イカルガⅡ
翌日も調査を続けたけど目ぼしいものはほとんど発見できなかった。
武器や冠があったから、ひょっとしたらオリハルコンの鎧も、なんて期待したけどそこまで都合よくことは運ばなかった。
盾と冠と剣が見つかったんだから、これ以上望むのは欲張りすぎかな。
古代文字もいくつか発見したけど、重要な文献などは見つかっていない。
「レニー、新しい石板を見つけてきたぞ。これは何と書いてある? 何かの手掛かりじゃないのか?」
フィオナさんが勢いよく浮上してきたけど、見つけてきた石板には「いつもきれいにご利用していただきありがとうございます」なんて文言が書かれているだけだった。
神殿だけに祈りの場所にでもかけてあったのかな?
礼拝室はきれいに使わないといけないもんね。
古代文明に関しては今後の進展に期待するしかないようだ。
名残は尽きなかったけど、差し迫った用事のある僕らは渋々ベッパーへと引き上げることになった。
迎えのイワクス2に乗り込み、魔の海峡からベッパーへ向かって移動中に僕のレベルはまた上がった。
僕がいない間も輸送艦や艦載機は動き続け、魔物を倒し続けているのだ。
それらの数値がまとまって僕のレベルアップにつながったのだろう。
職業 船長(Lv.25)
MP 64891
所有スキル「気象予測」「ダガピア」「地理情報」「二重召喚」「伝導の儀式」「三重召喚」
船長の固有スキル「潜水能力」を獲得。水深200mまでの素潜りを可能にする。息継ぎなしで30分以上の活動が可能になる。
新所有船舶
■大型クルーズ客船(イカルガⅡ型):最大級の超豪華客船
基準排水量:22万5362t 全長:362m 全幅:66m
最大速度40㎞/h
9層のデッキをもつ巨大豪華客船。5000人以上の乗客を乗せることができる。
レストラン、ラウンジ、バー、多目的ホール、プール、スパなどがそれぞれ複数用意されており、甲板公園、スケートリンク、各種競技が可能なグラウンド、サーフィンが可能なプール、劇場、遊園地、フィットネスクラブ、図書館、ショッピングモールなども揃っている。
動くリゾートとして快適でラグジュアリーな船旅が楽しめるようになっている。
専用ゴーレム:セーラーS×500体が働く
ヘリポート×2 全天候型ヘリコプター:クジャク(最高時速320㎞ 航続距離870㎞)
これまた大きな船を召喚できるようになってしまった。
僕の船の中では輸送艦が最大だったんだけど、新しい客船の大きさはその更に上をいっている。
ちなみに、輸送艦の大きさは以下の通りだ。
基準排水量:8900t 全長:179m 最大幅25.9m 喫水:6m 最大速度:42㎞/h
比べてもらえば大型クルーズ客船がいかに大きいかわかるだろう?
倍以上だよ!
しかも豪華さだって半端じゃない。
高速輸送客船も豪華だと思ったけど、こちらの施設は追随を許さないほどにすごい。
見たこともないような洗練されたデザインで、客室の一つ一つが高速輸送客船より一回り以上広いのだ。
上層部の部屋だとバルコニーがあったり、ロフトがあったり、ミニバーなんかまでついている。
しかも使用人型ゴーレムであるセーラーSが船内の各所にいて、乗客の願いをかなえてくれる。
セーラーSは二足歩行の人間とほとんど同じような体形をしていて、身長は165センチくらいのゴーレムだ。
顔はのっぺりしていて表情とかはないんだけど、動きはスムーズで優雅とすらいえる。
一体一体が一流の執事みたいだ。
ゴーレムだから性別などはないんだけど、全員が白地にネイビーブルーの船員服を着ていた。
セーラー1のように力持ちではないけれど、使用人型だけあって人間との会話だってある程度可能だ。
船内の案内や食事の給仕、掃除に洗濯、料理だってこなせる。
哲学などの難しい会話は無理だけど、船旅で必要なことは大抵理解してやってくれるようだ。
ただ、この船は客船なので貨物の積める容量がほとんどない。
僕としては貿易用の大型船が欲しかったけど仕方がないか。
ほら、船外機付きボートの発注は世界の各地からきているから、どうせなら巨大な貿易船が欲しかったんだよね。
まあ、この船でもボートの数十台は積めるか……。
イワクス1は洋上を高速でベッパーに帰還中だ。
あと1時間もしないうちに到着するだろう。
戻ったらさっそくお姉さんたちに集まってもらって、みんなの前で召喚してみるとしよう。
ベッパーに戻ると、出迎えてくれたアルシオ陛下とルネルナさんに海底遺跡から上がった遺品を披露した。
二人とも数千年は経つ古代文明の品に感心し通しだ。
「ネピュラスという神の像も一部引き上げてきました。こちらは地上で復元しようと思っています」
「それがいい。復元ができたなら総督府の一部に展示して自由に見てもらうのもいいだろう」
アルシオ陛下が提案してくる。
つまり博物館を作るってこと?
