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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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カサックの商人

 ルクワで水賊を引き渡して再びシャングリラ号を走らせていると、30分くらいでレベルが上がった。

シエラさんに断って一旦船を止める。

ステータスを確認したくて、次の休憩まで待ちきれなかったのだ。


名前 レニー・カガミ

年齢 13歳

MP 720

職業 船長(Lv.7)

走行距離 320キロ

所有船舶 

■魔導モーターボート全長4.8メトル 全幅1.92メトル 定員5名

60馬力エンジン搭載(およそ140MPで1時間の運用が可能)魔力チャージ500MP


■ローボート(手漕ぎボート)全長295センクル 全幅145センクル 定員2名

10馬力の船外機付き(およそ110MPで1時間の運用が可能)魔力チャージ350MP


レベルアップにより船にオプションがつけられます。

a.サーチライト:夜の航行を可能にする明るいライト

b. 予備燃料タンク500MP


 今度のオプションはサーチライトと予備タンクか。

これは今までで一番迷う選択肢だ。

レベルの上昇に伴って僕の保有MPも増加している。

予備タンクをつけて、寝る前などこまめにMPチャージをしておけば、それだけ魔石の節約にはなる。

長距離航行には欠かせないオプションだろう。


 一方のサーチライトも捨てがたい。

これさえあれば、いつでも船が出せるのだ。

非常事態などを想定すれば、こちらも絶対に必要な装備と言えた。


 今回はかなり迷ったけど、僕はサーチライトを選択した。

予備タンクは魔石のストックで代用が利くけど、サーチライトはどうにもならないからだ。

光魔法を使えれば問題はないのだろうけど、僕ができるのはちょっとした火炎魔法くらいだ。

灯りとしては光量が足りないし、継続時間も短い。


 ステータスボードの確認ボタンを押すと、運転席を挟むようにして金属のポールが出現した。

ポールの上部には四角い箱が取り付けられている。

あの部分が光って明るく照らし出すようだ。

今は昼間だからライトをつけても環境に変わりはない。

夜になったらもう一度試してみようと考えて、再び出発した。


 朝の7時にミラルダを出発してそろそろ9時間が経とうとしていた。


「レニー君、疲れてはいないかい?」


 シエラさんは心配してくれたけど、僕は全然疲れていなかった。

むしろ初めて見る景色にワクワクしっぱなしだ。

パル村からこれほど西に来たことはないから、見るものすべてが珍しい。

これまで知らなかった植物、頭に雪をかぶっている高い山々、人々の顔つきだって東の方とはちょっと違う気がした。


 太陽は西に傾き、進行方向の正面にあった。

僕は眩しさにボートのスピードを落とす。

目を細くして慎重に航行していると、地平線の彼方に四角い石の塊のようなものが見えてきた。


「シエラさん! あれってもしかして」

「そうだ。あれがカサック城塞だよ」


 夕日に照らされたシエラさんの白い肌が薔薇色に染まっていた。

その顔に安堵と喜びが広がっている。

僕たちは無事にカサックまでたどり着けたようだ。

しかもたった一日で。



 カサックは巨大な城塞都市だった。

さすがは西方の守護者と呼ばれるだけはあり、城壁の高さも厚みも、ミラルダのよりずっと大きい。

シエラさんは司令部へ出頭しなくてはならなかったので、僕は宿を確保すると一人で町へ見物に出かけた。


 街の市場はすごい賑わいを見せていた。

露店には見たこともないような柄の絨毯や、独特な造形をした銀食器が並んでいる。

これらは魔物のいる危険地帯を超えて、西方の諸外国からもたらされた品物ということだった。


「おじさん、これは何?」

「こいつはレイシーさ」


 初めて見る茶色い実が籠に盛られて売られている。

クルミくらいの大きさで固そうな外見をしていた。


「レイシーを知らないなんて、他所から来たんだね?」

「うん、川の下流のミラルダからなんだ」

「ずいぶんと遠くから来たんだなぁ。ほら、味見をさせてあげるから一つ食べてみな」


 親切なおじさんがレイシーを手渡してくれた。


「皮は手でむけるよ」


 皮をむいて驚いた。

中から現れたのは外見からは想像もつかなかった白い実だ。

果汁がたっぷりで、透き通るように光っている。


「大きな種があるから気をつけて食べるんだよ」

「いただきます!」


 食べてもう一度驚いた。

爽やかな甘みが口いっぱいに広がり、清涼な香りが鼻に抜けていく。

これまで嗅いだことのない不思議な香りだった。


「うわあ、美味しいですね!」

「だろう? 日持ちがしないからこの辺でしか食べられない果物なんだ。東の人が食べることはまずないんじゃないかな」

「うん、ミラルダの市場でも見たことがないよ」

「はっはっはっ、こいつをミラルダで売ることができたら高値がつくかもしれないな」


 たしかに! 

販路を持っていない僕がいきなりレイシーを買うなんて無謀はしないけど、荷運びをすれば商売は可能だ。

でも今のボートじゃ大量の荷物は積めないよな。

商品価値の高い物を少量載せるくらいしかない。

今できそうなのは高速艇として、人々を特別料金で運ぶくらいかな。

レベルが上がって大型船を所有できるようになったら貿易を初めてもいいかもしれない。

お土産にレイシーを買って、露店を後にした。



 シエラさんが宿屋に戻ってきたのはすっかり夜も更けてからのことだった。

少しだけ疲れた表情をしている。


「ただいま。会議が長引いてこんな時間になってしまったよ」

「お帰りなさい。あれっ、そちらの人は?」


 シエラさんの後ろに背の低い女の子が立っていた。

年齢は僕より少し上のようだ。

くりくりとした目はいきいきとしていて、人懐っこそうな笑顔をした人だった。

茶色の髪を二つに結んで西部地方らしい派手な服を身に着けている。


「これは友人のルネルナ・ニーグリッドだ」

「はじめまして、レニー君! シエラに貴方のことを聞いて興味が湧いてしまってね、ぜひ会ってみたくて付いてきたの」


 ルネルナさんは声も大きく、弾むような話し方をする。

ずいぶんと元気のいい人だ。


「こんなところで話もなんだな。夕飯を食べながらにしよう」


 シエラさんの提案で僕らは食堂へと移動した。



「えっ⁉ ルネルナさんって、あのニーグリッド商会の会頭の娘さんなんですか?」

「そうよ。今は修業のためにカサック支所で働いているの」


 ニーグリッド商会はハイネーン王国でもトップクラスの豪商だ。

つまりこの人は超がつくお嬢様なわけだ。

そんな人が僕に何の用だろう?


「レニー君」

「はい?」

「お姉さんのモノにならない?」

「はっ?」


 いきなり何のお誘いだ?


「おい、ルネルナ」


 シエラさんも怒ったようにルネルナさんをこづいている。


「あはは、言い方が悪かったわね。私はレニー君を専属の船長として雇いたいなって考えているのよ」

「僕をですか?」

「ええ。シエラに聞いたんだけど、君の船を使えばたったの9時間でミラルダ―カサック間を航行できるんだって?」


 ルネルナさんの目が怪しく光っていた。


挿絵(By みてみん)


たくさんの評価とブックマークをありがとうございました。

本日は夜にもう一本更新予定です!

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