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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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寝相

 日が暮れる前に僕らはその日の探索を打ち切った。

夜の海は危険だし、明るいうちにキャンプスペースを確保したかったのだ。


「装甲輸送船の中にマットを敷きますよ! 皆さん自分の荷物をどかしてください!」


 頑張って作業していると上目づかいのシエラさんが質問してくる。


「か、確認なのだが、本当に全員でこの中で寝るのだな?」


 シエラさんの心配はもっともだ。

装甲兵員輸送艦は狭いし、この中で男子は僕一人だもんな……。


「シートを上げれば、四人で並んで寝てもいけると思ったんです。あの、僕は外でも構いませんので」

「そういう意味じゃないんだ! 私は全く構わない。むしろ歓迎する事態だ……」


 歓迎?


「あ、もしかしてシエラさんはキャンプとかがお好きなのですか?」

「えっ……? いや……実はそうなのだよ! うん、私はキャンプが大好きでな、こういう狭い場所で寝るのも旅の醍醐味というやつだと思うのだ。実にたまらん!」

「それを聞いて安心しました。でもちょっと心配だな……」

「どうしたんだい?」

「僕は寝相がよくないんです」

「なん……だと……」


 あまり褒められたことじゃないけど、先に説明しておいた方がいいだろう。


「伝導の儀式の時は魔法的作用が働いて手を握り続けていたでしょう? それであまり動かずにすんだのですけど、今度はそうもいきません。シエラさんにぶつかってしまったらどうしよう……」

「エクストラボーナスじゃないか……」

「はっ?」

「い、いや、気にすることはないと言いたかったのだ! 例えレニー君が私の毛布に入り込んでも受け入れる準備はあるから」

「え?」

「つ、つまりだな、私はそれくらい平気だと言いたいのだ。なにせ鍛え方が違うからな。レニー君の膝小僧がぶつかるくらい(そんなことになったら悶え死ぬ)どうってことないさ」

「さすがはシエラさんだ。それを聞いて安心しました。じゃあ僕は壁とシエラさんの間で寝かせてもらおうかな」

「私もそれがいいと思うぞ……」

「あらあ、なんのお話をしているのかしら?」


 あ、ミーナさんだ。


「今夜の眠る位置を考えていたんです。僕は寝相が悪いから」

「それなら私の横にいるといいわ。私は冷え性だからレニー君に横にいてもらいたいの」


 そうだったんだ!


「わかります。死んだじいちゃんも冬の寒い日は一緒に寝てくれって言ってました。レニーは湯たんぽみたいに温かいからって」

「それじゃあ、コウスケさんのお墨付きね。よろしくお願いするわ」

「ちょっと待ったぁ!」


 今度はフィオナさんが現れた。


「アタシも冷え性なんだ」

「それはないでしょう?」


 むしろフィオナさんは暑がりだと思う。

ちょっと暑いだけですぐに上着を脱いで、タンクトップ一枚でうろうろするのだ。


「最近体質が変わったんだ。た、たぶん、歳のせいかと……」

「本当ですか?」

「本当だよ。それに、こんなところで野宿は怖いじゃないか! だからレニーの隣がいいんだ」


 そう言われると断りにくい。

フィオナさんならどこでだって寝られると思っていたけど、意外と神経質なところもあるようだ。

それに、やっぱり頼られるのは嬉しいからね。


「この話は女同士でしない?」


 いつになくミーナさんが場を仕切っている。


「よかろう……」

「わかったよ」


 なんだか知らないけど、皆で話し合って決めてくれるみたいだ。


「それじゃあ僕はご飯を作ってきますね」

「え、それは私が」


 ミーナさんが手伝ってくれようとしたけど、僕はそれをお断りした。


「今日一番の功労者は宝剣を発見したミーナさんですよ。だからお祝いのご飯は僕が作ります。それにいつも作ってもらってばかりでは申し訳ないですから、たまには僕にご馳走させてください」

「そうなの?」

「はい。自信はありませんが、一生懸命頑張ります! シエラさんもフィオナさんものんびりしていてくださいね」


 お姉さんたちには休んでもらっておいて、僕は用意してきた食材を取り出した。


 僕が作る料理だから、夕飯のメニューはシンプルなものばかりになった。

やっぱりミーナさんのようなプロの技には遠く及ばない。

同じ魚介のスープにしたって、ミーナさんが作るものの方が一味も二味も美味しいのだ。


「料理は小さな仕事の積み重ねですからね」


 ミーナさんはそう言っていた。

魚をさばくにしても、きれいに内臓を取り除き手早く下処理をすることが望まれる。

まずここで力の差が出るのだろう。

こういった差は料理が工程を経るたびに大きくなって、最終的な味の差に繋がるのだと思う。

やっぱりミーナさんはすごいや!


「このスープとっても美味しいわ! 人に作ってもらう料理って嬉しいわよね」


 それでもミーナさんは僕の料理を美味しそうに食べてくれる。


「いかがですか、シエラさん?」

「美味しくて気が遠くなりそうだ。幸せ……」


 気が遠く? 

バジルなどのハーブは入れたけど、違法なクスリは使ってないですよ!


 ご飯を食べながら、僕らは明日の調査について話しあった。


「どんなものでも構わないので文字が書き付けてあるものを確認しましょう」

「そうだな、ひょっとしたら古代文明ミャウの手がかりがあるかもしれない」


 フィオナさんが熱心に頷いている。


「これは当てずっぽうに近い推測ですけど、ミャウはアドレイア海のどこかにあると思うんですよね」

「その意見にはアタシも賛成だな」

「だが、一口にアドレイア海といっても広すぎるぞ」


 シエラさんに指摘されるまでもなく、現実はなかなか厳しい。


「各地に派遣しているカガミゼネラルカンパニーの駐在員に古代文明の情報を集めてもらうのはどうかしら?」

「そうですね、ミーナさん。帰ったらルネルナさんに相談してみましょう」


 各所にある古代文字が読めれば何か手掛かりが見つかるかもしれない。


「そうと決まれば、イワクスで古文書巡りだな!」


 フィオナさんが元気よく提案するけどそうはいかない。


「それは無理ですよ。そろそろ魔導エンジン付きボートの納品が迫ってきているじゃないですか」

「うっ、そうだった」

「残念ですけど、あまり時間をかけてはいられませんよ」


 僕も納品のためにファンローへ行き、ローエンに会ってくるつもりだ。

オリハルコンの盾や剣のことを自慢したいけど、カイ隊長には秘密にしておくと約束してしまったからなぁ……。

ローエンに会う時は調査も終わっていることだし、まあいいか!


 心配していた寝相なんだけど……、やけにお姉さん二人がくっついてきて寝返りさえ打つことができなかった。

そんなに狭かったかな? 

それと、いつの間にかお姉さんの位置が入れ替わっていた。


 最初はシエラさんとミーナさんに挟まれていたはずなのに、夜中に起きたらフィオナさんとシエラさんに挟まれていたんだ。

それで、朝起きたらフィオナさんとミーナさんが僕の隣にいた……。

いったいどうなっていたんだろう? 

もしかして、僕よりお姉さんたちの方が寝相は悪かったのかな?


最後までお読みいただきありがとうございました。

感想や評価などをしていただけると嬉しいです。


そろそろ新しい船が……

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― 新着の感想 ―
[一言] 多分レニー君の知らない所で凄いサイレントながらも熾烈な駆け引きがあったに違いない
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