出迎え
停泊中の高速輸送客船にいくつもの貨物が積み込まれていく。
中身はルオウ商会から買い取った魔石や、交易品として購入した陶磁器や薬品などだ。
陶磁器と薬品はコンスタンティプルやハイネルケで売り捌けばかなりの利益が出るだろう。
これからも定期的にファンロー帝国へ訪れるつもりだ。
「あとどれくらいで終わる?」
ラウンジから荷揚げの様子を眺めていたローエン皇子が聞いてきた。
「一時間もかからないでしょう」
「いよいよか……。レニーがいなくなると寂しくなるな」
らしくもなく、しおれた様子でローエン皇子は窓の下を見つめている。
「またすぐにやってきますよ。皇帝陛下から100艘ものボートを注文していただきましたからね」
輸送費の問題があるので割高になると説明したけど、皇帝は気前よくボートの発注をしてくれたのだ。
「来月には最初の納品にやってくる予定です。皇子もお気をつけてください。一昨日のようなことがまた起こるとも限りません」
襲撃事件以来、皇子の護衛の数は増えているが油断はできない。
「そうだな……。だが、私よりレニーの方がよっぽど大変だろう。お前はロックナの解放をしなきゃならないのだからな。近いうちに援軍を派遣できるように取り計らうつもりだ。待っていてくれ」
ローエン皇子はロックナ解放軍に自分の兵を派遣してくれると約束してくれたのだ。
「ありがとうございます。なんとお礼をいっていいやら……」
「おい、俺たちは義兄弟になったんだぞ。それに二人のときはローエンと呼ぶと約束したじゃないか。さっきからしれっと約束を破っているぞ」
「そうだったね。ありがとうローエン。近いうちにまた来るから。今度もまたびっくりするような体験をさせてあげるね」
イワクスに乗せてあげたらきっと喜ぶだろうな。
それまでは内緒にしておいて、後で驚かせてあげるとしよう。
やがて荷も積み終わり別れの時間がやってきた。
ローエンは港で船が見えなくなるまで僕らを見送ってくれた。
魔物の襲撃は多少あったものの航海はおおむね順調で、僕らはベッパーにほど近い場所まで戻ってきていた。
「レニー、レーダーに反応あり。どうやらイワクス2が出迎えにやってきてくれたようよ」
ルネルナさんの報告に窓から正面を見つめていると、やがてイワクス2の機影が雲の間から現れた。
「レニー君、おかえり! ずっと待っていたのだぞ。毎日哨戒に出ていたのだ」
通信機からシエラさんの声が聞こえてきて、僕は一気にほっとした気持ちになってしまう。
声だけで、少し照れて視線を逸らす、シエラさんのあの表情が頭の中によみがえった。
「シエラさん、ただいま戻りました。皆さんお元気ですか?」
「ああ、私もアルシオ陛下も変わりない。フィオナだけは寝不足で頑張っているけどな」
船外機付きボートの大量生産に加えて、自動車の開発でも忙しいからなあ。
帰ったらファンロー帝国の美味しいお土産をいっぱい食べてもらって、治癒魔法加速カプセルに入ってもらおう。
「今からそちらへ行くぞ」
えっ?
ふいに、シエラさんはウキウキした声でそう告げてきた。
「あの、高速輸送客船は輸送艦と違ってヘリポートなんてないんですよ」
「大丈夫、飛び降りるから!」
イワクス2が低空飛行でコチラに迫ってくる。
そして、速度を合わせながらロープを垂らしてきた。
あれで、こちらに飛び移るつもりか!?
「ルネルナさん、舵をお願いします!」
僕は大急ぎで船の最上部へと飛び出した。
風とイワクス2のプロペラ音が僕の耳をつんざく。
(レニー君! レニー君! 私のレニー君!)
