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10話


「なるほど、これはすごい人出だ」


オルドアの首都、ウィルナに着くと、そこはものすごい人であふれていた。


私は集まった人にもみくちゃにされながら前に進み、ようやくパレードが見えそうな所にたどりつく。


(なんとかパレードに間に合ったな、噂のアンリ大公の姿、この目で確かめてみたい)


ウィルナの大通りは、人で埋め尽くされていて、後ろから、自分もパレードを見ようという人の圧でギュウギュウ押されるが、エルイースは踏ん張って耐えた。


「くっ、なかなかの圧だな、だが私ならまだ耐えられる…、っ大公はまだか!」


後ろから押されながら、なんとか耐えて、通りの奥に目をやってパレードの行軍がまだ来ないか確かめる。


その時、遠くから地鳴りのような歓声が上がった。


それは伝染するようにこちらに伝わってくる。


「大公だ!」


「アンリ様がいらっしゃった!」


「大公陛下ー!!」


見ると、通りの奥に影が見える。パレードが来たのだ。


音楽隊に先導されながら、パレードの行軍はウィルナの大通りをゆっくりと進んんでいる。


「アンリ大公!」


「アンリ様ーー!!」


「大公万歳!!」


集まった人々は、口々にアンリ大公の名を呼んで手を降っている。


引かれた台車の上で着飾った娘たちが撒く花びらが舞う中、一際高く豪華に飾られた台車の上から、この国の大公アンリは、集まった人たちに手を降っていた。


(来た!)



先導の音楽隊と、何台もの豪華な台車が目の前をすぎて行き、私の目の前に、大公の乗った台車が現れた。


「大公!」


「アンリ大公万歳!!」


一気に周りの熱量が上がるのが分かる。


現れた大公は、オルドアの国花を白い花でできた花冠で頭を飾り、堂々とした姿だ。


年の頃は確か24、5のはず。


花冠が飾られた髪は、人間離れした、金属のような光沢を持った金髪、こちらに目を向けた目の色は、


(!!あの色は一体…?!)



