11話
長らく放置していてすみません。
しかもまるまる一話ぶん抜け落ちていたことに気づかず…、この先不定期になりますか更新できれば、と思います。
私は大変なことに気付いた。
大公の即位5周年を祝うパレードに、忠臣てあるボルコフ卿も来ている可能性が高い。というか、よっぽどの事がない限り来ているだろう。
「早く早く!次は大公たちが演じる歌劇か始まっちゃうよ!」
「大公の他に誰が出るんだっけ?役者じゃなくて貴族がやるとか…」
「オルドアの諸侯たちが勢ぞろいするってさ、大公はともかく、他は歌えるのかねぇ」
「今からじゃ席が無いよー」
私の横を、演舞場の方へ急ぐ人たちが通り過ぎていった。
「諸侯たち…、もしかするとボルコフ卿も出ているかも…」
私が演舞場に着くと、そこは超満員、もちろん私の座る場所などなく、芝生の上に腰を下ろす。
すり鉢形になっている屋外演舞場では、今まさに歌劇が行われようとしていて、席にあぶれた人たちは、周りの芝生の上にも沢山座っている。
楽器隊の演奏が始まった。
演目は、数百年前、オルドアの英雄王が、山に巣食った悪しきドラゴンを退治するといった、オルドアでは広く知られた昔話だ。
もちろん主役の英雄王は、アンリ大公が演じていて、彼が登場すると、周りのからは一際大きな歓声が上がる。
今は戦いにおもむく英雄王が、婚約者に捧げる愛の歌をアンリ大公が歌い上げている所だ。
「アンリ大公は、歌も上手いのだな」
エルイースのいる芝生の上までアンリ大公の歌声が響いてくる。
歌だけでなく、演技も完璧で、古代の英雄王を堂々と演じている。
私が子供の頃に見た歌劇の、本職の役者よりも上手いんじゃないかというくらい舞台上のアンリ大公は輝いて見えた。
「しかし、ボルコフ卿はどこだろう、他のオルドアの諸侯たちは出演しているようだが…」
アンリ大公以外に舞台に上がっているのは、オルドアの諸侯たちらしく、かなり練習を積んだとみえるが、大公に比べると、硬さやたどたどしさが目立った。
それでも壇上で決めゼリフや、歌を披露するたび、やんやの歓声が上がる。
今もどこかの太っちょ貴族が、なんとか歌い終わると、客席から拍手と「いよっ!我らが大将!」と声が上がった。
「イクリツィアでは考えられない光景だ」
客席の声に笑顔で応える太っちょ貴族を見て、私は思った。
もし、イクリツィアで諸侯による歌劇が行なわれても、こんなに歓声と拍手はあがらないだろう。
オルドアでは、こんなにも貴族と市民との距離が近くてうらやましさがある。
「絶対、ブレマン侯爵やユリウスが壇上に立っても拍手なんかあがらんぞ」
ユリウスなんか出てきた途端、物が飛んできそうだ。
その場合、ブレマン侯爵あたりは金で観客を買いそうだがな、と私は苦々しく思った。
気がつくと、歌劇も終盤にさしかかったようだ。
壇上では、大公演じる英雄王が、強大な力を持つドラゴンと対峙する所だった。
「結局、ボルコフ卿の姿は見えなかったな…。卿のことだから、裏方に回っているかもしれないが」
久しぶりにボルコフ卿の姿を見られると思っていたのに残念だ。
「いかん、劇が終わる前に行かないと…」
私は芝生を立った。
演舞場の方では、山場を迎えているようだ。
私は舞台近くの、馬車が停留されている場に居た。
ここには、出演している諸侯の馬車が集まっている。
あたりはすっかり日が落ちて、魔法の光で照らす街灯が、淡い光を放っていた。
しばらく暗がりに目を慣らすと、停留している馬車に飾られた諸侯の紋章が
見分けられた。
それを一つ一つ確認して見て回る。
オルドアの貴族についてはあまり詳しくないので、どれが誰のやら分からないのだが、しばらく歩くと目的の馬車
は見つかった。
見覚えのある紋章を掲げた馬車の前に
立つと、懐かしさに胸が熱くなるのが分かる。やはり歌劇に関わっておいでだ。
演舞場の方でどっと歓声が上がった。
もう歌劇も終わりが近い。ここで待っていたら、ボルコフ卿に会えるだろう。
私はにわかに緊張した。娘同様に可愛がってもらっていたとはいえ、もう数年は会っていない。会えたとして、私だと気付いてもらえるだろうか。
「そこで何をしているんです」
暗がりで立っていると、鋭い声が飛んできた。




