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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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急転直下

 ローエンの手助けもあり、僕は皇帝陛下に謁見することができた。

時間は15分くらいのものだったけど、お忙しい陛下にお会いすること自体が奇跡のようなものだ。

親書を渡し、ボートを納品し、イカルガの宣伝もちょっとだけしておいた。


 陛下は特にイカルガに興味をお示しになり、いつか視察に訪れたいとまで言ってくださった。

親書についても、関係各位と話し合って、数日のうちにお返事を下さるそうだ。

これでファンローへ来た目的の大部分は果たせたわけだ。


「さて、これで仕事の時間は終わりだな?」


 陛下が退室されるのを見送って、ローエンが元気よく立ち上がった。


「そうだけど、どうするの?」

「とぼけるなよ、今日はセイリュウやゲンブに乗せてくれる約束だろう!? それに、もう一回イワクスにも乗りたいんだ。なあ、いいだろう? 約束した古文書の写しをやるからさあ」


 子どもが飴玉を譲るように、ローエンは古代遺跡の伝説が書き記してある古文書の複写を手渡してきた。

僕が海底遺跡を見つけて、それを調査した話をすると、ローエンは自分も行きたかったと地団太を踏んで悔しがったのだ。


「ああ、クソ! 私が皇子じゃなかったら、このままレニーの一味いちみに入っていたのにな」


 一味って、悪いことをしているんじゃないんだから……。


「見てみろよ、これ。古代文字が書かれた石板のスケッチもあるんだぜ。レニーなら読めるんじゃないのか?」


 ローエンが開いたページには、人々が海底から大きな石板を引き上げている様子が描かれている。


『ゆっくり走ろう ミネルバ・アクアライン』


 どうやらこの石板は交通標語のようだ。

 当時はこの海岸近くに自動車などが走る道路があったのかもしれない。

古文書をめくって中身を確かめたけど、遺跡などの正確な位置が分かるような記述は見当たらなかった。

それでも、これを精査すれば何らかの手掛かりが見つかる可能性はある。僕はありがたくその複写をもらうことにした。


「今後も遺跡の資料を集めさせてみるよ。次にレニーが来たときは海底探査だな」


 ローエンははしゃいでいる。

帝都ハーロンの近くなら、自身で遺跡を調査できると考えているのだ。


「そのためにもセイリュウを完璧に乗りこなせるようにしておかないと!」


 僕らは人気のない海岸まで移動して、日がな船や艦載機にのったり、バーベキューなどをして一日を過ごした。



 翌日もローエンは遊びに来ることになっていた。

本当は早く帰らなくてはならなかったんだけど、ローエンからどうしてももう一日だけファンローにいてほしいと頼まれたのだ。

僕もローエンと冒険の計画を立てるのが楽しいから、お姉さんたちにお願いして滞在を一日伸ばしてもらった。


 ところが、もうお昼近くになるというのにローエンは姿を現さない。

約束では朝食を一緒に食べることになっていたんだけどな。


「宮廷では急な用事がしばしば起こります。あまり心配なさらないでください」


 カイ隊長が教えてくれた。

帝国は版図も広く、様々な問題が日常茶飯事のようにおきているそうだ。

問題の対処が皇子に任せられることもあり、そういったことでローエンは忙しいのかもしれなかった。


「ただ、そのような場合は使者が送られてくると思うのですが、妙と言えば妙ですね」


 前の時のようにローエンの暗殺が目論もくろまれたとか? 

あの事件がきっかけで僕らは義兄弟の契りを結んだけど、あんなことは二度と起こってほしくない。


 心配そうな僕の顔を見かねたのだろう。

カイ隊長が宮廷まで様子を見に行ってくれることになった。

カイ隊長は宮廷の高級武官だし、独自の情報網も持っている。

きっと事情をつかんできてくれるだろうと期待した。


 待っている間に、ローエンからもらった古文書の写しを眺めてみたけど、内容はちっとも頭に入ってこなかった。

心に浮かぶビジョンは矢を受けたローエン、治癒魔法加速カプセルの中で治療を受けるローエンなど不吉なものばかりだ。


 そこへ血相を変えたカイ隊長が駆け込んできた。

全力で走ってきたらしく息が切れている。


「大変です、ハァハァ……」

「まさか、ローエンになにかあったの!?」

「いえ、そうではございません。ローエン様はご無事です。ただ……ハァハァ……」


 僕は緊張しながら次の言葉を待つ。

やけに長い1秒が過ぎてカイ隊長が言葉を絞り出した。


「皇帝陛下がお亡くなりになりました。未明に体調がすぐれないと医官が呼ばれたのですが、そのまま……」

「なんだって!?」


 つい、昨日お会いしたばかりだぞ。

そう言えば、ちょっとだけお顔の色が悪かった気はしたけど、話した感じでは別段異常はなかったのに……。


「いま、宮廷は蜂の巣をつついたような騒ぎになっております。すべての皇族方がお集まりになり、大宝殿で今後の対応を検討しているところですが……」

「なにか問題でもあるの?」


 カイ隊長は苦しそうな顔をしていた。


「お亡くなりになった陛下は正式に世継ぎを決めておりませんでした。まさかご自分がこんなに早く死ぬとはお考えになっていなかったのでしょう……」

「皇位継承について一波乱あるかもしれないということ?」

「それはまだ分かりません。お許しをいただければ、私は宮廷に戻ってさらなる情報を集めてまいります」

「うん、僕のことはいいから、ローエンのために働いてあげて」

「ありがとうございます」


 カイ隊長は一礼して、走り去っていった。


 急転直下の出来事に僕らは茫然としていた。

僕もシエラさんもルネルナさんも、驚きのあまりしばらく声を出すこともできなかった。

こんな時はとにかく落ち着かなくては。


「ある程度情報がまとまったら本国にこのことを報せないとダメですね」


 親善大使を送る前に弔問の代表を送らなくてはならなくなったもんね……。


「私はカガミゼネラルカンパニーのハーロン支部へ行ってくるわ。今後の指示を出してこないと」


 ルネルナさんが立ちあがった。


「シエラさん、ルネルナさんの護衛をお願いします」

「レニー君はどうするのだ?」

「ここでカイ隊長が戻ってくるのを待ちます。出国前になんとかローエンに会う方法を探ってみたいので」

「承知した。だが、くれぐれも危険な真似はしないでくれよ」


 シエラさんは相変わらずの心配性だ。


「いざというときはゲンブを装着して逃げますのでご心配なく」


 冗談めかしてそう言うと、ようやく笑顔を見せてくれた。


「時速412㎞なら私も安心だ。万が一、互いに何かあった時はリアウ広場の噴水前で落ち合うとしよう」


 僕らは非常時の合流地点を設定して別行動となった。



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