「それはいい考えですね! 復元された神像にオリハルコンの装飾をつけてみんなに見てもらいましょう」
オリハルコンを売って現金にするという手もあるけど、これらの品には学術的な価値があるそうだ。
ロックナという王国を復興させるのなら、目先の現金も大切だけど、こうした文化も保護していかなければならないとアルシオ陛下が教えてくれた。
ただ、資金繰りの大変さもよくわかっている。
これだけのオリハルコンを売れば様々な分野で予算が潤沢になるのも事実だ。
そこら辺のところはどうなのだろうかと、主計長ルネルナさんをちらっと見た。
「レニー……、貴方は私をお金の亡者とでも思っている?」
「とんでもない!」
「でも、今心配そうに私のことを見ていたでしょう?」
僕のチラ見はルネルナさんにとってのガン見なの!?
「その……予算が火の車なのはよく知っていますから」
「まったく……、私だって文化事業の大切さは理解していますからね!」
ルネルナさんがちょっとだけふくれっ面になってしまった。
「それに、船外機付きボートの販売は予想以上に順調よ。レニーたちがいなかった間にも続々と注文が入ってきているわ。職人をさらに増やす必要があるくらいよ」
留守中にルネルナさんは高速輸送客船に船外機付きボートを積んで、ルギア港へ最初の出荷をしてきたそうだ。
「えっ? もう行ってきたんですか?」
「注文がひっきりなしに入ってくるから、予定を繰り上げて出航したの。もう2~3隻、輸送船がほしいくらいよ」
それはちょうどよかった。
「実はレベルが上がって、新しい船を召喚できるようになりました」
みんなが一斉に僕を見つめた。
「新しい船は大型クルーズ客船なので交易には不向きなんですけどね」
「クルーズ船って、クルーザーみたいな船?」
ミーナさんが質問してくる。
「そうですねえ……、あれを巨大にした感じです」
「巨大って……」
「客船もクルーザーも既にあるから、名前が紛らわしいですね。同じシャングリラ号ですけど、今度の船はイカルガと呼ぶことにします」
「イカルガ?」
「そういう型だそうです」
僕らは輸送艦が停泊している船着き場を歩いて、端のほうまでやってきた。
「これくらいのスペースがあれば大丈夫かな?」
一通り歩いて船着き場のスペースを確かめておく。
「おいレニー、ずいぶんと歩くけど、そんなにでかいのか?」
フィオナさんが興奮した顔を近づけてきた。
「全長が362mもあるんですよ」
「輸送艦よりさらにでかいのか!?」
「ええ。よし、召喚します」
僕は精神を落ち着けて魔力を高めた。
初めての船を召喚する高揚感が僕を満たしていく。
「召喚、大型クルーズ船!」
青、赤、緑、黄、白、黒をした六重の魔法陣が海面に浮かび上がり、連動するようにクルクルと回転していく。
そうしてあらわれたのは白い船体を輝かせた巨大な豪華客船だった。
「これがイカルガⅡか……」
あまりの立派さにみんなでワイワイと騒いでいると、船と陸を繋ぐタラップの上から声をかけられた。
「お待ちしておりました、船長」
もしかして、あれがセーラーS?
男性とも女性ともつかない不思議な声をしているんだな。
「君たちがセーラーSだね。よろしく!」
「さっそく船内をご案内いたしましょう。どうぞご乗船ください」
僕らはセーラーSに導かれてイカルガⅡへと搭乗した。
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