プロローグ『頭脳』
この作品は長く続いたらいいなと思いますっ!!よろしくお願いします。
冒険者ギルド。
そこはいつも活気にあふれている。依頼をしに来た者、報酬をもらいに来た者、パーティーを募集しに来た者。あるいは自分の武勇を語りだす者、ボロボロになって帰って来る者もいる。冒険者ギルドは、いわば一つの国だ。どこにも属さず、いかなる権力にも屈しない。『自由』、それこそが理念であり、またそれを求めるものが冒険者となってゆく。今では世界に100以上の支部を持ち、それぞれで自由に活動している。
冒険者を志す者は多い。しかしその多くは、迷宮に入ることすらなく、また魔物を直接見ることのないまま辞めていく。
いや、多くの支部ではそんなこともない。この王都にある、世界最大規模の冒険者ギルドだからこそか。
ランジェル王国王都冒険者ギルド、通称『原始の灯火』。
鍛え抜かれた精鋭のみで構成される、自他ともに認める最強のギルド。もっとも、最初から精鋭ばかりを集めてきたわけではない。灯火に入ったら強くなる。否、強くならざるを得ない。
その強くなる過程において、実に7割もの人が、厄災級の魔物と鬼のような教官に心を折られ辞めていく。しかしそんな試練を乗り越えた先には、新しい自分が、強くなった自分が待っている。そんな希望をもって、今日も新人冒険者たちはギルドの扉をくぐっていく。
♢ ♢ ♢
「おめでとうございます!これで第三階位へと昇格になります!!!」
冒険者ギルド『原始の灯火』の一角、一人の少年が昇格を果たしていた。第三階位といえば新人を卒業し、ようやく一人前として認められるようになるほどである。彼が3ヶ月前に登録したことを考えると、かなり速いペースで実力をつけていることがわかる。
「よしゃああああああ!!!」
人目を気にせずに叫ぶ少年を、ベテランたちは温かい目で眺めている。自分たちもあんな風に喜んだものだ、と、過去を懐かしんでいる者もしばしば。
彼らは知っているのだ。ここ、『原始の灯火』で一人前と認められることがどれだけ大変か。それこそ、他の支部で第五、六階位を目指すほうがよっぽど楽だ。
灯火の名はそれ程に重い。故にそれにふさわしいだけの態度も求められる。
「先輩!!」
その少年が先輩と呼んだ人物、冒険者として彼を指導し、導いた人物。
『闘神』グランド・ラウルゼアス、冒険者ギルド『原始の灯火』第八階位。ランジェル王国最強の一角。筋骨隆々の肉体に、視線だけで人を殺せそうな鋭い目つき。さらには全盛期に龍と戦ってできた大きな傷跡が左目のすぐ横に走っている。
「先輩!ついに第三階位になりました!!」
受付から離れた彼は真っ先にお世話になった先輩のもとへ向かう。
「ああ、見ていたぞ。これでお前も一人前か。これからもよろしく頼む」
そんな口調とは裏腹に、どこか探るような視線を向ける。少年はそんなことに気づいていないからか、
「はい!!こちらこそよろしくお願いします!!!」
と、満面の笑みで答えた。それを見てグランドの視線がふっ、と緩まる。
いつになく優しい、それでもってどこか遠い目をしながら少年に声をかける。
「よかったよ、お前が礼儀がなっているやつで」
「???どういうことですか?」
「昔いたんだよ、無駄にプライドが高い奴が。階位が上がったからって自分が偉くなったと勘違いしてな。自分の恩師に歯向かい、挙句の果てに殴りかかったんだよ。いやぁ、大変だった。俺もそのころには第七階位だったからな、ギルドも半壊して、もんのすごい額の賠償金を支払わされた」
「って、先輩だったんかい!!」
少年が思わず敬語を忘れてしまうくらいに信じられない話だった……いや、意外とありえる?
「で、その後どうなったんです?確か第七階位になったあたりが全盛期だったんですよね?」
ここの王都、実は再建だったりする?~王都壊滅の原因:闘神グランドの反抗期~とかだったりする?とか、少年は案外まじめに考えてたりする……
「ボロ雑巾にされた」
「はい?」
「だからボロ雑巾にされたんだって」
「いやいやいや、そんなことないでしょ」
全盛期より衰えた今ですら最強とまで謳われているのだ。そんな彼が最も強かった時期に抑えられるものなど…………
「アイガ・ホークラウト、って知ってるか?」
「はい?まぁ。あの伝説の勇者パーティにいた人ですよね?」
少年もそのことはよく知っている。
今から40年ほど前、魔王、と呼ばれる存在に立ち向かった者達。
この世で唯一魔王を倒せる存在であり、聖剣を操る『勇者』。
単騎の持つ力は最強クラス、剣の腕では勇者をも凌ぐとされる『剣聖』。
圧倒的な殲滅力と世界最高の魔法使いと称される『賢者』
教会一の回復力と支援力を持つ『聖女』
そして、驚異的な頭の回転とその智謀から勇者パーティーの頭脳とまで称された男。
「『戦場之支配者』俺らはそう呼んでる、俺の師匠に当たる人物だ」
「そうなんですか……って、師匠!?」
「そうだ。もっと言えば勇者パーティーのメンバーの保護者でもある」
「えええっ!?」
驚きの連続で呆然とする少年。階位が上がったことなどとうの昔に忘れ去られている。
「でも、アイガさんって『頭脳』だったんですよね?どうやって指導してたんですか?」
彼が疑問に思うのも無理はない。勇者ともなれば並の冒険者では、それこそグランドと同等でないと向き合うことすら困難なほどの実力の持ち主である。
勇者パーティーといえども『頭脳』である以上、直接的な指導は不可能では?そう考えるのももっともなのだが、
「師匠は弱いから『頭脳』なんじゃねえよ」
そう。あまりにもーーーー
「強すぎるから『頭脳』なんだよ
」