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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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契約の笛

 シエラさんと二人掛かりで内と外から瓦礫を撤去していく。

ノームたちの手伝いもあり、作業は予定よりも早く終えることができた。


「みなさん、お待たせしました。もう魔物は一匹もいませんよ!」


 そう告げると人々の間から歓声が起こった。


「ありがとうございます、呪い師様! なんとお礼を言っていいやら」

「僕は呪い師じゃなくて船長なんですけどね」


 何はともあれこれで一安心だ。

犠牲者を一人も出さずに救出できて本当によかった。

ほっとしたらなんだかお腹がすいてきちゃったな。

人質になっていた人やノームたちだって満足にご飯を食べていなかったんじゃない?


「みなさん、お腹が空きませんか?」


 僕はみんなに尋ねてみる。


「それは、まあ……」

「ピィ……」


 それまでは極度の緊張と興奮で忘れていたけど、僕に質問されて、人質たちも空腹のことを思い出したようだ。

空腹は最高の調味料というけど、どうせなら特別なものでお腹を満たしてあげたい。


「それじゃあ、皆さんを故郷に送り届けるための船を呼び出すので、その中でご飯を食べましょう」


 みんなで海岸にでて、沖に船を召喚した。


「召喚! 大型クルーズ客船!」


 六色に輝く巨大な魔法陣が展開して超大型船が姿を現すと、人々は船に向かって平伏していた。


「街だ! 海の上に街が現れたぞ!! あれは神の船に違いない!!」

「ピイイピッピピッピ!?(大地神ではなく海神様のお遣いだったの!?)」


 街という表現はあながち間違っていないと思うな。

実際のところイカルガは並みの城下町より規模が大きいんだ。

まあ神の船とか海神様のお遣いは的外れだけど……。


「シエラさん、いつものやつをお願いします」

「心得た」


 シエラさんが氷冷魔法で沖へと続く桟橋をこしらえてくれる。

僕らはそれを伝ってイカルガへと乗り込んだ。


 出迎えてくれたセーラーSたちに食事の用意を言いつけて、僕は皆を案内した。

今夜のメニューはキノコがたっぷり入ったビーフシチューだ。

ワインの芳醇な香りが自慢のイカルガが誇る看板メニューだよ。

マッシュルームとワインはノームの好物だからきっと喜んでくれるだろう。


「ガドンマに連れ去られたときはもうダメかと思ったけど、こんな夢みたいな船で帰れるなんて……」


 セーラーSが総出で作ってくれたビーフシチューは美味しく、お替り分もたっぷりあった。

ノームたちは小さい体の割には旺盛な食欲を見せて、全員が二杯ずつのシチューを平らげたし、人間たちも三杯は食べていた。


 僕はノームの女王に話しかける。


「船にあるワインの一部を置いていくので皆さんで分けてくださいね。それから売店で売っているもので欲しいものがあれば何でもおっしゃってください。すぐに用意させますので」


 もらったインゴットには金や銀も含まれていたのだ。それくらいはさせてもらわないと間尺ましゃくに合わない。


「え? あそこにあったキラキラ光るお菓子でもいいんですか?」


 色とりどりのセロハンに包まれたキャンディーのことかな?


