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16 リナ様の行方不明(※ベラ王女視点)

「遅いですわね……ジル」

「はい、ベラ王女」

「リナ様のお戻りが余りにも遅いわ。バレル公爵様にご連絡をして、王宮は広いから迷ってらっしゃるかもしれないので人を使って探してちょうだい」

「かしこまりました」


 私の言葉に控えていた執事が一礼をして去っていく。

 その時、リナ様より後にお花摘みに行って先に戻ってきたバレンシア嬢の顔色が変わったのを、私は見逃さなかった。


 しかしここで私がバレンシア嬢を問い詰めた所で何も発展はないだろう。

 王宮で、私が招いたのに、リナ様に何かあったら……非常にまずい。バレル公爵の怒りは私にも向くだろう。


 第二王女とは言え、私は他国に嫁ぐか国内の貴族に嫁ぐかはまだ微妙な身。下手をしたら私の嫁ぎ先は……命が危ない蛮国になりかねない。

 リナ様の事が心配なのはもちろんだし、ただの迷子であればよいのだけれど、……何かがあったとしたら先んじてバレル公爵に連絡しておかなければ。迷子であったとしても、バレル公爵が迎えにきてくださった方がいい。


 バレル公爵がどれ程リナ様を愛していらっしゃるかなんて、ここにいるご令嬢ならみんなあのパーティーで思い知っているはず。

 鋼の公爵と呼ばれていたあの方の蕩けるような微笑みも、優しい言葉も、恥ずかしげもなく私の天使とよびかける声も。あの方があんなに表情豊かで何かに必死になる様子なんて、誰も彼も初めて見ただろうに。


「リナ様の事は私に任せて、皆さまはお茶を続けてくださいな。私は少し失礼いたします」


 とにかく、ご令嬢がたを誰も帰さないようにメイドにそっと命じて、私は玄関まで急いだ。バレル公爵邸から王宮までは目と鼻の先だ。

 ちょうどバレル公爵が到着したところだった。


「リナは?!」

「落ち着いてください。今使用人に隅々まで探させています」

「……今日の招待客についてきた使用人は全て控えているのか?」

「……! 今、確認させます」


 迷子であって欲しいと思っていたが、バレル公爵は鋼の公爵であっても鈍い方ではない。

 自分に好意をもったご令嬢の数も名前も全て記憶している。……バレンシア嬢は中でも熱心だった方だ。うかつだった、バレル公爵の後ろ盾があれば『王家の私でさえ怖くて何もできない』というのに、そんな事も分からないだなんて。


 いえ、きっと恋とはそういうものなのでしょう。バレル公爵が16年想い続けていたように。

 私には必要のない感情、だからといって考えなくていいものではなかった。


 バレル公爵は従者の控えの間の前で怒れる獅子が獲物に襲いかかるその瞬間を待つように、中の者を確認させ、やはりバレンシア嬢の従者がいない事、そして見覚えがなく多少下卑た喋り方をする男だった、と聞いたらしい。

 バレンシア嬢に呼ばれて出て行って、そのまま帰ってきていないと。


「20分ほど前です、公爵」

「人目には?」

「ついてないようです。報告がきてません」

「手洗いからサロンに戻るまでの道に、鍵のかからない倉庫は」

「1箇所」

「案内を願います」


 短い、要点だけの会話。全てそれで成り立ち、今はそれ以上の言葉をかけてはいけない。

 この怒れる公爵を平常心に戻す事ができるのは、彼の天使が無事であるという事実以外ないのだから。


「私では足が遅いです。ジル、走っていいからご案内して」

「かしこまりました」


 男性2人が走っていく後ろを、私も走って追いかけていく。

 場所は分かっている。あとはどうか無事でいて。


 目当ての扉を蹴破る勢いで公爵が開けると、ジルも一緒にポカンとして固まっている。その間になんとか追いついた私も、肩で息をしながらその光景を見てぎょっとした。


「……何をされてるんです?」

「クロウウェル様、いらしたんですか? これは、私を傷物にしようと入ってきた男性を縛り上げている所です。危ないので」


 リナ様はご無事でよかった。けれど、私はさっと両手で耳を塞いだ。次に何がどうなるか、予測するよりも早く反射で。


「心配したんですよ!!」


 バレル公爵の悲痛な叫びに、今度はリナ様がポカンとした顔になった。

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