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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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レニーとローエン

 ハーロン港は遠くからもわかるような高い建物を数多く配した街だった。

奥の方には壮麗な建築物の数々も見えて、どうやらそれはファンロー帝国の宮殿のようである。

文化が違うせいでハイネルケやコンスタンティプルの王宮とはまた違った趣を醸していた。


「屋根が反り返っていてお洒落に見えます」

「あれは楼閣と呼ばれる建物よ」


 ルネルナさんはファンロー帝国の文化にも詳しいようだ。

検査を受けたのちに、僕らは港への接岸を許された。


 ランプウェイに出たところで僕らは度肝を抜かれた。


「魔物に人が乗っています!!」

「ほ、本当に……。どういうことなの?」


 巨大な四つ足の魔物が人間を背中に乗せて大量の荷物を運んでいるではないか。

身構える僕とミーナさんに、笑いながらルネルナさんが説明してくれた。


「レニー君もミーナも落ち着いて。あれはエイジリアエレファントという動物よ」


 エイジリアエレファント……あれが象か! 

そういえば本で読んだことがある。

でも、考えていたよりずっと鼻が長いぞ。


「よく見れば優しそうな目をしているわね」


 ミーナさんも落ち着きを取り戻して、少しだけ象の方へ歩み寄った。


「大きいからびっくりしたけど、耳をパタパタさせている姿もかわいいです。魔物なんかと間違えてごめんね」

「エイジリアエレファントは気性が優しくて、こんな風に人間の仕事を手伝うことが多いそうよ」


 このように僕らは周りの風景や物に驚きの視線を投げかけていたのだけど、ハーロン港の人たちも同じく僕たちに奇異の視線を向けていた。


「とんでもなく巨大な船だ。こんなのは見たことがないぞ」

「そもそも帆はどこにあるんだ?」

「どうやらロックナ王国の船籍らしいぞ」

「ロックナ? あそこは魔物に滅ぼされたんじゃないのか?」

「おい、ゴーレムが荷下ろしをしているぞ!」


 こんな声が群集の中から聞こえてくる。

ファンロー帝国の船はハイネルケのものよりも大型だけど、さすがにこの船ほどじゃない。

東の国の人々が驚くのも当然だろう。


 突如、群衆が左右に別れ、真ん中に道が現れた。

何事かと見守っていると、お供を何人もつれた少年が現れたではないか。

豪華な服を身にまとっているところを見るとかなり地位の高い人のようだ。

少年といっても僕よりは少し年齢が上かな? 

きっと、どこか名家の若様なのだろう。


「近くで見るとひときわ大きいな! 我が国の船とは構造がまるで違う。見習うべきところが多そうな船だ」


 その人は興味深そうに船を眺めている。


「ん? その方らはこの船の乗組員か? ステキな船だな。これなら北のベンダリング海峡だって越えられそうだ。冒険旅行もできるかな? メキシカ大陸の奥地でもいけそうだ。ところで、どこから来たのだ? 疲れていなければ話を聞かせてくれ。一緒にお茶でもどうだ?」


 若様は矢継ぎ早に言葉を投げかけてくる。

ニコニコと嬉しそうで、かなり船が好きなようだ。


「初めまして。僕はこの船の船長のレニー・カガミです」

「ローエンだ。よろしくな。この船はロックナ船籍というのは本当かい?」

「はい。ベッパー島が本拠です」

「ロックナが復興したという情報は本当だったんだな……」


 船乗りたちがもたらす情報の伝達は意外と早く、はるか東のこの地でさえアルシオ陛下の即位が知れ渡っているようだ。


(あの男、エディモン伯爵レニー・カガミです)


 傍にいた従者がローエンさんの耳元でささやいていた。

僕は耳がいいから聞こえちゃったよ。

それはともかく、僕の身元が知れてローエンさんはさらに嬉しそうな笑顔になった。


「君が噂の英雄か! 話を聞いてから一度会ってみたいと思っていたのだよ。すると、この船で魔軍と戦ったのかい? 海戦の様子はどうだった? どんな戦術をとった?」


 ずいぶんと好奇心の強い人みたいで、ぐいぐいと僕のそばにやってくる。


「いえ、これは商業用の輸送船ですので……。あの、ローエンさんはどういった方なのですか?」

「ん、私か? 私はファンロー帝国の第三皇子だ。改めてよろしく、カガミ伯爵」


 予想以上に凄い人だった!


「んのおおおおおお! ゴーレムがいっぱいいるじゃないか! なんだこのかわいいのは!!」

「ローエン様!」


 走り出した皇子様を慌てて護衛の人たちが追っていく。


「船やゴーレムが好きな方のようですね。あと冒険も……」


 ローエン皇子の後姿を見ながらつぶやいた僕に、ミーナさんが意外な答えを返した。


「本当にね。ちょっとレニー君に似ているわ」

「え~、そうですか?」

「なんかね、レニー君をやんちゃにした感じかな」


 そうなのかな? 

