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1.5、歳をとらない執事長

腹黒注意。

執事って策士なイメージがあるのは私だけでしょうか?



私が仕えるシルバーコート侯爵家は、代々王に、その治世に貢献している由緒正しき家柄である。

しかしこの侯爵家にはまことしやかに囁かれる、七不思議が存在する。

その中に、お嬢様の噂も組み込まれている。


とても醜い、とても美しい、実は死んでる、家出した……と枚挙にいとまが無いが、全て、家族以外で私たち執事や侍女以外に、お嬢様を見たことがない故の噂であり七不思議の一つとなっている。

どうせお嬢様の噂をするなら、せめて正しく噂していただきたいものである。特にこの拗らせ具合を。いじらしい所を。


「ローグ、明日の事なんだけど……」

「……お嬢様、私になり変わらず、お嬢様としてご挨拶するのがよろしいのでは……」


お嬢様は会場のセッティングに関して確認しにきたのでしょうが、普通の令嬢であればそんなことはなさいませんし、それに、私たち使用人は、お嬢様を含むこの侯爵家が他家に侮られぬように当日の仕事をする訳なのです。

お嬢様は特に頑張っていらっしゃるのだから、使用人としては、出来ることなら、主催の1人として堂々と振る舞っていてほしいのです。


「む……む……」


……まあ、出来ることならというのは、


「無理よぉお!イリス様を見つめていたいだけなのにイリス様に認識されてしまうじゃないっ!!そんなの……そんなの……!

恥ずかしすぎて倒れちゃう!!」


当家のお嬢様は、とても恥ずかしがり屋のあがり症なのでございます。それこそ、ごく小規模、気心の知れた友人を3名ほど呼んだお茶会で、自分の発言に皆様が耳を傾けていると思っただけで緊張で噛みまくるぐらいには。


普通に令嬢として挨拶する姿を想像でもしたのでしょうか。顔を赤くしてしゃがみ込んでしまっています。穴があったら入りたい。いえ、明日が夜会当日で無いのなら部屋に引き篭もりたいぐらいのご様子です。これはいけない。「引きこもったらイリス様を見ることすら出来ませんよ?」と釘を刺しておきます。


人を招く事が苦手なお嬢様が、王子が来ればイリス様もくる!と、それだけの為に慣れないことを必死に行った努力を私は知っております。前日緊張し過ぎて体調を悪くし、姿をお見かけすることすら出来ませんでしたということになる方が報われないですから。


「……お嬢様はイリス殿に恋慕していらっしゃるのでしょう?他の令嬢方のように、もっと自分をアピールして、旦那様に相談して婚約でもなされば、嫌な夜会をせずともお会いできるようになるのでは?」

「はぁ?」


呆れ半ばに、前から疑問に思っていた事をお伝えすると、何故かそんなこと出来ないと更に恥ずかしがるでも、その手があったかと喜ぶでもなく、呆れと怒りと失望と、その他諸々……負の感情を含んだ「はぁ?」をいただきました。


心なしかお嬢様から殺気にも似た圧力を感じます。今までの赤面は何処へやら、強い意志がギラつく瞳を逸らさずに、私に告げます。その堂々たる姿は従兄弟であるユアン王子と血の繋がりを感じさせます。


「じいや。私は、確かにイリス様に懸想しているわ。

でもね……、それ以上に、イリス様の事を、お慕いしているのよ。


一ファンとして!!!」

「……ふぁん?」

「この間ミリア様が貸してくださった本に、とても熱心な愛好家の事をそう呼ぶのだと書いてありました!


確かにイリス様のお隣に立って姿絵を残してもらったり、仲良く街を歩いたり、て、手を繋いだり、名前をよんっ……んん、呼んでいいいいただいたりっ……あ、憧れますけれど!

……私には、……恐れ多い事ですし。


それよりも遠いところからオペラグラスでイリス様をじっくり観察し、時たま幸せそうに笑う姿が見られればそれで幸福ですわ。ですので、私はこれからファンを自称するの!」

「……お嬢様が、それでよろしいのなら、じいやは特に何も言うことはございません。明日のお話ですね、お茶を入れますから、少しゆっくりお話しいたしましょう」

「ええ!」


お嬢様はとても素直に、可愛らしい笑顔を見せてくださいました。イリス殿は、恐らくお嬢様のようなタイプがお好みな気がしますので、アピール方法さえ間違えなければうまく行く気がしなくもないのですが……。


まあ元気になったならじいやは満足です。明日は姿を見せず裏方に徹し、お嬢様の幸福なひと時に貢献致しましょう。



そして翌日、私に扮して旦那様と共に王子たちを控えの応接室に案内して戻ってきたお嬢様は、何故かとても落ち込んで私の所に戻ってきました。

何があったのか聞いてみれば、招待していない客が紛れ込んだせいで、王子の安全を考えて、夜会に顔を出さず帰る事になり、見送ったとの事。


「……せっかく、みんな頑張ってくれたのに……」


お嬢様の"みんな頑張ってくれた"というお言葉に、我々への感謝が見えて、私含め使用人たちは顔に出さず喜びましたが、我々からすれば、

"折角お嬢様が、今日のために頑張ってきた努力を、身勝手に台無しにされた"も同然です。


「お嬢様、呼んでいないお客様の家名を伺っても?」


聞いてみれば、複数ございますが……おや。"随分懐かしい"お名前です。あの当時、自分の美しさに自信をかなりお持ちだった彼女が娘を連れて、曰く譲ってもらった招待状を持って来ているとの事。


さて、あの方、口癖は"歳をとりたくない"でしたね。……自然の摂理でしょうに。


当家のお嬢様の努力を無駄にし、こんなにも落ち込ませた罪は重いです。……ですから、これくらいの仕返しは許される事でしょう。


「お嬢様、今日の変装にもう少し手を加えましょう」


"数十年前"の私の顔や身体の動かし方を細かくお嬢様に伝えて送り出し、私は元同級生の嫁ぎ先の伯爵家及び警官隊へと部下を走らせます。


"「私は別ですが……"老い"に負けた気分はいかがです?」"


……そう問いかけた時、どんな顔をするのか楽しみにしながら。

読了ありがとうございます。


このお嬢様に変装を仕込んだのは勿論執事です。

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