表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

9)再来を待つ家族

 少年がこなくなった後、死んだ息子ジャックが16歳になる年を迎えた。年上だという名乗らない彼は、何歳になったのだろう。年齢も聞いていなかった。

いつもどおり、村の者ではない男が、死んだ息子の給金を持ってきた。

「今年で16歳だ。最初にこちらから伝えたとおりだ。まぁ、これで、あいつが少しは気が楽になったのか、俺にはわからんがな」

男の言葉の意味がわからなかった。

「聞いていなかったのか?」

それに続けた男の言葉に驚いた。


 あの生き残った少年は、自分の給金はいらない、子供を失った親に死んだ子供の給金だと言って、自分の給金から払ってくれといった。使用人は、食事や衣類を支給される。それだけでいいと彼は言った。死んだ子供は5人だった。最初、その話は、誰もまともに取り上げようともしなかった。

 だが、あの少年の生き残ったという罪悪感を軽減するためなら、彼を死なせないために、枷となるだろうということで、彼の主の父親は、少年の申し出を受け入れた。支払いはライティーザ王国で成人したとみなされる16歳まで。だから彼は、これからずっと先、死んだ子供の給金をその親に支払うために、主に仕え続けるのだ。

 そのために、死ぬことは許されない。


「そうでもしないと、死にそうだったからな。もっとも、今でも無茶ばかりしているそうだが。この家には年1回きていたというから、あなた方だけは知っているかと思ったのだが、やはりか」

男はため息をついた。

「この話、聞かなかったことにしてくれ。あなた方にも内密にしていたのなら、あいつは知られたくなかったんだろう。頼む。忘れてくれ」

一応、男の言葉には頷いておいた。だが、忘れられるものじゃない。結局妻には話してしまった。妻は大泣きした。

「どうして何も言ってくれなかったの」

言えないと言って名前も名乗らなかった少年が、自分の先の給金まで使って自分たちに、死んだ息子の給金を届けていたなんて、思いもよらなかった。落ち着くまでは来ないといった少年に、礼を言える日はいつくるのだろうか。


 ある年、ジェフが天井を見て首を傾げた。

「なぁ、父ちゃん、おれ、父ちゃんより背の高い人に、肩車してもらった?なんか、どう考えても、父ちゃんだと高さ足りないんだけど」

 妻と顔を見合わせた。

「えぇ、あなたの亡くなったお兄さん、ジャックの年上のお友達だった人よ」

「そういや、あいつ、最初から背が高かったけど、あっさり俺を抜かしたな」

「ねぇ、その人名前は」

「わからないわ。教えてくれなかったの。あなたもジャックの手紙を見てみる?そこに書いてあるRという人が、あなたに肩車してくれた人よ」

「その人、なんで来ないの」

「お仕えしているご主人の都合だって言ってたわ」

「へぇ。なぁ、ジャック兄さんの奉公先の屋敷って、王子様いたところだろ。王太子様になったっていう」

「そうよ」

「ジャック兄さんって、殺されちゃったっていうけどさ、その人大丈夫かな?兄さんみたいに殺されちゃったりしないわけ?」

妻と顔を見合わせた。

「王太子様には、背の高い腹心がいるっていう噂がある。俺と母ちゃんはその腹心ってのが、お前に肩車してくれた人じゃないかと思ってるけどな」

亡くなったジャックが慕っていたあの少年が、王太子の腹心だったら嬉しいから、そう思いたいというだけでもある。

「会ってみたいなぁ。なんか、優しかった気がする」

ジェフは天井を見上げた。

「あそこの梁さ、あの梁に触りたくって手伸ばしたら、持ち上げてくれたんだ。ほら、あれ、多分、俺の手形」

見上げた梁に、小さなの手の痕があった。

「なんか、会ってみたいなぁ。ちゃんと覚えてないもん」

「そうだな。いつになるやら」

また来てほしいといった妻の言葉に、あの少年は礼をいっただけだった。

「今頃、何をしているんだろうな」

幕間のお話にお付き合いいただきありがとうございました。

評価、ブックマークくださた方々、大変励みになっております。

ありがとうございます。


この後も、本編でお付き合いいただけましたら幸いです


5月11日10時からも、幕間の更新予定です。

王太子宮で暮らすようになった頃の、アレキサンダーとロバート(を見守る男)のお話です。


「マシューのチキンスープ」https://ncode.syosetu.com/n8480gw/

題名とリンクを追記しました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 頭が痛くなるほど本気で泣いてしまいました・・・。 まだ第一部しか読み終わってないのですが、本当に未来は幸せになってほしいと思う(泣)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