「もちろんですよ。全部差し上げます」

「ピイイイイイイイイイイ!!!! ピッピッピッ♪ ピッピッピッ♪ ピッピッピッピッピッピッピッ♪」


 喜びのあまりノームたちが歌い出したぞ。

商品購入の魔石はガドンマたちから出たものを使うか。

たいした敵じゃなかったけど、それなりの大きさの魔石をドロップしたもんな。

おそらくぎりぎり足りるだろう。


 ノームたちにたっぷりとお土産をわたし、いよいよ船は出航する時間となった。


「レニー様、これをお持ちください」


 ノームの女王が小さな横笛を僕に渡してくれる。

手のひらサイズの大きさで、獣の骨でできているかのように真っ白だ。


「美しい笛ですね」

「それは『大地の隆起』と呼ばれる秘宝です。土の上に立って大地の隆起を吹けば、すぐに私たちノームを呼び出すことができるのです」

「ええっ!? そんな大切なものを……」

「レニー様は私たちの恩人です。これくらいどうということもありません。キャンディーもたくさんいただきましたし……」


 いや、キャンディーなんて大した価値はないんだけど……。


「ただし気をつけてください。大地の隆起は三回使ったら粉々に砕けてしまいます」

「呼び出せるのは三回までということですね」

「はい。その代わり呼ばれたときは必ずお役に立ってみせます。どんなご用でも構わないので言いつけてください」


 僕はノームの女王によくお礼を言ってミストラ島を後にした。

ファンロー帝国に行ったら、今度は輸送船でインゴットを取りに来ないといけないな。



 人々をそれぞれの島に帰し、僕らは昼前にようやく元いた島へとたどり着くことができた。

囚われていた人々は家族との再会に涙を流している。

砂浜に頬をこすりつけて泣いている人もいた。それだけ故郷が恋しかったのだろう。


「おかえり、レニー。遅かったから心配しちゃったじゃない」


 ルネルナさんが地上に降り立った僕をふんわりと抱きしめてくれた。


「人質を各島に送り届けるのに時間がかかってしまいました」

「そっか、人質はいろんなところから集められていたのね」


 ルネルナさんは眩しそうにイカルガを見上げる。


「それはそれとして……、レニー、どうしてイカルガを動かしているの? これの魔石消費量は貴方もよく知っているでしょう?」


 あ、目が怒っている。

主計長として、ルネルナさんの怒りはもっともだ。

大型クルーズ客船はちょっと動かすだけで大量の魔石を消費する。

本来は5000人以上の人間が乗れる船なのに、今回の乗客は70人ちょっと。

とんでもない無駄と言われても仕方がない。


「いえ、その、人質の人数が多すぎて、普通のクルーザーじゃ運びきれなかったんですよ……」

「だったらピストン輸送をするとか、魔族の船に乗ってもらって、セイリュウやクルーザーで引っ張るとか、方法はいろいろあったんじゃない?」

「そうなんですが……、みなさん辛い目に遭われていたので少しでも快適に送り届けてあげたかったから……」

「おい、ルネルナ、もうそれくらいで」


 シエラさんが間に入ってくれたけど、悪いのは僕だ。

魔石を集めるために騎士たちは命を懸けて古戦場へ赴くこともある。

購入資金だってみんなが一生懸命働いて得たお金だ。

もう少し考えて行動しなくてはならなかったと思う。


「シエラさん、悪いのは僕です。ごめんなさい、ルネルナさん」


 一生懸命謝る僕を見て、ルネルナさんは大きなため息をついた。


「仕方ないわね。反省しているようだから今回は許してあげるわ。もう、そんな顔をされたら怒れなくなっちゃうじゃない!」


 ルネルナさんが今度はきつく僕を抱きしめてくる。


「痛っ、何かがお腹に当たって……」


 急に抱き着いてきたからこれがぶつかってしまったんだな。


「あ、これ、島で強制労働を強いられていたノームを助けたら、お礼にもらったんです」


 僕は金のインゴットと銀のインゴットを差し出した。


「今回は持ち帰れなかったけど、島にはまだたくさんの鉄があるんですよ。全部もらっていいそうですから、ファンローへ行ってからミストラ島へ行きましょうね」

「……鉄って……どれくらいあるの?」

「だいたいですけど、高速輸送客船で3回分くらいかな?」

「……ごめんなさい!」


 は?


「生意気言ってごめんなさい。まさか一晩でそんなに稼いでいたなんて知らなかったのよ! 情けは人の為ならずなのね!! 巡り巡って自分に返ってくるんだわ!!!! ……金と銀はこれで全部?」

「いえ、イカルガの金庫に同じものが100ずつ……」

「ごめんなさーーーーい!」


 いえ、謝ることはないんですけど……。

呆然と僕らを見守る島民の視線が痛かった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 情けは人の為ならず。 情けは人の為だけではなく巡り巡って己の為にもなる。 うん、正に今のレニー君。 [一言] 今回の出来事も千の伝説の内の一つとしてカウントされるに違いない。
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