そうなのかもしれない。

僕は自分と同じ匂いをローエン皇子に嗅ぎ取っていた。


 魔石の買い付けは一日で終わるようなものじゃないので、僕らはしばらくファンロー帝国へ滞在することになった。

そしてローエン皇子は朝な夕な、時間を見つけては毎日のようにシャングリラ号に遊びに来ている。


「ミーナ、昨日飲ませてもらったバナナミルクとやらをまたくれないか?」

「はーい。バニラビーンズを多めですよね」

「うむうむ」


 すっかり馴染んでいるなぁ。


「そうそうレニー、お前は魔石を買いに来たんだったな?」

「ええ、そうですよ」

「役に立つと思ってルオウ商会に話をつけておいたぞ」


 ルオウ商会?


「ルオウ商会ですって!」


 僕より先に声を上げたのはルネルナさんだ。


「知っているのですか、ルネルナさん」

「知っているも何も、ルオウ商会は帝国一の大商人よ。つまり世界一の商人と言っても過言じゃないわ」

「それなら大量の魔石を斡旋してくれそうですね」

「私から便宜を図るように言っておいたから、適正な価格で卸してくれるはずだぞ」


 ローエン皇子はふふんと鼻を鳴らした。


「ありがとうございます。本当に助かりますよ」

「そのかわり、約束通り今日は高速輸送客船を操縦させてくれよ。波も穏やかだし少しくらいいいだろう?」


 昨日からお願いされていたんだよね。

皇子は楽しませてもらってばかりでは悪いと、いろいろ気を使ってくれたようだから、恩義に報いるとしよう。


「では、さっそく出航しますか」

「よ~し、腕が鳴るぞ」


 船が沖に出ると舵をローエン皇子に代わってあげた。

しぶきをあげて走る高速輸送客船に皇子の興奮も最高潮になっている。


「なんてすばらしいんだ! 私はレニーが羨ましいよ、この船で自由にどこまでもいけるのだからな」


 ローエン皇子は世界中を旅する探検家になりたかったそうだ。

だけど、皇子という身分がそれを許さない。


「最近はそうでもないですよ。エディモン伯爵という地位についてしまいましたから」

「それでも、私よりはマシだろう? ……そうだ、レニー」


 思い出したかのようにローエン皇子が呼びかけてくる。


「どうしました?」

「明日は宮廷に遊びにこい。いつも招待されてばかりでは気が引けるからな、返礼にファンロー帝国の宮廷料理を食べさせてやろう」

「よろしいのですか?」


 いきなり宮廷なんて行っても大丈夫なの?


「もちろんだとも。ミーナとルネルナも一緒にくるといい」

「私もですか⁉」


 ミーナさんは大興奮だ。


「ミーナにはハイネーンの美味を色々と食べさせてもらったからな。これほどの腕を持った料理人は我が国にも少ない。本当は私の専属料理人にしたいくらいだよ」

「ありがたい話ですが、私はレニー君一筋ですから」


 ミーナさん……。


「レニーは愛されているなあ。ファンローの料理は品数が多い。みんな限界までお腹を空かせて来るんだぞ!」


 ローエン皇子はご機嫌で帰って行った。



 皇子を見送りながらもミーナさんの興奮は収まらずにいた。


「宮廷料理というからにはファンロー帝国で最高の料理でしょうね。いい勉強になるわ!」


 その一方でルネルナさんは緊張した顔つきをしている。


「どうしたんですか、ルネルナさん?」

「ファンロー帝国の宮廷ってすごい所なのよ。広さも豪華さも並ぶもののない規模なの。ハイネルケの王城の十倍以上もあるんですから。帝室は世界一の大金持ちですしね」

「そんなにすごいんですか?」

「宮廷の庭園はパル村よりもずっと広いのよ。それだけでも宮廷の規模がわかるでしょう?」

「ええっ、庭だけでパル村以上⁉」

「庭園だけじゃないわ。宮廷には狩りができる森や湖だってあるのよ」


 どれだけ広いっていうのだろう?

僕にはもう想像もつかないや。


 こうして僕らはファンロー帝国の宮廷に招待された。

それはとっても嬉しいのだけど、僕とミーナさんとルネルナさんは少しばかり頭を悩ませることになる。


「やっぱり手土産くらいは持っていった方がいいですよね?」

「私の手作りクッキーってわけにはいかないか……」

「ローエン皇子ならそれでも喜んでもらえると思うけど、レニーはエディモン伯爵ですからね。それなりの物を用意しないとロックナ王国がバカにされてしまうわ」


 困った。

船には交易のための銀食器やワイン、絨毯などを積んでいるけど、宮廷に納められるほど豪華な代物ではないのだ。


「やっぱりアレしかないですかね。うまい具合に積んだままでしたし」

「そうよね。あれなら喜んでもらえるんじゃない?」

「だったら私はニ―グリッド商会の支部で、あれを運ぶ荷馬車を借りてくるわ」


 僕らは明日のお招きに向けて準備を開始した。



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