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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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イカルガのお披露目

 イワクス1でコンスタンティプルまでやってくると、僕は一番大きな船着き場を二つ借りた。

一つは船外機付きボートを満載した高速輸送客船を召喚するため。

もう一つはイカルガを召喚するためだ。

 イカルガは大きすぎて、当然のごとく船着き場からはみ出してしまうのだけど、一部が接岸していれば何とかなるだろう。

僕の『船長』能力は超大型船にも有効で、命じれば停泊しているし、呼び寄せることも可能だ。


 『地理情報』で確認したけど水深も何とかなりそうである。


「ここであの船を呼び出して大丈夫なのですか?」


 護衛としてついてきてくれたカイ隊長が生真面目そうに心配している。


「問題ありませんよ。今回はお披露目のために召喚するだけで出航はしませんしね」

「さようですか。でも、いずれこの港からファンローへ航路を開かれるのですよね? あのように大きな船がうまく出航できるのでしょうか?」


 これからお客さんを募って2か月後には出発の予定になっている。


「はい。それでも問題はありません。イカルガにはバウスラスターという装置が付いていますので」

「ばうすら……?」

「船を横に動かしたり、回転させたりするためのスクリューで、イカルガ前方の両側についているんです」

「横に動ける船ですか……。やはり我々の想像を超える船ですな」


 カイ隊長をはじめとした白狼隊の一部にはイカルガの護衛を任せる予定だ。

船はファンロー行きだから、彼らにとってはたまの里帰りになるからね。

それにファンロー軍の制服は独特の雰囲気を持っていて、異国への旅という感じを際立たせてくれる。


 今回は総料理長であるミーナさんが監修したファンロー料理も大きな目玉だ。

ファンローの皇帝陛下に迎賓館でご馳走になったあの料理の数々を、ミーナさんは完全コピーしているんだよ!


「それではイカルガを召喚します。人が集まってくると思いますのでカイ隊長は警備をお願いしますね」

「はっ! 不審者が近づかないように埠頭の入り口を封鎖いたします」


 イワクス1で随行した白狼隊員は60名だ。優秀な人たちばかりなのでこれだけいれば警備は問題ないだろう。

船を送還するとき、荷物は積んでおけるのだけど人間が乗ったままでは不可能だ。

だから、人員はイワクスや他の船で移動しなくてはならないのだ。


「積み荷の上げ下ろしはどういたしますか?」

「それはゴーレムたちがいるから大丈夫ですよ。人間は無理でもセーラーSやセーラー1は乗せておけますので」


 ルネルナさんはさっそくコンスタンティプルのお偉方にイカルガの素晴らしさを売り込みに行っている。

明日になれば物見高いお客さんが大勢やってくるだろう。

それまでにいろいろと準備を整えておく必要があった。


 イカルガを召喚するとコンスタンティプルの港は大騒ぎになってしまった。

高速輸送客船の四倍、輸送艦の倍はある巨大クルーズ船だもんね。

九層のデッキの背も高くて、はるか遠くからだって目立つに違いない。

今も見物人が続々と埠頭の方にやってきている。

港で働く人々も作業の手を止めて、驚愕の様子でこちらをみていた。


「あ、あれはどこの船だ。突然現れやがったぞ!?」

「守っているのはファンローの兵士みたいだぞ。ファンローの船じゃないのか?」

「いや、こんなことができるのはあいつしかいないと思う」

「あいつ?」

「カガミ伯爵だよ。カガミゼネラルカンパニーの」

「おお! 船外機付きボートを売りだしているあの商会か!」


 イワクスのシートで固まった体をほぐそうと散歩に出た僕のすぐ横で、おじさんたちがうわさ話をしている。

カガミゼネラルカンパニーの名前も知られてきたようで結構なことだ。


「それにしてもカガミ伯爵ってのはどんな人なんだい? これだけ大きな船をいきなり港に出現させるんだ。とんでもない力を持っているんだろうなぁ……」

「噂によると身長は185㎝を超える大男らしい」


 156㎝しかありません……。


「眼光鋭く、ダガピアの達人だそうだ。カリブティスっていう巨大な化け物をナイフ一本で倒したって評判だぞ」


 それはあり得ないからっ!! 