遠い台車の上に居ても、視力の良い私にはその目の色は見えてしまった。


光によって七色に色を変えていくプリズム、オルドアで採れるオパールを思わせる色だ。


その瞳が合った気がして、一瞬体に戦慄が走った。


あっという間に行ってしまった


華やかなパレードの行軍はまだまだ続いてるが、私は大通りを離れた。


「あれが、ドラゴンの力を持つというアンリ大公か…」


目が合ったと思った時には、強大な魔物と対峙した時と同じような、いや、もっと根源的な恐れによるものの震えがきた。


「ドラゴンの力を持つかどうかは分からないが、確かに人間離れした人のようだ」



まだ続いてるパレードの狂騒と、ウィルナよ町中を飾られた様子を見て、私は呟いた。


大通りから離れて歩いていると、道の先の広場の方から、いい匂いがただよってきた。


ぐうぅ~~~っ。


その匂いを嗅いで、私の腹が鳴った。


かなり大きな音を立てて鳴ったので、さすがの私も恥ずかしくなって、誰かに聞かれてないか、周りを伺ってしまった。


だが、出店からの呼び込みの声、遠くから聞こえる鼓笛隊の音、少し離れた所で行われている曲芸や人形劇の声に、人々の喧騒も加わって、私の腹の音などかき消されたようだ。


「ち、昼食がまだだったせいだ。そうだ、せっかくだから食べていこう」


あまりこういった祭りの出店で食べた事は無かったので、私は少しワクワクしながら、人々の列に並んだ。


私が並んだのは、串焼きの肉を売っている店のようで、並んでる間もいい匂いがしてくる。


しばらく並んで、ようやく私の番になった。


店先にはずらりと焼き上がった肉やソーセージが串に刺した状態で並べられていて、どれにするか悩んでしまう。


一つ貰おうとしたが、脇から他の客達が、金も払わず持っていくのを見て驚いた。


「ご主人、良いのか?皆金を払わず持っていくぞ」


「いいんだって!今日は出てる出店の物はみんな無料ただだ!金なら大公殿下からしっかりもらってるからいいんだよ!おっと、お嬢ちゃん、一つで良いのかい?」


「そ、そうなのか…。ではこれと、これも、これも頂こう」


「はい、まいど!あっちにゃ珍しい菓子の出店もあるよ!」


「め、珍しい菓子だと…」


両手に肉やソーセージの串焼きを数本ずつ持ちながら、私はゴクリと唾を飲み込んだ。


アイザックやベルトランといった親しい部下たちにはバレバレなのだが、私は菓子には目がない。


なんなら、食事の代わりに菓子だけを食べて済ますことがあって、ベルトランには怒られていた。


「…珍しいと言っていたからな、どんなものか見るだけでも見てみるか」


その前に、先に手に持った串焼きを急いで食べることにしよう。


立ち食いなんて行儀が悪いのだが、見る限り、広場内に作られた席はすべて埋まっている。


私は仕方なく立ったまま食べる事にした。


焼き立てで、塩と胡椒がきいたものや、タレの香ばしいもの、ソーセージは肉汁があふれていて、どれも抜群に美味い。


これだけでも数十本は食べれそうだが、やっぱり菓子の方が気になる。


店の親父が言っていた方へ向ってみると、さらに人出が増えてきた。


こちらは子供たちや女性が多く集まっているようで、あたりはいっそう賑やかだ。


店の方から、甘い匂いがこちらまでただよってきている。


カラフルに装飾された菓子が飾られている出店が並んだ先に、一際人を集めている店があった。


「???あれはなんだ?果物、なのか?」


店の前には、苺やオレンジ、葡萄と並んで、見たこともない色鮮やかで不思議な形をした果物も並んでいる。


並んだ人たちの手には、次々と、カラフルに果物でトッピングされた、まるで雪のような菓子が渡っている。


「これが、さっき言っていた珍しい菓子なのか」


私の手にも店員から、その雪のような菓子が渡された。


数種類から選べたが、あえて黄色のものにしてみる。


恐る恐る口に入れてみると、


「つ、冷た!!甘い!なんだこの美味しさは」


口に入れると、その冷たさに驚いた。


氷でできた菓子だ。


その氷の中に、たっぷりと冷たい果肉が入っていて、噛むと口いっぱいに果物の甘みと酸味が広がる。


「トゲトゲの爆弾みたいな見た目だと思ったが、美味しいな、これ」


菓子の上に飾られた、輪切りに、された果物をつついた。


店に飾られたその果物を見たときは、爆弾みたいな見た目なので、味はまったく想像できなかったが、予想以上に美味しい。


「確かにこの氷の菓子は珍しい上に美味いな、…よし、次は苺にしてみるか」


あまりの美味さに、二杯目ももらったが、調子にのって食べていたら頭がキーンと痛くなってしまった。


「…あんまり冷たいものばかり食べるとのも体に毒か、よし、次だ」


まだまだ菓子の出店は並んでいる。


クリームがあふれんばかりに挟まれた焼き菓子や、オルドアでよく採れるというベリーをふんだんに使ったタルト、クリームがたっぷりのったワッフル、中身がたっぷり入ったアップルパイなどなど、エルイースは片っぱしから食べていった。


「はっ!気がつけばこんな時間じゃないか、早くボルコフ卿の所に行かないと…」


チョコレートがかかった果物を食べていると、もう日が傾きはじめていた。


胸元には、レオル二世に託された手紙が入っている。


パレードを終えたアンリ大公は、ウィルナのどこかには居るだろうが、イクリツィアの爵位を無くしたただの小娘にすぎない私がおいそれと会える身分ではない。


着飾って町中に立っているオルドアの兵たちは、礼儀正しいながらも、厳しい顔を崩さず、集まった人々を見ている。


エルイースにはそのたたずまいから、兵たちが並の訓練を受けてるだろうという事が分かる。


腑抜けたイクリツィアの兵に比べると雲泥の差だ。


アンリ大公の周りには、がっちり警護の兵たちがついているだろうし、そんな所にノコノコ行ったとしても、最悪危険人物だと思われて牢屋に繋がれるかもしれない。


大公が即位するまでには、血生臭い出来事が続いたので、いまだに警護は万全だと聞く。


先程のパレードでも、見えない所であたりを警戒する兵や、魔道士の姿が確認できた。


なので、ボルコフ卿の方から大公へ、取り次いでもらおうと思ったのだが…。



「ん?ボルコフ卿も来ているのでは?」



10話までなんとか投稿できました


書いてたストックが切れましたが、なるべく一日1話投稿したいと思うので、よろしくお願いします


ブックマークと評価ありがとうございます!

気が向いたら評価など押していただけると嬉しいです!


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