17 「本当に心配したんですからね」
「あ、はい……ええと、ごめんなさい……?」
「いえ、あぁ、違うんだ……リナに非が無いのは分かっている。分かっているんだが……ジル、捕縛を代わってくれ」
「はい」
片手で顔を覆いながらひどく動揺されたクロウウェル様の様子に、私の方が心配になってしまった。
怒鳴られたのはびっくりしたけど、心配してくれたのは分かっている。後ろにいるベラ王女もとても心配そうに、それでいて心底ホッとして私を見ている。
「これは……!」
ベラ王女の執事が私の手際の良さに、ベラ王女を見て首を横に振るので、ちゃんと説明した。
「あぁ、縄抜けが一番難しい形で縛りました。私が2階から飛び降りて……」
「2階から?!」
「えぇ、普通に向き合ったら負けますから。で、腹這いに倒したところを私を縛っていたロープで……」
「貴女、縛られていたんですか?!」
「はい。高濃度のアルコールで眠らされたようで、その間に……」
「……大概のことには驚かない覚悟と、相応の経験を積んできたつもりなんだけど……」
ベラ王女も神妙な顔で頷いている。クロウウェル様の過去の話にはとても興味があるが、とりあえずは縄の結び目は川で漁をしていた船頭のおじさんゆずりのもやい結びなので、執事に解き方を教えてから、まだ動揺しているクロウウェル様に近づく。
縛られるとかの比ではない力で思い切り抱きしめられ、さすがに苦しくて背中を叩くと少しだけ腕の力は緩んだものの、離す気はないようで。
「クロウウェル様……、ごめんなさい、心配をおかけして」
「……君に、何かあったら、私は……」
「……助けにきてくださるでしょう? 顔を見て本当にホッとしました」
「もちろんだ。でも、本当に何もなくて……よかった」
あまりに泣きそうな声に、離す気は全くない様子に、ベラ王女に申し訳なさそうな視線を送ると、彼女もほっとした顔で頷いてくれた。
「クロウウェル様、帰りましょう」
「あぁ。……ベラ王女。ご忠告申し上げる。ご友人は選ばれた方がいい」
「……肝に銘じますわ。この度は私が招いた席で、リナ様を大変な目に合わせてしまいました。ホストとして失格です。必ず、必ずお詫びに伺います」
「ベラ王女様、気になさらないで。私に敵が多いのは私のせいであり、クロウウェル様がいい男すぎるからですから。今度は2人でお茶にしましょうね」
私が敢えてクロウウェル様を持ち上げつつベラ王女をフォローすると、また少し腕の力が緩んだ。
さてどうやって帰るのかな、かに歩きでこのままかな、と思ったら、急に身体が宙に浮いた。反射的にクロウウェル様の首に抱きつく。
「きゃっ……!」
「じっとして。アルコールで眠らされて縛られて2階から落ちて、歩いて帰らせると思う? とにかく、今日はうちに帰るからね」
お姫様抱っこというやつだろうか。
人生初……いえ、もしかして木の上から落ちた時も、こうしてくれていたなら2回目のお姫様抱っこだ。
重くないかなとか、恥ずかしいとか色々と思ったけれど。
怖かったのは、怖かったんです、クロウウェル様。……迎えにきてくれて、本当にありがとう。