セイリュウの戦闘
一休みした後もサルベージは続いていた。
特殊医務室のカプセルのおかげでアルコールも疲労もすっかり抜けている。
僕はもう一度海に潜ってあの幻想的な光景を見たかったのだけど、今度はシエラさんの番だ。
「海の中って独特な美しさがあるんです。シエラさんもきっと気に入ると思いますよ」
「ほほう、それは楽しみだ。では楽しんでくるよ!」
セイリュウのクローで敬礼して、シエラさんは海の中に飛び込んでいった。
こんな調子で僕、シエラさん、ルネルナさん、ミーナさんの順に引き揚げ作業を続け、高速輸送客船の貨物室には次々と荷物が積み上げられていった。
「この赤茶けたのが全部鉄のインゴットですか」
ルネルナさんが海底から拾ってきたのは交易のために運ばれていた鉄の塊だ。
「引っ張り上げたのはいいけど、こんなに錆びていて使えるのかしら?」
「フィオナさんに訊いてみないと詳しいことはわかりませんが、たぶん大丈夫だと思いますよ。これだけあれば船や自動車の素材として助かりますね」
「ええ。かなりの量があるから買ったらそれなりの値段がするもの」
僕らは引き上げた積み荷について喜び合った。
鉄のインゴットは重量があるので、まともに海中から引き上げたとしたらとても苦労したと思う。
だけど、水上でも自由に動けるセイリュウのおかげで次々と貨物室へと荷揚げがされる。
入り口に置かれたインゴットは重量のバランスをとりながらセーラー1達が綺麗に積み上げてくれていた。
僕もゲンブを装着して積み荷を運んでいる。
パワーアシストのおかげでどんなに重い荷物も軽々と抱え上げられた。
「レニー君、そろそろ日が暮れる。今日はここらへんで終了としよう」
慎重なシエラさんが提案してくれたけど、僕はもう一回だけ海に潜ってみたかった。
海の中の静謐で不思議な景色をもう一度だけ見たかったのだ。
「あと一回だけ潜らせてください。それで最後にしますから」
「しょうがないなぁ。あと一回だけだよ」
「シエラはレニーのお願いだとなんでも叶えちゃうわよね」
「う、うるさい、ルネルナ」
お許しが出たので僕はすぐにセイリュウを装着した。
新しい魔石もセット済みで残量魔力は100%になっている。
「それでは行ってきます。最後に大物が見つかることを期待していてくださいね」
僕は海へ飛び込み、あらかじめ決めていた沈没船へと近づいていった。
見定めていた沈没船は水深90mの場所にあり、ダークネルス海峡では比較的深い場所だった。
太陽の明かりは届かず、辺りは真っ暗で、セイリュウのサーチライトだけが頼りだ。
「さて、どこから入ろうかな……」
船内に侵入しやすい場所を探して船の周囲を回っていると、僕のすぐ後ろで何かが高速で迫ってくるのを感じた。
カニのように横スライドをしながら急速反転で身をかわす。
「魔物!?」
僕を攻撃してきたのは巨大なイカの足だった。
樹齢100年の松の幹より太そうで、無数についた吸盤は最大2mはありそうだ。
どうやら泥の中に潜んでいたらしく、魔導レーダーや『地理情報』にも引っかからなかったようである。
「レニー君、大丈夫か?」
「水が濁っていて本体は見えませんが、おそらくクラーケンです」
ちょうどいい機会だからセイリュウの戦闘力を確かめてみよう。
敵がクラーケンなら相手にとって不足はない。
僕は視界の悪い水域を脱出して水の澄んだ場所へと移動する。
うん、クラーケンもちゃんと追いかけてきているな。
そのまま透明な場所までついてくるがいい。
見えていればお前の攻撃を避けるのなんて造作もない。
セイリュウのトップスピードは時速172㎞で、最速の魚といわれるカトラスカジキをも上回るのだ。
次々と伸びてくるイカの足を見切り、左手のクローで切り落としていく。
クラーケンも足が六本なくなった時点で戦意を喪失したようだ。
大量の墨で目くらましをつくり、海底の方へと逃げていくではないか。
「だけど、無駄だよ」
セイリュウには魔力波探知装置やマジックソナーといった機器が備わっている。
クラーケンの位置はもう割れているのだ。
「四連マジックミサイルランチャーを使用してみます」
場所がわかっていれば、このマジックミサイルは自動追尾で追いかけてくれる。
クラーケンのスピードじゃ逃げることはできないのだ。
セイリュウの脚部に搭載されたマジックミサイルが2発発射された。
マジックミサイルは筒のような形状をしていて、先端は丸い流線型をしている。
中には高濃度魔力液と複雑な魔法術式が書いてあり、目標物に接触すると同時に爆裂呪文が炸裂するように設定されているそうだ。
高濃度魔力液についてはフィオナさんでもどのように作り出すかわからないと言っていた。
大きな爆発音がして、衝撃でセイリュウの機体がビリビリと震えた。
おそらく海面もかなり揺れただろう。
各種警戒装置の反応はなく、クラーケンが倒されたことがわかった。
「レニー君、どうなった?」
通信機からシエラさんの興奮した声が聞こえてくる。
「マジックミサイル2発が目標に命中。どうやら、倒したようです」
「そうか、お疲れ様。いったん戻ってくるかい?」
「いいえ、このまま探索を続けます」
沈没船に行く前にクラーケンの死体を確かめたけど、完膚なきまでにバラバラになっていた。
マジックミサイルはかなり強力な攻撃だ。
これなら海の大物でも怖くない。
今後はセイリュウをどんどん実戦で使っていけそうだ。
一つ残念なのはバラバラすぎてクラーケンの魔石が回収できないことだね。
フィオナさんなら魔石探知機を水中でも使えるように改造してくれるかな?
こんど相談してみることにしよう。
そうすれば、大きな魔石がいっぱい拾えそうだからね。
「ん……あれは何だろう?」
引きちぎられたクラーケンの足の横にこんもりとした場所がある。
海藻が揺れているだけなんだけど、妙な違和感を覚えた。
やけに気になって近づいてみると、それは古いラージシールドだった。
いや、ラージシールドなんて簡単に言っていい代物じゃない。
これはまるで巨人が使用するような大きさだ。
縦の長さは2mくらいありそうで、僕がこれまで目にした中では最大級だ。
変わったものを作るのが好きなじいちゃんでさえこれほど大きな盾を作ったことはない。
あ、でも剣なら作っていたな。
『龍殺し』とか言って喜んでいた。
それはともかく、この盾の表面には貝やフジツボなんかがびっしりついている。
これも金属のようだから自動車の材料になるかな?
ついでだから持って帰ることにするか。
持っていたロープで亀の甲羅のように背中へ盾を括り付ける。
ちょっと移動しにくいけど、低速なら何とかなりそうだ。
僕は亀になったまま沈没船へと進み、若干の金貨と腐った絨毯を見つけた。
僕らは三日の間ダークネルス海峡にとどまり、お宝のサルベージに明け暮れた。
おかげで高速輸送客船の積み荷はいっぱいになっている。
金貨や銀貨だけで四千万ジェニー以上が集まっているし、宝石や積み荷を入れたらその額はさらに膨れ上がるだろう。
後数回サルベージを続ければ、慢性的な資金不足も一息つけそうな感じだった。




