救出劇
岩場に近づいていくと、シエラさんはすぐに僕の気配を察して飛び出してきた。
「レニー君、無事か? ブッ!!!!」
そちらこそ大丈夫なのですか!?
鼻血が出ていますよ!
「シエラさん!?」
僕は慌ててシエラさんの方へと駆け寄る。
ハンカチか何かがあればいいのだけど、僕が身に着けているものと言えば下着が一枚だけだ。
「な、なんという格好を! 尊すぎて目が潰れるじゃないかっ!」
「シー! 落ち着いてくださいシエラさん。魔物に気づかれますよ」
「す、すまない……」
「それより大丈夫なんですか? 血が出ていますが」
「だ、大丈夫だ。少しのぼせているだけだから。レニー君こそどうしてそんな姿に?」
僕はガドンマとの一戦をシエラさんに説明した。
「というわけで敵の頭は潰してあります。囚われている人たちの居場所も特定できているので、このまま救出作戦に入りたいと思いますが……」
シエラさんは本当に大丈夫かな?
魔導モービルの操縦は意外と体力を使うのだ。
かなり長い距離をセイリュウで移動しているから疲れているのかもしれない。
「私なら問題ない。この鼻血は感動の表出みたいなものだ……」
感動の表出?
よくわからないけど突き詰めて考えている時間はないな。
僕は島民たちの居場所をシエラさんにくわしく説明した。
「なるほど、大体の状況は分かった。で、どうする? ゲンブとセイリュウで急襲するという手もあるが、人質を取られたら動けなくなるぞ」
「ですね。だから最初に人質の無事を確保したいと思います」
「だが逃がそうにも、通路では夜行性の魔物が見張りをしているのだろう?」
魔物たちは床に寝そべっていたり、天井に張り付いていたりしていて、見つからずに内部を進むのは不可能だろう。
「だから外壁を破壊して屋内に侵入して、さらに内側から牢屋に通じる通路を破壊して通れないようにしてしまおうと思います」
かなりの荒業だけど、魔導モービルのパワーならわけなくできるだろう。
僕は砂の上に簡単な見取り図を描いた。
「シエラさんは女性が囚われている七階をお願いします。潰すべき通路はこことここ。僕は八階から侵入して同じように通路を破壊します。それから床に穴を開けてみんなを合流させる予定です」
「人質を一か所にまとめるんだな」
「そうです。そうやって安全を確保したところで一気に敵を潰します」
「了解した。そうだ、今のうちにこれを返しておこう」
そう言ってシエラさんは鞘ぐるみになっている僕のナイフを渡してくれた。
これさえあれば百人力だ。
「ありがとうございます。やっぱりこれを持っていると落ち着くな」
普段は服の上からベルト付きの鞘を身に着けるんだけど、今は裸だ。
仕方がないから、このまま素肌の上へ装着しちゃえ。
なめし革だから擦れて痛いということもないだろう。
下着の上にナイフを装着すると、崩れ落ちるようにシエラさんが膝をついた。
「どうしたんですか!? やっぱり具合が?」
「なんでもない……ちょっと性癖に直撃を受けただけだから……」
「はあ……」
シエラさんは大丈夫と言い張るから、僕もとりあえずは信用することにした。
まあ、元気そうではあるもんな……。
では気を取り直して――。
「召喚、装甲兵員輸送船!」
僕はゲンブを艦載した装甲兵員輸送船を召喚する。
ゲンブとセイリュウさえあれば、魔物なんて一網打尽だ。
「いきましょう!」
僕らは岩の要塞へと突入を開始した。
魔導モービルで一気に岩壁を駆け登り、先ほど取りついた窓のところまでやってきた。
「お待たせしました。すぐに助けますからね」
「おっ、さっきの兄ちゃん!」
おじさんは寝ないで僕のことを待ってくれていたようだ。
「危ないから壁から離れてください」
中の人が鉄格子の方へ寄ったのを確認して、パンチで壁を破壊した。
さっきからかなり大きな音を出しているから、僕らの存在はもう魔物たちにばれているだろう。
下の方からもシエラさんが壁を破壊する音が響いている。
一刻も早く通路を封鎖しなくては。
「少し待っていてくださいね。魔物が来ないようにしてきますから」
鉄格子を強引に捻じ曲げて僕は通路に出た。
正面の入り口には様子を見に来た魔物が四体、こちらをうかがいながら立ち尽くしていた。
魔導モービルなんて見たことがないから驚いているのだろう。
僕はゲンブの大剣を引き抜き、急加速で襲い掛かる。
敵は動くこともできずに胴体を真っ二つにされていた。
一振りで四体を撃破するんだから恐ろしいパワーだ。
そしてそのまま外に出て、天井と壁を破壊していく。
「これだけ壊せば入ってこられないかな?」
通路は瓦礫でいっぱいだ。
これを取り除くには相当な時間がかかるだろう。
もう一か所の通路も破壊して、僕は島民たちのところへ戻った。
(レニー君、七階の封鎖は終わったぞ)
シエラさんの方もうまくいったようだ。
「了解です。それでは予定ポイントに穴を開けます。気をつけていてくださいね」
大剣を突き刺すと、石の床がバターでも切るように切れていく。
この剣は細かく振動しているからそれが関係しているのかもしれない。
「さあ皆さん、急いで下の階に移動してください!」
人々を誘導して、下の階へと移った。
全員が七階へと集まったところで、僕は皆に状況を説明した。
「いいですか、これから我々がこの島にいる魔物を一掃します。皆さんは安全が確認できるまでここで待機していてください」
異論を言う人は誰もいない。
魔導モービルの力を目の当たりにして全員が希望を持ったようだ。
僕はシエラさんと最後の確認をする。
「それでは行ってきます。警護の方をよろしくお願いしますね」
「本当に一人で大丈夫かい?」
「僕に任せてください」
僕には『地理情報』があるので砦の中の様子は手に取るようにわかるのだ。
魔物がどこに隠れても見つけ出す自信はある。
それにゲンブに乗っているのは僕の方だ。
陸上ではどうしたってセイリュウよりゲンブの方が機動性・攻撃力に優れる。
「くれぐれも気を抜くんじゃないぞ」
師匠の激励を受けて僕は出発した。
魔物の抵抗はあったけど、ゲンブを脅かすほどのことはなく、すぐにかたはついてしまった。
逃げ出した個体もあったけど特に追跡はしていない。
今は人質を無事に故郷へ送り届けられればいいだろう。
城塞の最上部から下へ向かって、もう魔物が隠れていないかを点検していく。
あれ?
かなり下の方に反応があるな……。
これまで気が付かなかったのは地下だからか。
念のために行ってみるとしよう。
僕はゲンブを操って急加速で地下への入口へと向かった。
目指す場所は海面より50mも下の空間だった。
どうやらこの島の地下には坑道のように穴が掘られているらしい。
魔族たちはこんなものを作って何をしていたのだろう?
貯蔵庫でもあるのかな?
そんなことを考えながらゲンブを走らせていく。
ええっ!?
頭に流れ込んでくる『地理情報』に驚いて、僕は思わず急停止していた。
なんだこれ……。
地下の空洞に1000以上の反応があるぞ……。
ここは魔物の巣窟なのか?
いや、違う……。
これは魔物でも人間の反応でもなくて……。




