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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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東の海へ

 船外機付きボートの商談会は大成功で、合計で52艘もの注文が入った。

やっぱりボートレースで性能を見せつけることができたのが良かったようだ。

カガミゼネラルカンパニーの販売店をルギアやハイネルケにも置いたので、今後はさらに注文が増えるだろう。

僕と五人のお姉さんは今回の成功を喜びあっていた。


「とりあえず、注文のあった52艘を生産しなくてはいけませんね」

「それだけどな、エンジンはもっと作ってしまおうぜ!」


 フィオナさんが嬉しそうに言う。


「受注がないのに作るんですか?」


 一般的に大きな道具というのは注文を受けてから初めて作製するものだ。

それが今の世界の常識である。

だけど、フィオナさんは先に作ってしまおうと提案してきている。


「その方が職人の熟練度はドンドン上がるぜ。それに今回の商談会を見た限り需要はさらに高まる気がするんだよね」


 でも、在庫を抱えて困ったりしないかな? 

僕は少し心配だけど……。


「私も珍しくフィオナの意見に賛成よ。今は攻めの時だと思うの。顧客を待たせることなく品物を納めるという方法は世間に受け入れられるんじゃないかしら」


 注文を受けてから作っていては、納入までに一月以上かかってしまう。

当たり前といえば当たり前のことだけど、すぐに納品されるならお客さんにはその方が喜ばれるに決まっている。

現にシェーンコップ団長は見本のボートでいいからと持ち帰ってしまった。

そういうお客さんはシェーンコップ団長だけじゃなかったのだ。


「わかりました。通信で魔導エンジンの大量生産を今日からでも始めるように指示しましょう」

「とりあえず、魔導エンジンは月産100台以上を目標にしましょうね!」


 ルネルナさんが元気に宣言する。


「言ってくれるねぇ、ちびっこ主計長。販売と職人の獲得は任せたからね」


 フィオナさんも嬉しそうだ。

自分が生み出した魔導エンジンが評価されて、やる気に火がついているように見える。


「もちろんよ。半年後には月産1000台を目指すんですからっ」


 そうなると工房の規模をもっと大きくしなくちゃだめだな。

もうそれは工房というより工場と言ったほうが適切だろう。

ベッパーの人口も増えているから、そこから工場労働者を募っていくとしよう。

むしろ厚遇を謳い文句にして、移住者を増やすという手だってある。

僕らはそれぞれに手応えと、その先にある着実な未来の展望を感じ取っていた。


 船外機付きボートの手付金をもらっていた僕らは、さっそくルギアで魔石を買うことにした。

輸送艦や高速輸送客船は優秀だけど、とにかく大量の魔石が消費されるのだ。

僕たちも魔石探知機を開発したり、古戦場に魔石を探しに行ったりと努力しているけど、やっぱり外部から買う方が効率はいい。


 ところが、当面の消費量を買えると安心していた僕たちだったけど、少しばかり困ったことが起きた。

なんと、僕らが魔石を大量に買うものだから、魔石の価格が上昇してしまったのだ。


「これはまずいわね……」


 ルネルナさんが難しい顔で頭を掻いている。

魔石100g当たりの上昇率はたいしたことないんだけど、大量購入となるとそれなりの金額がかかってしまう。


「今回はこの値段でいいとして、次回はさらに値段が上がるわよ」


 そう、僕らは今後も魔石を買い続けなくてはならないのだ。


「大急ぎで移動して、違う場所で購入しましょうか?」


 イワクス1を使えばハイネルケやコンスタンティプルまで大した時間はかからない。


「そうね。でも、どっちにしろこの界隈での価格上昇は時間の問題よ」


 だったら……。


「いっそ、ノワール海を東へ進んでみませんか?」

「東というと……」

「ファンロー帝国ですよ」


 エイジリア海の覇者、世界最大の版図を持つ巨大帝国の首都、ハーロン港を目指すのだ。


「ファンロー帝国! ついにこの日が来たのね……」


 ルネルナさんの目がギラギラと輝いている。

ファンロー帝国といえばハイネルケで海運を商う商人なら誰もが憧れる場所なのだ。