ロープにぶら下がっているシエラさんが何か言っているけど、内容までは聞き取れない。
僕は腕を大きく広げて、シエラさんに向かって思いっきり手を振る。
その瞬間にシエラさんがイワクスから飛び降りた。
ブオッ!!
着地の瞬間に風魔法を使って衝突の力を相殺したんだな!
よろめくこともなく、シエラさんは戦場に降り立った戦女神みたいに銀色の長髪をなびかせている。
「驚かせないでくださいよ、シエ……」
ええっ!?
シエラさんが泣いてる。
両目からポロポロ大粒の涙を零して。
「シエラさん?」
「よかった……無事だった……」
僕を心配して?
「大袈裟だなぁ、シエラさんは」
「大袈裟ではない! 私は君の護衛だぞ。本当はいつだって側にいなくてはいけないんだ! それなのに2週間も……」
僕は生真面目な女騎士様に一歩近づいた。
「ほら、どこも怪我なんてしていませんよ。ねっ?」
「うん……」
「お師匠様は過保護すぎます。これでもまたレベルが上がったんですよ」
「そうなの?」
「はい。新しい艦載機も手に入れました!」
本当はお姉さんたちが全員揃ったところでお披露目しようと思ったんだけど、一足先にシエラさんに見せてあげちゃおうかな?
今回も三連魔導砲との選択オプションで迷ったんだけど、結局こっちを選択してしまったんだよね……。
僕はステータスボードを使って高速輸送客船の屋上に新しい艦載機をセットする。
水中型魔導モービル セイリュウ
駆動装置
水中及び水上を水魔法と風魔法のハイブリッドによるジェット水流にて移動。
(陸上移動も可能)
最高速度:時速172㎞(海中)
防御系装備
〇耐水シールド:透明のマジックシールドが張られ、浸水を防ぐ。限界水深:1200m
攻撃系装備
〇レフトアームクロー:左腕の先は三つ指のカニみたいに大きなハサミになっている。海中の岩塊も簡単に切り裂けた。
〇四連マジックミサイルランチャー:自動追尾付き
強化系
〇魔導アシスト外骨格:外骨格の補助作用で動きの一つ一つがパワーアップする。
センサー系
〇魔力波探知装置:半径15キロの様子が分かる。
〇マジックソナー
〇魔力チャージボックス:魔力をフル充填で最大50分間活動ができる。
これもゲンブと同じように体に装着して使う魔導モービルだ。
ゲンブがモスグリーンの重厚な機体に対して、セイリュウはマリンブルーで流線型をしている。
攻撃力や防御力は断然ゲンブの方が上なんだけど、海中を自由に探索するならセイリュウに分がある。
駆動時間もこちらの方が15分も長い。
「これが新しい魔導モービル……」
「はい。水中用のセイリュウです。これさえあれば海の中をいろいろ調査できますよ」
「海の中って……」
僕はこれをオプション選択したときからある考えを持っていた。
「セイリュウでダークネルス海峡を調査しましょう! あそこには二百年にわたって沈められた船の残骸がありますので」
「っ! 魔の海峡で宝探しか!!」
「はい。きっとロックナ解放の資金になると思うんです」
沈没船を引き上げるなんて怒られるかな?
「あの……シエラさんも一緒に来てくれますか? 魔力保有量が高いのは僕とシエラさんだから、セイリュウに乗るのは僕とシエラさんが適任で――」
「もちろんだとも! 君が行くならどこへだって行くぞ。二人ですべての船の宝を引き上げよう」
「やったあ! そうだ、シエラさんへのお土産も買ってきたんですよ。ローエン帝国さんのクジャク石で作った髪飾りなんです。絶対にシエラさんに似合うと思うんです。船長室においてあるから行きましょう」
僕はシエラさんの手を引っ張って船内へと誘う。
「お、おい、レニー君……(だめ、幸せ過ぎて死にそう……)」
僕らは再会の挨拶を済ませて船内へと戻った。
本日10月10日 1巻が発売されました。
この物語を読んでくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!




