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16話

「はあ………、疲れた…」


ドレスの採寸が終わって私はぐったりとしていた。

どうもああいった場でジッとしているのは苦手なのだ。

あまりにきっちり測るので、大体でいいのではと余計なことを言ったら、


「ドレスはフィット感が大事なんです!!じっとなさっててください!」


とチーフらしきメガネをかけた若い女性に、柳眉を立てて怒られてしまった。


「大公に会うためのドレスなんですから、1ミリのズレもなくピッタリさせないと!…急だからオーダーメイドって訳にはいかないですけど、明日までには必ず完璧のドレスを作り上げるので、大人しくしていてくださいね!」


「は、はい…」


あまりの迫力に、さすがの私も黙って採寸されることにした。

どうも大公の前に出すドレスだという事で、彼女たちは燃えているようだ。


(プロの意地と言う訳か、門外漢は大人しくしてよう…)


その後も、そんなところまで測るのか?と言うところまで測られ、終わったころにはぐったりと疲れてしまった。


(こんな事をするなら、オークの群れ相手に戦っている方が気が楽だ…)


「おや、お疲れのようですね」


長椅子でのびていると、通りがかったローレンスが声をかけてきた。


「ああ、ローレンス殿、どうもああいった事は苦手で……。魔物と戦っている方がマシです」


「慣れないことによる気疲れですかね。それにここまでの長旅の疲れも出ているのではないですか?」


「うーん、そうだろうか…」


そう言われると、なんだか肩や腰がこっているような気がしてきた。


「良ければ近くに疲れのとれる良い場所があるのですが、いかがです?」


「疲れがとれる場所ですか?」


気になって聞いてみた。


「ええ、オルドアの誇る温泉、スパ施設ですね。先月ウィルナに開店したのですが、なかなか評判がいいようで、特に女性におすすめですよ」



☆☆☆☆☆




ローレンスが教えてくれたスパ施設は素晴らしいものだった。


「湯につかるのがこんなに気持ちが良いものだとは、今まで知らなかったぞ」


オルドアで天然に湧き出すお湯をひいていると言う新しいスパ施設は、ローレンスの言うとおり女性が多く訪れているようだった。

様々な効能がある湯や、本格的なサウナに体の疲れをとる岩盤浴など、イクリツィアにはなかった温泉を存分に堪能してから私は宿に帰った。


「まだボルコフ卿たちは帰られていないんですか」


今日は前々から決まっていたという、親戚の伯爵夫人の所へボルコフ卿とリーリアは出かけていた。


「せっかくエルイース様がいらっしゃるのに、伯爵夫人の所なんか行きたくないわ」


外套をまとったリーリアは不満気だった。


「仕方ないだろう、前々から決まっていた事だ。こんな時でなければウィルナに居る伯爵夫人の所へは行けないし、お前に会うのを楽しみにしてるんだから」


「私もエルイース様と一緒にスパに行きたいのにー、伯爵夫人なんていーやー!」


散々文句を言っていたリーリアだったが、渋々伯爵夫人の所へボルコフ卿と馬車に乗っていった。


「ええ、夕食までには戻られるかと。伯爵夫人と言う方は話の長い方のようなので、もしかすると遅くなるかもしれませんね」


部屋で本を読んでいたローレンスが答えた。


「その顔ですと、温泉はお気に召したようですね。疲れはとれましたか」


「ああ、ずいぶんとさっぱりした。ああいったものがイクリツィアにもあればいいのにな」


「それは良かった。そうだ、もっと疲れをとるいい方法があるんですが、いかがです」


「いい方法?」


「ええ、マッサージです。我流なのですが、結構上手いと評判ですよ」


「マッサージか…」


そういえばスパ施設でもマッサージを受けている女性客は結構いたな、と私は思い返した。

確かに風呂上がりにマッサージは気持ちよさそうだ。


「この間もボルコフ卿が腰を痛めましてね、マッサージをしましたら大分良くなったとおっしゃってました」


「うーん、ではお願いできるだろうか」


「わかりました。ではこちらへどうぞ」


おそるおそる受けたマッサージだが、あまりの気持ちよさに気がついたら寝てしまっていた。


「………はがっ!す、すまん、つい寝てしまった」


寝顔を見られたのが恥ずかしくて慌てて起きようとすると、


「いえいえ、リラックスできて何よりです。やはり長時間馬に乗っていたからでしょうか、背中と臀部がこってましたね。血流を良くしたのでだいぶ楽になってると思いますが、どうでしょう」


確かに体が楽になっている、知らず知らずこっていたようだ。


「ローレンス殿はマッサージが上手いのだな。こういった技術を持った者が我が部隊にも居たら体力の回復も早まるだろうに…。いや、元部隊だが」


ふと時計を見るともうすぐ夕食の時間だ。


「もうすぐボルコフ卿も帰ってこられる時間か…、と、こんな格好ではまずいな」


今の私はマッサージを受けるのに手や足が露出した軽装だ。こんな格好ではボルコフ卿には会えない。


「エルイース様、しばしお待ちを、今付いた香油を拭き取りますので」


「あ、ああ悪い…」


おまけにマッサージで使った油まみれだ。


(もう一度温泉に入れたら最高なんだが、そんな時間はないか)


ぼんやりそんなことを思う。


「さて、これで大丈夫ですよ。お疲れ様でした。後で湯を浴びられるとよいかと」


「ああ、ローレンス殿。すまない、礼を言う」


「いえいえ、これくらいならいつでもしますよ」


ローレンスは微笑んだ。




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