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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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手土産

 迎えの馬車は3時過ぎにやってきた。

八頭立ての金ぴかの馬車で、そこかしこから高級感が立ち昇っている。

立派な革張りのシートはいかにも座り心地がよさそうだったし、馬車を引く馬も名馬ばかりだ。


「賢そうな馬だなあ。ナビスカさんが見たら喜びそうだ」


 僕たちを護衛するための騎士だって30人もいるんだよ。

なにこの待遇、国賓級? 

僕らはお土産を乗せた荷馬車を後に従えて出発した。



 馬車は宮廷の敷地を移動していた。

最初の正門に入ってから、かれこれ五分は経っている。


「一体いくつの門をくぐるのかしら?」


 ミーナさんの疑問はそのまま僕の疑問でもある。

すでに大きな門を四つは越えている。

どうやら宮中のかなり奥深くまで行くようだ。


 やがて馬車は大きな建物の前で停車した。

たしか楼閣と言ったかな? 

四階建ての巨大な赤い木造建築が目の前にそびえていて、入り口に向かって長い階段が連なっていた。


「レニーー!」


 見上げると階段の上からローエン皇子が歩いてきた。


「よく来てくれた、レニー。道中不自由はなかったかい?」

「とんでもない。みなさん、よくしてくれましたよ。迎えの馬車が立派過ぎて驚きましたけど」

「はっはっはっ、レニーの船にはとても及ばないさ。ん? ところでその荷馬車は何だい?」


 ローエン皇子は僕らのお土産に気がついたようだ。


「せっかくのお招きに手ぶらで参るのも失礼かと思いまして、贈り物を用意しました」

「ほお……」


 ローエン皇子はニヤリと笑って荷馬車に近づく。

そして、被せてあった覆いを一気にはぎ取った。


「これは……ただのボートではないな」

「はい、高速輸送客船と同じく魔導エンジンを搭載したボートです。私が経営するカガミゼネラルカンパニーで販売を開始したばかりの主力商品です」

「す、素晴らしいぞレニー! さっそく使わせてくれ」


 使うって海に戻るのかな?


「誰か、このボートを湖に運べ!」


 そういえば宮廷の中に広い湖があるんだったね。

ローエン皇子は嬉々として僕らを湖へと案内してくれた。


 木漏れ日がきらめく湖面を船外機付きボートが小波を立てて進んでいく。

直進時の加速、旋回のしやすさ、どれもいい出来だと改めて感じた。

こんなものを作り出すなんて、フィオナさんはやっぱり天才だよ。

お土産にこの地方ならではの珍しい魔道具でも買っていってあげないとね。


 僕と皇子は二人して午後のひと時をボート遊びに興じた。

小さい頃に戻ったように、それはもう無邪気に遊んでいたと思う。

まるでセミッタ川のほとりで遊んでいた幼いころのように……。


「大型輸送客船もよかったが、これはこれで楽しい乗り物だな!」


 器用にボートを接岸させながらローエン皇子は満足そうに笑っている。

もう操縦のコツをつかんでしまったようだ。


「カガミゼネラルカンパニーの主力商品ですからね。すでにコンスタンティプル王国やレイブンス王国の商人からも注文が入っていますよ」

「これだけの物なら当然だろう。いい進物をもらった。返礼をしたいがなにがいい?」

「殿下にはルオウ商会に口利きをしてもらいましたから、それで十分です」

「そうもいかんだろう。ファンロー帝国の爵位でもやろうか? 領地とか」

「それはちょっと……」


 これ以上土地や地位に縛られるのは遠慮願いたい。


「レニーは自由を望むか……」


 僕らはボートを降りて桟橋にあがった。

と、いきなり遠くを見ていた皇子が突然頭を下げるではないか。


「レニー、皇帝陛下だ」


 道のむこうにお供を大勢引き連れ、立派な金の服をまとった初老の男性が立っていた。

あれが世界最大の版図を誇るファンロー帝国の皇帝か。

僕は急いで膝をついた。


「ローエンや、おもしろそうなものに乗っておったな」


 鋭い眼光を放ちながら皇帝は僕とボートに視線を注ぐ。

筋骨逞しいわけでもないし、大男ということもない。

それでも皇帝は迫力があった。


「コチラにいる友人のカガミ伯爵から譲り受けたものです」

「ほう……、ロックナ王国のレニー・カガミ伯爵か。出身はハイネーン王国だったな」


 名乗ってもいなのに僕のことを知っている!? 

