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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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Tシャツとクレープ

 人質を送り届けた僕らは再びファンロー帝国を目指す。

点在する島々を線でつないで、新しい航路を作る旅だ。


「そろそろファンローの領海に入りますね。あそこに見えているのはロンチー島のようです」


 カイ隊長が地図と景色を見比べながら教えてくれた。


「それじゃあ、首都ハーロンまでは二時間くらいですか」


 イワクスは軽快に飛び続けている。今の巡航速度を維持すればお夕飯前に到着だろう。


「それなのですが、無礼を承知で一言よろしいでしょうか?」


 生真面目なカイ隊長は改まって頭を下げてきた。


「どうされたんですか? そんなにかしこまらないでください、僕が困ってしまいますよ」

「申し上げにくいことではございますが、イワクスでハーロンへ行くのはやめた方がよいかと思われます。魔族の襲来と思われて攻撃を受ける恐れがありますし……」


 カイ隊長が言いよどむ。


「どうされましたか?」

「場合によってはイワクスを手に入れようと、カガミ様を害する輩が現れぬとも限りません」


 イワクスは兵器として圧倒的な性能を誇るもんな……。

これを手に入れようと僕を誘拐したり、暗殺を企てる奴が現れてもおかしくないということか。

しかもそれを率先して行うのは国の有力者だったりする。


「ご忠告ありがとうございます。でしたら、ハーロン港近くでイカルガに乗り換えてしまいましょう。どうせファンロー帝国にはイカルガの宣伝で行くのだし、その方がインパクトはありそうですよね」


