不思議な少年
食料庫で発見されたのは、まだ成人する前といった少年だった。
黒髪に茶色の瞳、どこか遠い異国の地が浮かぶ。
おろおろとして、ひどくうろたえた少年に逃げる気配はなく、あまりにも怯えていたので少年に向けた刃は下げた。
城の警備は滞りなく万全で、猫一匹でも入城すればわかるほどで彼の存在はどうにもおかしかった。
誰にも知られずに城に入り、どこを打ったわけでもなさそうなのに記憶がなかった。
時折、訳のわからないことを言っていたが、記憶喪失でそうなったのだろうと医者の診察結果だ。
余計な刺激は与えずまずは落ち着いてもらった方が良いでしょうという医者のアドバイスに従って、牢屋にはいれず客室での軟禁状態となった。
騎士団長と共に陛下オーグスト様と王妃フリーズ様がやってくる。
ソファに座らせられたまま動かない、そんな少年をみて、フリーズ様はにっこりと微笑まれると少年に驚くことを言った。
「フィンの従者としてここで働かないかしら?」
騎士団長もオーグスト様も固まった。
不法侵入の、身元すらわからない、性格もわからない人間を王族が住まう城に雇うだけでもどうかと思うのに従者となれば言葉を疑う。
「………………………」
少年は何も言わない。
「そうね、お試しで1ヶ月間はどうかしら。要望があれば対応するわ」
誰も止めず、何も言わないのでフリーズ様が一人喋り続ける。
「フィンっていうのは私の息子で王子なの。きっと、あなたなら仲良くなれると思うのよ」
少年は宙を見つめながら口を開く。
「三食、おやつと寝床付きなら」
なんとも大胆というか、しっかりとした要望だ。
こちらはこちらで言葉を疑うような台詞である。
「それだけでいいの?じゃあ、明日からよろしく頼むわね」
のほほんとフリーズ様はいってのけて、少年と握手をして、固まったままのオーグスト様と騎士団長を連れて応接室を出て行った。
少年を雇うことに反対する者が多かったが、フリーズ様は城の警備が万全であるならスパイはありえない、なによりも、あの子は何もかも諦めてる目をしていて放っておけないと意見を一蹴し、全てはお試し期間が過ぎてからということになった。