直径100mはあるイソギンチャクの魔物なんだからね。


「それじゃあ、どっちが化け物かわからないじゃないか。まあ、相当強いってのは本当らしいな」

「強いのは腕っぷしだけじゃないぜ」


 事情通ぶっているおじさんがニヤニヤと笑っている。


「どういうことだい?」

「カガミ伯爵は五人の美女をいつも傍らにはべらせているんだよ」

「五人も?」

「夜の方もかなり強いらしい」

「同時にか!?」

「まあ、そうなんだろうな」


 そんな事実はありません! 

噂って本当に独り歩きするものなんだね。

いちいち否定しているときりがないので、驚くやらあきれるやらしながら僕はその場をそっと離れた。


 ルネルナさんのアイデアで、翌日から有料ながらイカルガを一般公開すると、とんでもない数の人が港へ押しかけてきた。

あまりの人数に国軍が人の流れを整理する事態に陥っている。


 一人頭3000ジェニーという安くない金額設定をしたのだけど、富裕層だけじゃなくて一般庶民も続々と押し寄せているようだ。

お昼までの累計乗船数はすでに8000人を超えて現在は入場者を制限している最中だ。

スケートリンクや一部のプールを追加料金なしで開放したためだろう。

高級なレストランだけじゃなく、お値打ち価格のカフェテリアなどもあり、庶民もお手頃価格で珍しい食事を楽しめるようになっている。


 僕もセーラーSの作ってくれたホットドッグというものを食べてみたけどとても美味しかった。

大きなソーセージ、バターソテーしたキャベツがパンに挟んであって、かみしめるとソーセージから熱々の肉汁がほとばしるんだ。

それがケチャップと呼ばれるソースやマスタードという芥子と混然一体になって口の中をぶんなぐってくる。


 あれは暴力だね……。

お上品な料理とは言えないけど圧倒的な力を秘めた食の暴挙だったと思う。

それにコーラやシェイクという飲み物もステキだった。


 飛ぶように売れる売店の品物を見ながら、僕とルネルナさんは今後のことを話し合っていた。


「喜んで、レニー。ファンロー行のお客さんの予約が入り始めたわ」

「もうですか!?」


 募集を開始したのは昨日だというのに、みんな気が早いんだな。


「商人たちがファンローへの販路、買い付け先を求めて乗るのよ。それだけじゃないわ。いろんな国からも問い合わせが来ているの」

「国からですか? どうしてまた」

「ファンロー帝国への使節団を乗せたいみたいよ。外交官や留学生などなど、一国だけで最低でも300人以上にはなるわね」


 高官も乗るので護衛の人だけでもかなりの数になるらしい。


「何はともあれ幸先がよくて助かりますね。これなら次のルギアでのお披露目も大盛況でしょう」

「ねえ、レニー。帰り道もお客さんをいっぱいにするためにファンロー帝国でもお披露目をしましょうよ」


 つまり、ルギア港でイカルガを披露したら、イワクスでファンロー帝国まで行くってこと?


「う~ん……」


 少し迷ってしまった。

ファンロー ― ベッパー間は8000キロ以上あるのだ。

イワクスの航続可能距離はスピードを上げると1000㎞くらいにしかならない。

途中で魔石を補充し、メンテナンスの送還をしながらだと、最低3日はかかる距離だ。

それに、補充のための陸地に寄るなら、最短距離というわけにもいかない。


 まあ、不可能ではないよな……。

それにやっぱりローエンに会いたい! 

あってネピュラスの神像を自慢するんだ!!


「では、イワクス2でファンローへ行きますか。現地でイカルガを召喚しましょう」

「そう来なくっちゃ! 向こうでの売り込み広告を作らないといけないわね。宣伝にローエン皇子が協力してくれるかしら?」


 好奇心の強さは帝国随一だから、真っ先に乗りに来ると思うな。


「たぶん大丈夫ですよ。問題がなければ皇帝陛下をご招待してもいいですよね。それまでに注文されたボートを納品できるようにしないといけませんが」

「復路もお客をいっぱいにして帰るわ。ルギアとファンロー間の定期船を定着させるわよ!」


 ルネルナさんの商魂に火をつけてしまった!?


「すごい意気込みですね」

「当り前じゃない。そうやって人と物が交流することによって文化と経済が発展するのよ。そして……」

「そして?」

「私たちも大儲けだわ!」


 うん……まあそれでいいと思う。

何かをするにはお金が必要だからね。

今の僕らは魔石を大量に必要としている。

ベッパーを、そしてロックナ王国を復興させなければならないのだから。

よし、ルギア港を回ったらファンローに向けて出発だ!



本日もお読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 好き嫌いは無いみたいだけど レニー君そういう食べ物が好きなお年頃か。
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