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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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探検の予感

 ベッパーに戻ると、港でアルシオ陛下とフィオナさんが出迎えてくれた。


「おかえり、レニー。変わりはないか?」

「ただいま戻りました、陛下。こちらの方は順調でしたよ。お宝もたくさん見つかりましたし、素材になりそうなインゴットなんかも見つけてきました」

「それは頼もしいな。わらわも行ってみたかったが、わがままは言えないか……」


 陛下は立場上あまりベッパーを離れられない。

でも、陛下の残念そうな顔を見ていると可哀そうになってくる。

たまには息抜きをさせてあげないと心労が大きくなってしまうんじゃないかな?


「そうですね、次回のサルベージにはご一緒できるよう、ノキア将軍に相談してみましょう」


 そう言ってあげると、アルシオ陛下の眉間のしわが取れて、とっても可愛く微笑まれた。


「いいのか?」

「もちろんです。その代わり陛下にも働いてもらいますよ」

「任せておくがよい。セイリュウで海中へいくのか……実に楽しみだ!」


 アルシオ陛下の顔が明るく輝いている。

これは何としてもノキア将軍たちを説き伏せないとダメだな。


「おーい、レニー! このインゴットは工場に運んでしまっていいのか?」


 荷物を点検していたフィオナさんが声をかけてくる。


「はい。かなり錆びていますけど大丈夫ですか?」

「ああ、どうせ溶かして使うんだ。なんの問題もないよ。おや、この丸いのは何だ? ずいぶんと汚いな」


 フィオナさんはインゴットの横に置いておいた盾をつついている。

まだ貝やフジツボが付いたままの状態だ。


「それは海中に沈んでいた盾ですよ。金属製みたいだから資材用に拾ってきたんです」

「じゃあこれも一緒に運んじまうか」


 荷物は大量にあったので仕分けをするのも一苦労だけど、トラックとセーラー1が今日も大活躍だった。


 午後は久しぶりにアルシオ陛下と書類仕事をした。

まずは様々な予算書や計画書に目を通していく。

来月の船外機付きボートの予想月産量は120艘だけど、再来月には500艘まで増やす目標だ。


「レニーがサルベージに出ていた間にもボートの注文が相次いでいてな、このままではとても供給が追い付かない状態になっているのだ」

「現在の注文数はどれくらいですか?」

「全部で829艘だよ。おそらくだが来月にはこの倍以上の注文が来そうな勢いだ」

「職人だけじゃなくて事務方の人間も必要になってきますね、ふぅ……」


 思わずため息をついたら、アルシオ陛下に笑われてしまった。


「レニーは事務仕事が苦手のようだな」

「えへへ、やっぱり船に乗っている方が好きですよ、船長ですから。アルシオ陛下は平気なのですか?」

「私は……こうしてレニーと一緒にいられるだけで楽しいな。充実している気がする」


 スッと立ち上がった陛下が僕の方へと歩み寄ってきた。

そして、後ろから手を僕の肩に乗せてゆっくりと撫でてくる。


「疲れてはいないか、レニー?」


 スベスベとした陛下の手が僕の首から肩の方へゆっくりと行き来している。

いきなりのことでびっくりしたけど、なんだか気持ちがいい……。

ドキドキするのと同時に、ちょっぴり安らいだ気分になるのはなんでだろう? 

そういえば、誰かに撫でてもらうなんて、ずいぶん久しぶりのことだ。


「若いですから疲れているなんてことは……」

「そうか? だが、無理はよくないぞ」


 首のすぐ後ろで陛下の声が聞こえる。

いい匂いがしてきて陛下の顔が僕のすぐ後ろにあることがわかった。


「へ、陛下……」

「少しじっとしておれ……」


 そんなこと言われても……。

執務室の空気が濃密になったかのように、僕は息苦しさを感じた。

だって陛下の吐息はアーモンドの香りがするんだもん。

耳の横をスライドして陛下の顔がゆっくりと近づいてくる。

少しだけ顔をかたむけるけど、陛下の表情は近すぎてよくわからない。

見えたのは小さく開かれた唇と、赤く色づく舌先だけだ。

え? もしかしてこのままキスをする気? 

