。
「…すまない、ジル殿。あまりこういった露出の多い服は着ないので、感情的になってしまったようだ。素晴らしいドレスに感謝する」
「え?えー、気に入ってもらえたなら良かったです。んじゃ、後はアクセサリーやメイク担当が来ますんで、あたしはこれで。あ、エルイース嬢、今後ともご贔屓に~」
ジルはひらひら手を降って去って行った。
私とあまり年は違わないようなのに、デザイナーとしてトップと言われるとは、中々の傑物のようだ。
その後もメイクやら髪のセットやら、アクセサリー類を付けたり外したり、あっという間に日が落ちて、もう大公の所へ向かう時間だ。
「エルイース殿、用意は出来ましたかな」
ボルコフ卿が私を呼びに来た。
「ボルコフ卿、皆大げさです!まるでこれから輿入れするような騒ぎではないですか。私の格好などどうでもいいのに…」
慌てて胸元を手で隠して応対する。
「いや…、とてもお綺麗ですよ。貴女のお母上の婚礼の時も、こんな美しい人は見たことがないと思いましたが……、今のエルイース殿はその時より美しく見えます」
「ボ、ボルコフ卿…」
そう言われると何も言えなくなる。
「エルイース様、馬車の準備が出来ましたよ。さあこちらへ」
ローレンスに誘われて宿の前に停まっていた馬車の前に立つ。
「…また、これは、いくら大公の所へ行くと言ってもやり過ぎなのでは?」
馬車は8頭立てで、白地に金の装飾がなされた豪華なものだった。
「…こんなのは王家の婚礼でしか見たことが無いぞ。なんでまた…」
文句を言いつつも、馬車に乗り込もうとすると、見送りに来たリーリアの顔が不安気に歪んでいるのが気にかかり、彼女の所へ戻る。
「そんな顔をしなくても必ず戻って来ますよ。そして一緒にボルコフ卿の領地へ帰りましょう」
「……きっとよ、エルイース様」
リーリアの頭を撫でて馬車に乗り込む。
向かうは大公の居る王宮だ。
馬車が行ってしまうと、ボルコフは独りごちた。
「娘を嫁にやるような複雑な気持ちだな…。大公も無茶を言いなさる」
大好きなエルイースが行ってしまって、不満げな娘の方を見て、あることに気づいた。
「リーリア?お前の使い魔はどこへ行ったんだい?」