締め付けられるような緊張の中で皇帝は突然ニィと笑顔になった。

そして――。


「余もこれに乗りたいぞ。さっきから楽しそうに見せつけおって。ローエン、余にも少し貸してくれ!」


 結局、皇帝もボートに乗った。

しかも、臣下の制止を退けて自分で運転までした。

そしてすっかりボートに魅せられてしまったようだ。


「伯爵、金ならいくらでも出す。これと同じものを余にも用意してくれぬか」


 売り物だからもちろん僕に異存はない。


「幸い船に在庫がございます。明日にでもお持ちしましょう」

「そうかそうか、伯爵をもてなさなくてはならないな。ローエン、用意はできているのか?」

「はい、夕食をランシア館に」

「さようか。それならば迎賓館に場所と料理を移すがよい。余も一緒に食べよう」


 皇帝がそういうと、そそくさと側近の一人がその場を離れ、奥の方へ走っていった。

きっと皇帝の意向を伝えに行ったのだろう。

あれ? ルネルナさんがちょっとだけ緊張しているようだ。


「どうしたんですか?」

「迎賓館って、各国の王侯をもてなす待遇なのよ……」

「それはすごいですね。きっと料理も豪華なんだろうな」


 そのときの僕はこれから起こる饗宴を想像もできず、無邪気に喜んでいた。



 食事の支度が整うまで、僕らはローエン皇子の宮で待たせてもらった。

皇子のコレクションは素晴らしく、諸外国から取り寄せた美術品、民芸品、旅行記などが所狭しと並んでいる。

船の模型もたくさん並んでいて僕の目をひきつけた。


「これなんかすごいだろう? 氷の海の民が使う小舟だけど、材料は魔物の骨と皮なんだ。彼らは木も生えないような極寒の地に住んでいるという話だぞ。一度この目で見てみたいものだよ」


 どうしてそんな極地に人類が生活の根を下ろそうとしたのか想像もつかない。

どんな生活をして、どんなものを食べているのだろう。


「もしもレニーが氷の大陸へ行くならどの航路をつかっていく?」


 壁一面に張られた巨大な地図を指し示しながら皇子が質問してくる。


「そうですね……僕ならやっぱりベンダリング海峡を経由してかな? 伝説のクサナギ王国もみたいですからね」

「おお! クサナギ王国は私も調査したいと思っていたんだ。不老長寿の薬、伝説の黄金郷……あそこにはロマンの香りが立ち込めている」


 地図を前に二人で空想の旅をしていると、使いの侍従が僕らを呼びに来た。

どうやら食事の用意ができたらしい。


「では参ろうか。今日は存分に食べて存分に飲んでくれよ」


 僕らはローエン皇子の先導で迎賓館へと足を運んだ。



 迎賓館もきらびやかな建物で、回廊には数々の美術品が並んでいた。

中でも鮮やかな青い染料で染付された大きな壺が僕の目をひく。


「綺麗な壺ですね。藍色って言うのかな? こんな深い青色の陶器は見たことがありません」

「それは国営の窯で焼かれた我が国自慢の陶器だよ」


 ファンロー帝国の名産品か。

これを仕入れてハイネーンで販売したら喜ばれそうだな。


「これはファンロー・ブルーと呼ばれていてハイネーンやコンスタンティプルでも非常に人気があるのよ。でも、距離があるから輸入は困難で市場に出回る数はごくわずかなの」


 ルネルナさんがローエン皇子の言葉を補足してくれた。


「さあ、着いたぞ。さっそく食事にしよう」


 女官たちが両開きの赤い扉を開いてくれると、信じられないような光景が目に飛び込んできた。

だだっ広い部屋の真ん中に大きなテーブルがしつらえてある。

そしてそこには数えきれないほどの料理が並んでいた。

後ろの方には楽団や舞いを舞うための人たちも100人くらい控えている。


「え~と、他にもお客様がいるのですか?」

「いや、陛下と私、君たち三人で食べるのだ」


 やっぱり……。

でもとてもじゃないけど食べきれない量だよね。

まあ、どこの王国でもそうだけど、余った料理は臣下に下げ渡されるそうだから安心していただくとするか。


「レニー君、クマの手があるわ! まさか実物を目にするなんて思ってもみなかった」


 料理を前にミーナさんの目が燃えている。


「あれはカミツキウミガメのスープ? こっちのこれは何かしら?」


 もうね、100種類くらいの料理が並んでいるから何をどうしていいのかわからないくらいだよ。


「何でも好きな物をとるといい。お腹がはち切れるほど食べてくれよ!」


 ローエン皇子の声にはげまされ、僕らはとにかく食事を楽しむことにした。


いよいよ10月10日に第一巻がカドカワBOOKSより発売されます。

よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] イメージは満願全席?
[一言] 氷の大陸が存在するのか、行くなら砕氷船が必要かな。
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