離れなきゃと思うんだけど体が動かない。


「レニー!」


 突如、勢いよく開いた扉からフィオナさんが室内に飛び込んできた。

それと同時にアルシオ陛下も僕から離れる。

それまで執務室に満ちていた雰囲気は木端微塵こっぱみじんに砕かれた。


「どうしたんです?」


 アルシオ陛下とキスしそうになったことを責められるのかな?


「どうしたじゃない! あの盾はどこで見つけた?」


 へっ? キスのことじゃない?


「盾って海中から引き揚げたあれですか? どこと言われても正確な場所は記録していないので……」

「大体の場所でもいいから思い出せ! 記憶をほじくり出してすぐにメモしろ!」


 また無茶を言うなあ。


「あの盾がどうしたっていうんですか?」

「炉に入れる前に洗浄してわかったんだが、あれ、オリハルコンだぞ」

「はぁっ!? ……間違いないんですか?」

「アタシを誰だと思っている? これでも金属に関しては詳しいんだ。他の鍛冶師にも見せて確認してある」


 本当だとすれば大変なことだぞ。

オリハルコンと言えば超古代文明が生み出した究極の合金だ。

現代でもわずかに残ってはいるのだけど、希少すぎて滅多に市場には出回らない。

形見のナイフはオリハルコン製だけど、これだけの材料を集めるために10年以上かかったとじいちゃんは言っていた。

それなのにあの盾は2m近くあったはずだ……。

あれほど大きなオリハルコンの塊はこれまで発見されていないはずだ。

資産的、学術的価値は計り知れない。


「レニー、海底調査だ! ほかにも価値のあるものが落ちているかもしれないし、ひょっとすると古代文明の遺跡なんかがあるかもしれないんだ。今度は絶対に私も行くからな!」


 本当に古代文明の手掛かりがあるのなら調査はしなければならない。

僕だって興味があるからね。


「わかりました。さっそく調査の用意をしましょう!」


 古代文明の遺跡か……。

セイリュウを使えば調査はしやすいと思うけど、場所をピンポイントで特定できないのが辛い。

だいたいの位置は覚えているけど、正確な場所となると自信はないのだ。

目印は最後にサルベージした沈没船だ。

あれの近くであることは間違いない。


「さっそくセイリュウを調査用に改造するよ」


 手にしたレンチをくるくる回しながらフィオナさんが意気込んでいる。


「ちょっと待ってください。下手にいじれば性能が落ちてしまいますよ」

「大丈夫だって。魔力チャージボックスに魔石を自動供給する装置を取り付けるだけだよ。動きは鈍くなるけど活動時間は大幅にアップするぞ」


 海底の調査だったら長い時間潜っていられる方が便利だとは思うけど、魔物の襲撃が心配だ。


「でしたら、水中で取り外しができる仕様にしてください。すぐに戦闘に移れるように」

「了解だ。さあ、忙しくなってきたぞ!」


 今までだってじゅうぶん忙しかったのに……。

フィオナさんは元気に出ていってしまった。


「何やら大変なことになってきたな」


 アルシオ陛下があっけにとられている。

すっかり毒気を抜かれて、もうキスをする気は失せたようだ。

良かったんだか悪かったんだか……。


「本当ですね。でもすぐに調査というわけにはいかないでしょう。長くベッパーを留守にするなら島の防備も考えなくてはなりません」

「ああ、いては事を仕損しそんじるという言葉もある。調査は長期間になるだろうから準備だけはしっかりしないとな」


 そう言ってから、陛下は小さく苦笑された。


「私が輸送艦で防衛の指揮を執る。レニーは気兼ねなく調査へ行ってくるといい」


 島の最高責任者である僕ら二人が揃って長期間の調査へ出かけることは難しい。

どちらかは残らなければならないのだ。


「陛下、ごめんなさい。いつもお留守番を任せてしまって……」

「気にすることはない。伯爵としてレニーを縛り付けているのは私の方なのだから。だから自由に行っておいで。わらわはここで帰りを待つよ」

「はい……」

「そなたの妻となったとしても、この態度は変えないつもりだ」

「陛下、その話は……」

「おっと、またわらわの悪い癖が出たな。そんなに心配そうな顔をするな。すべてはレニー次第だよ……」


 アルシオ陛下はそう言って、頬にそっとキスをしてくれた。

でも、その時の陛下の顔は僕よりももっと心配そうな顔をしていると思った。


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― 新着の感想 ―
[一言] アルシオ陛下、他のお姉さん達と違って背負ってるものが重すぎるな。
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