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7 大歓迎されてしまった

 私が緊張しないように、と気遣ってくれたのか、通されたのは応接間のような堅苦しい場所ではなく、季節の花が咲き乱れる中庭に面した可愛らしいサロンだった。

 そこに座っていたのはクロウウェル様と同じ金髪を綺麗に結い上げたご婦人と、髪色は銀だけれど深いエメラルドの瞳をした、どちらもとんでもなく若く見える美形のご夫妻で。


 最初、ご兄弟かな? と思ったものの、クロウウェル様が「父上、母上、お待たせしました」と言ったのでビックリしてしまった。

 え、何を食べてどんな生活をしていたらここまで若々しくいられるのだろう……どう少なく見積もっても30代の前半に見えるが、クロウウェル様は私の3つ上の24歳のはずなので、それはあり得ない。


 成人は17歳……と、逆算は失礼に当たるのでやめた。とにかく、クロウウェル様が生まれて当然だ、と思う美しいご夫妻が顔を上げて、目が合った途端にパッと顔色をよくして満面の笑みで迎えられて、私は2度目のビックリを味わった。

 はじめまして、と挨拶する前にクロウウェル様にひかれるまま、サロンのソファに並んで座る。背が高いとは思っていたけれど、膝の位置が違う……どれだけ長い脚をされているんだ。


 でも、隣を歩いてても少しも困らなかった。……ということは、とても歩調を合わせてゆっくりと歩いてくれていたのか、とまた一つ気付いてしまう。

 今はそれはとにかくと、背筋をシャンと伸ばしてニコニコとこちらを見てくる元筆頭公爵ご夫妻にご挨拶だ。


「はじめまして、リナ・イーリスと申します。この度、クロウウェル様と婚約させていただくことになり……あの、ふつつか者ですが、精一杯頑張りますのでよろしくお願い致します!」


 ちょっと気合いが入りすぎた元気な挨拶に、一瞬3人がキョトンと目を丸くして、同時に楽しそうに笑った。

 え? え? あれ、これ仕込みですか? わ、笑われる所まで込みの大掛かりな仕込み……? 婚約ももしかして……? と、今日の私の情緒は川下り並みに荒れ模様だ。


「はじめまして。愚息が、やっと婚約者を見つけてくれて本当にほっとしているよ。子供の頃からずっと、僕は天使と結婚する、と聞かなくてね。私はダリアン・バリス。妻は、カトリーヌ・バリスだ。普段は我々は領地に引っ込んで運営をしてるんだが、こうして会いに来てよかったよ。本当に天使のような可愛らしいお嬢さんじゃないか」

「あなたばかりお話してずるいわ。はじめまして、リナちゃん。こんなに可愛らしいお嫁さんが来てくれてよかったわ。きっと色々心配だろうけれど、それは全部クロウウェルのせいだから気にせず、伸び伸び過ごしてちょうだい。なんでもおねだりしていいのよ」


 私は仕込みじゃなかったことに安心しつつ、目端の涙を男性らしい骨張った指で拭う隣のクロウウェル様をポカンとした間抜けな顔で見上げてしまった。

 彼は「ほら、大丈夫だろう?」とばかりに微笑みかけてくる。


 笑顔で語りかけてくれたご両親に、私もぎこちないながらも笑顔を返した。山猿姫、の噂はきっとご存知無いに違いない。

 でなければ、こうして暖かく迎え入れてくれるはずもない。公爵家の嫁に子爵家の娘なんて、と言われるとばかり思っていたが、そんな嫌味な空気はここになかった。


「暖かく迎えてくださり感謝します。あの、私は子爵の娘で、クロウウェル様の妻としては至らないところが多々あると思うのですが……」


「リナちゃん、安心して。私もお祖父様が昔武功をたてて叙勲された男爵家から嫁いだの。バリス公爵家は身分で人を見たりしないわ。……いえ、平民のお嬢さんだったら逆に苦労させてしまうだろうから、その時は何か考えなければと思っていたのだけれど……」

「ドレスの着こなしも、歩き方も綺麗だ。ちゃんと教養があるようだし、まだ不安ならいくらでもクロウウェルに頼りなさい。君が欲しい知識や経験、物に至るまで全部揃えるくらいは私がさせよう」


 一応合格……というよりも、かなり砕けて大歓迎されていることはわかる。しかも、私の身分が平民でもよかった、とまで言われている。

 私はまた隣を見る。エメラルドの瞳はずっと私に向けられていて、バチっと目が合った。その視線は、本当に何も心配いらないと私に思わせてくれるには充分で。


「ありがとうございます。……こんな素敵な方々に迎えていただけて、とても嬉しいです」


 そこからは、楽しいお茶会になった。

 今日着てきたドレスの話から、クロウウェル様がしてくださったことの話になり、クロウウェル様の普段の様子なども聞けたり、それをクロウウェル様が恥ずかしがったりと……。


 でも、クロウウェル様が私を望んでくれた理由は、やっぱりわからないままだった。

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