表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

4)鏡の中の自分

「アレックス、お目覚めでしょうか」

翌朝、いつもと変わらぬロバートに起こされた。

「あぁ」

アレキサンダーは、昨日のことを思い出した。謝らなければと思ったが、これまで通りのロバートに拍子抜けした。

「御着替えはこちらに用意してございます」

一礼すると、ロバートは出て行った。普段と何ら変わらなかった。


 アリアが死んだのは夢だったのかと思いたくなるくらい、ロバートはいつも通りだった。


 謝りそびれてしまった。

アレキサンダーは己の不甲斐なさ、意志の弱さ、昨夜決意したことすら実行できなかったことをひたすらに反省していた。ロバートが用意した服に袖を通しながら、鏡の中の自分をアレキサンダーは見た。鏡の中のアレキサンダーも、いつもと変わりなかった。アリアが死んだ悲しさも、ロバートを詰ってしまった後悔も、謝罪しそびれたばつの悪さも、鏡に映ってはいなかった。いつも通りの顔をして、服を着ているだけだ。唯一違うのは、髪の毛を結ぶリボンが喪を表す黒であることだろうか。

 ロバートも黒いリボンで髪を結わえていた。


 いつも通りの朝のようだが、アリアが死んだのは事実なのだ。

「大丈夫だ。アリア。あとでちゃんとロバートには、謝る」

誰も聞いていないことを承知で、アレキサンダーは鏡に向かってしゃべった。小さなころ、ロバートと沢山喧嘩をした。いたずらもした。そのたびにアリアに言われた。

「ごめんなさいと、ありがとうは、とても大切な言葉ですよ。謝るときはきちんと謝りましょうね。お礼も言わなければ相手に伝わりませんよ」

 大人になっても忘れてはいけませんと、アリアは繰り返し言った。

「大丈夫だ。ちゃんと謝る。ロバートが許してくれるかはわからない。でも、悪かったのは私だ。お茶の時間に謝るよ」

 

 どこにもいないアリアにアレキサンダーは言った。多分、いつもどおり微笑んでくれたと思う。アリアは優しい。優しいアリアは、アレキサンダーとロバートの仲たがいなど望まない。優しいアリアも、ロバートも、アレキサンダーは大好きだ。家族でないことは分かっている。だが、家族同様の大切な人たちだ。

「酷いことを言った私が悪かった。だから、ちゃんとロバートに謝る」


だが、結局、アレキサンダーは謝罪する機会を失うことになった。


幕間のお話を読んでくださっている方々、ありがとうございます

お楽しみいただけていますでしょうか?


ブックマーク、評価も、本当にありがとうございます。

本編で、時折出てくる過去のお話です。 

この先もお付き合い頂けましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