豊富な金や絹織物や陶磁器に加えて、魔法薬学の研究が進んだ土地なので珍しい薬がたくさんある。

それらの薬が秘薬として交易の対象品としてもてはやされていた。


 辿り着けるのはごく一握りの船だけだけど、そこへ到達し帰還できた者には輝かしい成功が約束された場所、それがハーロン港だった。


「いよっし、じゃあ、そのハーロンとやらへ行ってみようぜ!」


 フィオナさんが元気よく立ち上がる。


「いえ、フィオナさんにはベッパーに残ってもらって、魔導エンジンの生産と開発に取り組んでもらわないと……」

「え〜……」


 フィオナさん塩をかけられたポイズンマイマイみたいにしょぼくれてしまった。


「はっはっはっ、残念だったなフィオナ!」


 高笑いしているけど、シエラさんも大切な仕事があるんじゃなかった?


「あら、シエラは本国から召喚状が届いていたじゃない」


 ルネルナさんの指摘にシエラさんはビクりと身を竦めた。

連絡将校として現状と今後の見通しをハイネーンに報告するように指令が来ているのだ。


 ハイネーン王国は僕の戦力を知りたがっているみたいだ。

隠すつもりはないのでシエラさんは正直に報告してくれていいんだけど、命令を無視するわけにはいかないよね。


「わ、私は騎士団をやめてくる。私は故郷を捨てる……。レニー君の横が私の居場所だ!」 

「どうしたのですか、シエラさん⁉︎ 突然そんなワガママを言うなんて⁉」

「し、心配なのだ! 私がいない間に魔物に襲撃でもされたら……。私は君の護衛だ。何があっても君から離れることなんてできない!」


 シエラさんは優しいな。

でも、僕だっていつまでも頼りない弟子のままでいるつもりはない。


「ご心配をおかけして申し訳ありませんが、いざとなればゲンブもあります。不肖の弟子ですが、どうか僕を信じて行かせてください」


 僕はお師匠様の手を握って真剣な目でお願いした。


「う、上目遣いでお願いなんてずるすぎるぞ!! そんなことをされたら拒否なんてできないではないか!」

「えへへ」


 どうやらお師匠様のお許しも出たみたい。


「わらわも旅の準備をせねばならぬな」

「いけません、陛下。女王たるもの、むやみに国を離れるわけには参りませんぞ。特に今はベッパー開放がなされたばかり。陛下はこの地に留まり、民たちを導かなくてはなりません」


 アクセルさんにお説教されてアルシオ陛下も萎れてしまった。

ということでファンロー帝国へ行くのは僕、ミーナさん、ルネルナさんの三人となった。



 ルギアを離れた高速輸送客船は東進を続け、ファンロー帝国を目指している。

ファンロー帝国はエイジリア大陸の国々を纏めた強力な中央集権の国だ。

国力は相当なもので、財政は健全だし軍隊の強さも世界一という噂である。

魔族でさえ強力なファンローには手を出しあぐねているということだった。


「とはいえ、ファンローもまったくの安全とはいえないのよ」


 地図を見ながらルネルナさんが教えてくれる。

ルネルナさんの白い指がエイジリア大陸からスッと下の方へと動いた。


「ここに大きな島があるでしょう。これがガイドロス島よ」


 ガイドロスは魔界の入り口とも呼ばれ、様々な魔物が島の瘴気の中から生まれると言われている。

エイジリアの海にもこんな危険地帯があるのだ。

世界の海にはこういった魔物が生み出される島が数か所あるらしい。

高速輸送客船でガイドロス島には近づくには命がいくつあっても足りないだろう。

武装を備えた輸送艦だったとしても無事に帰れるかどうかはわからない。


「大丈夫なのかしら?」

「心配しなくても大丈夫ですよ、ミーナさん。航路からガイドロスは400kmくらい離れていますからね」


 まあ魔物の襲撃は避けられないけど、さっきから機銃とバリバリのバリスタで撃退できている。

シャングリラ号の脅威になりそうな敵は今のところ現れそうになかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 高騰で魔石を魔王に強請る未来図が見えるような? ル「魔王、さっさと魔石を産み出しなさい!」 シ「魔王の魔石なら、どのくらいの大きさなんだろうな?」 レ「魔王を倒してしまうと、1個しか…」 フ…
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