水賊
本日三本目です。
レビンでの休憩からさらに3時間が経過した。
今日一日で5時間、200キロくらいを旅してきている。
総走行距離は280キロに達し、次のレベルアップまでは残り40キロとなった。
「そろそろ正午だな。レニー君、どこかで休憩して昼食にしようじゃないか」
「そうですね。少しお腹が空いてきました」
お昼ご飯はレビンでシエラさんが卵サンドイッチを買っておいてくれた。
ライ麦パンにスライスしたゆで卵とタマネギ、チーズなどを挟んだ、この地域では非常にポピュラーな食べ物だ。
ちなみにカガミ家の卵サンドといえば、潰したゆで卵にマヨネーズを混ぜたものを挟んだものを指す。
マヨネーズは一般的な食べ物ではないということを最近まで僕は知らなかった。
あんなに美味しいのに世間には知られていないようだ。
これもじいちゃんのオリジナルレシピなのだろう。
川に大木が大きく枝を張り出しているところがあった。
あそこなら日陰になっていて過ごしやすそうだ。
春とは言え今日は日差しが強くて少し暑いくらいだから、休憩場所はそこに決めた。
船を止めるとシエラさんが魔法で紅茶を淹れてくれた。
魔法戦士たる騎士だけあって魔力調節が上手い。
右手で真鍮のポットを持ち、左手で器用に炎を作り出している。お湯が沸くとポットに直接茶葉を入れて紅茶を煮出していた。
「さあ、飲みたまえ。元気が出てくるよ」
金属製のマグカップで飲む甘い紅茶は、旅情の香りが添えられてなお一層風味豊かに感じる。
「とっても美味しいです。いつもこんな風に紅茶を淹れているのですか?」
「前線ではこんな感じだな。もっとも普段なら従者がやる仕事だがね」
「あっ、騎士様にこんなことをさせるなんて、僕が淹れた方がよかったのかな?」
「そんなことを気にすることはないよ。君は私の従者じゃないんだから」
シエラさんは優しく微笑んでサンドイッチを渡してくれた。
きりりとした表情が多い人なので、笑顔を見せると余計に可愛く見えてしまう。
なんとなくソワソワした気持ちで僕は紅茶をすすった。
二人で並んでお昼ご飯を食べていると、上流の方から帆を張った小型船が三艘こちらに近づいてきた。
小型船とは言っても、シャングリラ号より少し大きいくらいの船だ。
川幅は広いというのに船は並んだ状態でこちらに近づいてくる。
上流を見つめながらモグモグとサンドイッチを食べていたシエラさんの眉根が少しだけ寄っている。
「レニー君、気をつけていてくれ。ひょっとするとよからぬ輩かもしれない」
「はい」
水賊が現れたのかもしれない。
「それとな……」
シエラさんが珍しく口ごもった。
「どうしたんですか? 僕のことなら心配しないでください。いつでも発進できるように船を待機させておきますから」
「そうではない。あの程度の水賊なら私一人でも余裕で対処できる……」
攻撃魔法を使える騎士はとてつもなく強い。
一般人では50人が束になっても敵わないとまで言われている。
そんな騎士が何の心配をしているのだ?
「その……お願いがあるのだ」
「お願い?」
もじもじとしている姿がちょっとかわいい……。
「あのな、実戦に機銃を投入してもいいかな?」
ええ!?
シエラさんは顔を赤らめながら機銃をチラチラと眺めている。
前言は撤回だ。
この人は単なるバトルジャンキーかもしれない。
「いいですけど、やりすぎはダメですよ」
「心得ている!」
あ~あ、なんて嬉しそうな顔をしているんだろう。
水賊にちょっとだけ同情してしまった。
現れたのはどこからどう見ても盗賊にしか見えないような集団だった。
「ヒュ~、見たこともないような船がいると思ったら、いい女が乗っているじゃねえか!」
「有り金と荷物を奪ったら命だけは助けてやるぜ。もっとも、そちらの姉ちゃんは俺たちと一緒に来てもらうがな」
何も知らない水賊が馬鹿笑いをしている。
君たちが喧嘩を売っている相手はハイネーン王国が誇る最強の騎士団の一員だ。
しかも新しい機銃を試したくてうずうずしている、ちょっとだけヤバ目な人なのに。
シエラさんは20人以上の水賊に囲まれても平然とした態度を崩していなかった。
「なかなかいい度胸をしているな。私はハイネーン王国・ルマンド騎士団に所属するシエラ・ライラックだ。名乗ったからには後には退かん。お前たち、覚悟することだな」
シエラさんが騎士だと聞いて水賊たちの顔色が変わった。
それはそうだ。騎士団は常に最前線で魔物と戦う最強の軍団だ。
戦いの中で磨かれた魔法と武技に一般人が敵うはずもない。
「ハ、ハッタリだ。こいつは嘘をついている!」
人間って自分が信じたいものを信じるんだって。
じっちゃが言ってた!
「そ、そうだ。たとえ騎士であっても俺たちが全員でかかれば……」
水賊たちの対応をみてシエラさんがニヤリと笑う。
「お前ら全員を捕縛してやる。まずは……」
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!
シエラさんは機銃を使っていきなり敵船の胴体に穴を開けていた。
威嚇射撃じゃなくてしょっぱなから攻撃!?
バリバリと音を立てながら木製の船は砕け散っていく。
「アハハハハハッ! これでもう逃げられないぞ」
いえ、全員水に飛びこんで逃げてますって。
機銃の威力を目の当たりにした水賊たちは泡を食って冷たい水に飛び込んでいる。
残っている2艘も錨を上げて逃げ出そうとした。
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!
「逃がさない。逃がすものか!」
また一つ船が沈む。
「ダメですよ、シエラさん! 船を全部破壊したら、捕縛した奴らを乗せるものがなくなります!」
僕は慌ててシエラさんを止めた。
「そう、もうおしまいか……」
2艘の船に穴を開けたシエラさんは名残惜しそうに機銃から手を離した。
「歯ごたえがなさ過ぎて困る。もっとこの武器の性能を十全に試せる敵に遭遇したいものだ」
遭遇したくありません!
シエラさんは魔法で水面に氷を張って、そこを走って水賊を捕まえた。
捕まえては殴って気絶させ、気絶したら船に放り投げるを繰り返している。
その間僕は機銃を構えて残った船を見張った。
「動かないでよ。動いたら遠慮なく撃つからね」
すでに機銃の威力を見せつけられていた水賊はカクカクと首を振りながら、その場にじっとしていた。
こうして20人の水賊を一人残らず捉えることに成功した僕たちは、水賊の船をけん引しながら次の街を目指すことにした。
移動速度は落ちてしまったけど、奴らを野放しにしておくことはできない。
「水賊はどうなるんですか?」
「おそらく北の大地で強制労働だ。国境の町で開拓に従事させられるだろう」
かなりきつめの刑罰が待っているようだ。
20キロほど進んだルクワの警備隊に水賊を引き渡して僕たちは先を目指した。
カサックまではあと115キロ、次のレベルアップまではあと20キロになっている。
目前に迫ったレベル7に思いを馳せながら、僕は再びシャングリラ号のスピードを上げるのだった。
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