 僕は海上にイカルガを呼び出し、ヘリポートにイワクスを着陸させた。

この船が現れたらハーロンの街は大騒ぎになりそうだな。

ローエンは好奇心の塊だから真っ先に見物にきそうだ。

「おい、レニー! 早くはしけをおろして私を乗せてくれ!」なんて言うのだろう。

そんなローエンの顔を想像しながら、ファンローへの最後の道のりを進んだ。



 海上での入国手続きを終え、イカルガはついにファンロー帝国へと接岸した。

やって来た巨大船を間近で見ようと、身動きが取れないほど人が港に詰めかけている。

あまりに人が多くて僕らが下船できないほどだ。

危なっかしくてタラップをおろすこともままならないのだ。


「どうしましょう? 夜になれば混雑は治まりますかね?」


 みんなとデッキから下を眺めて、今後の対策を話し合う。

いっそ救命ボートで人のいない場所まで移動して、そこから上陸しようかなんて案も出た。


「いえ、その必要はなさそうですよ」


 群衆を見つめていたカイ隊長がはるか彼方を指さした。

見れば軍隊が銅鑼を打ち鳴らしながら港の方へやってきている。

軍隊といっても中心は華々しく飾り立てた儀仗兵や花を持つ女官たちだ。


「きっとカガミ伯爵のお迎えでございましょう。おそらくはローエン皇子が手配したかと」

「僕が来ることなんて知らせていないのに?」

「このような船をお持ちなのは、この世界でカガミ伯爵以外思いつきませんよ」


 兵士たちは群衆を誘導してスペースをあけるように頑張っている。

そして、兵たちの後方に見慣れた豪勢な馬車が姿を現した。

間違いない、あれはローエンの馬車だ。


 馬車が横付けされると、颯爽とローエンが飛び降りてきた。


「おい、レニー! 早くはしけをおろして私を乗せてくれ!」


 あまりにも予想通りのセリフで笑いが漏れてしまう。


「これは冒険用の船じゃなくて、ただの客船です。殿下にとってはつまらない代物なんじゃないですか?」


 ローエンをじらしてやりたくて、ちょっとだけ意地悪を言ってみる。


「いつの間にか性格が悪くなったな! そういう態度なら……」


 ローエンは身体強化魔法を展開して船へと飛び移ってきた。

そして体勢を崩すこともなく、華麗に僕の横へ着地する。

さすがは冒険家になりたいだけあって、皇子様とは思えないほどの体捌きだ。


「久しぶりだな、レニー! まったく、来るたびに私を驚かせてくれる!」


 ローエンは僕の首に腕をまわして抱き着いてきた。


「驚いたでしょう? でもね、時間があればもっと驚かせてあげることもできるんだよ」


 イワクスはヘリポートにとめてある。

人目につかない沖に出れば遊覧飛行だってできるだろう。


「そいつは楽しみだ。でも、まずはこの船を見学させてくれよ」

「うん。今回はこれのお披露目をしたくてファンロー帝国まで来たんだ。商売に協力してくれる?」

「任せとけ。まあ、こんなすごい船なら私が黙っていても人は集まってくるだろうがな。おっ! 船の中に店がたくさんあるじゃないか!!」

「欲しいものがあったら何でも言ってね。食べ物の店もあっちにあるよ。この辺りならホットドッグとかクレープの屋台がおすすめかな」

「ほう、あとでさっそくいただいてみよう。うん? あれはなんだ」


 ローエンが目を止めたのはTシャツと呼ばれる簡素な服だ。


「これなんかカッコいいな。レニー、これには何と書いてあるのだ?」


 白地のシャツには黒の毛筆体で異世界の文字が書き連ねてある。


天上天下唯我独尊てんじょうてんげゆいがどくそんと書いてあるね。人は地位とかお金とかがあるから尊いわけでなく、誰かと比べて自分の方が尊いわけでもない。誰とも代わることのできない人間として、その命のままに尊いという教えらしいよ」


 『言語理解』は相変わらずの性能を発揮してくれる。


「深いな……」

「ローエンが尊いのはファンロー帝国の第三皇子だからじゃなくて、ローエンだからこそなんだろうね」

「そうか……。レニー、これをもらってもいいか?」

「うん」

「ありがとう。そうだ、ついでに陛下にもお土産を……」


 え、陛下に天上天下Tシャツだなんて不敬罪で捕まらないかな?


「お、これなんか良さそうだぞ!」


 ローエンが次に手にしたのはシルクでできた金色のシャツだ。

これにはドラゴンの刺繍があって背中にはやっぱり毛筆の文字が書かれている。


「レニー、これには何と書いてある?」

「天下無双、だね……」

「おお、陛下が喜びそうだな。ついでにこれももらおう」

「いいけど、そんなのをわたして叱られない?」

「いや、喜ぶと思うぞ」


 素材はいいものを使っているし、縫製も最高だ。

趣味は人それぞれだから、まあいいのかな……?


 買い物を終えた僕らはクレープを食べながら話し合った。

僕はイチゴとバナナのカスタード&チョコレートクレープ、常々冒険家でありたいと願うローエンは納豆コーヒーゼリー生クリームという珍しいクレープをチョイスしていた。

納豆というのはねばねばする大豆を使った発酵食品だ。

じいちゃんが作った納豆を食べたことがあるけど、僕はそれほど好きじゃない。


「それ、美味しいの?」

「結構いけるぞ。この納豆と生クリームというのが合わさると、落花生のペーストのような味になる」


 言われてみればピーナッツバターみたいな味になる想像はつく! 

そのうち僕も挑戦してみようかな。


「ところでレニー、今回のファンロー来訪の目的はなんだ? イカルガのお披露目だけじゃないんだろう?」

「うん、目的は三つだよ。一つは、このイカルガを使ってファンローからロックナ王国、コンスタンティプルを経てハイネーン王国までの航路を開きたいから、そのための許可をもらいたいんだ」

「なるほど。レニーとこの船なら安全な船旅を提供できるというわけだ」

「まあね。それから二つ目は、頼まれていた船外機付きボートの納品」

「ああ、陛下が注文されていたな。もうできたのか?」

「うちの技術者たちが頑張ってくれたからね」


 納品のためのボートはイカルガの倉庫に入っている。


「最後に各国の王から皇帝陛下宛に親書を預かってきているんだ。近いうちに親善大使や留学生なんかをイカルガに乗せてやってくる予定でもあるんだ。というわけでしかるべき外交筋に会いたいんだけど、ローエンが取り計らってくれないかな?」


 ローエンは退屈そうに鼻をほじりながら僕の話を聞いていた。

端正な顔をしているのに台無しだよ。


「ふ~ん、だったら自分で渡せばいいんじゃないか?」

「自分で?」

「陛下に謁見するんだよ」

「そんなことが可能なの? いや、皇帝陛下の邪魔をしちゃ悪いし……」


 いちいち宮廷に行くのも面倒だというのが本音だけど……。


「だって、レニーは鶴松大夫かくしょうたいふの称号をもらっただろうが。あれはお目見え以上の栄誉職だぞ」


 そういえばそんな位をいただいたような気がする。

すっかり忘れていたけど。


「コホン!」


 大きな咳払いが聞こえると思ったらルネルナさんだった。


「レニー、(面倒がらずに)宮廷に出仕しなさい。陛下のご機嫌をうかがってくるのよ」


 心を見透かされてしまったか。


「私が話をつけておくから明日にでもやってこい」


 ローエンがそこまで言ってくれるのなら、断るわけにもいかないな。

僕はローエンの行為に甘えることにして、皇帝陛下に謁見することにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] >>納豆コーヒーゼリー生クリーム 何それ怖いとか思ったら実際に販売されてるなんてたまげたなぁ・・・
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