セーラーウィング
トラックを港へ走らせながら考えをまとめていく。
軍を指揮する者は即決が求められるとシエラさんに教えられた。
命令は質も大事だけど、速さだって大切なのだ。
無線をとって輸送艦で当直をしているシエラさんに連絡した。
「武装を整えて揚陸艇2機を発進させてください。輸送艦とともにワイバーンを迎え撃ちます。艦上に艦載機は?」
「偵察警戒車が1台だけだ。他を呼び戻すか?」
車両は道路の整備、畑の開発、港湾施設の建設などにも利用している。
「時間がないからそのままで。偵察警戒車に攻撃待機させてください。予備の魔石を忘れないように」
「了解」
「シエラさん……」
「どうしたんだい?」
「これで大丈夫でしょうか?」
「素早く的確な指示を出せているよ。レニー君はもっと自信を持った方がいい。私など顎でこき使うくらいの気持ちでな(レニー君にこき使われたい。こき使われて有能なところを示したい。結果として愛されたい。愛されたい。愛されたい……)」
「それを聞いて安心しました。でも、先生を顎でこき使うなんてことはしませんけどね」
「そ、そうか……え、遠慮はいらないんだぞ」
偵察警戒車には機関砲がついていて上空の敵も狙うことができる。
砲の口径は戦車より小さいけれど、ワイバーン相手ならこちらの方が有効なのだ。
「あと1分で輸送艦に入ります」
輸送艦のサイドランプ(乗り入れ口)は大きく開いていたので、そのままトラックを侵入させた。
「僕は艦橋へ行くので、こいつをお願いします」
入り口付近にいた騎士にトラックを預けて、ブリッジへと続く階段を駆け上がった。
「状況報告を!」
シエラさんは魔導レーダーをにらんだままだ。
「ワイバーンの群れは12体で南西よりベッパーへ接近中。距離20㎞」
「哨戒に出ているイワクス2は?」
「敵との相対距離を保ちながらベッパー方面へ帰還中」
距離が20㎞あるのなら対処は十分間に合う。
「部隊をワイバーンの予想進路に回します。全員迎撃準備を急いでください。シャングリラ号緊急発進!」
ノワール海に白い波しぶきを立てながら輸送艦と揚陸艇は動き出した。
ワイバーンは口から火球を飛ばす遠距離攻撃ができる魔物だ。
射程はおよそ500mで、一般的な攻撃魔法よりもずっと長い。
こんなのに空から攻められれば人間側になす術はほとんどないのだ。
長射程のバリスタが反撃には有効だけど、設置される場所が限られるし、連射ができないというデメリットもある。
「だが我々には魔導キャノンと機銃がある」
シエラさんがアブナイ笑みを浮かべていた。
そう、輸送艦に搭載された二基の魔導キャノンの射程は1500mだ。
甲板で待機している偵察警戒車の機銃にいたっては3000mにもなる。
揚陸艇に搭載されている二基の機銃だってこれに準ずる射程を持っている。
「つまり圧倒的ということだ……」
身もだえるシエラさんにちょっとだけ引く……。
「敵にこちらの情報を与えるのはよくありません。じゅうぶん引き付けてから砲撃しましょう」
「その通り。ワイバーンだけなら情報は洩れないが、魔族のライダーが乗っていることも考えられる。一体も生かして返してはならない」
僕はマイクで兵士たちに通達する。
「輸送艦は敵中央を、揚陸艦1号は右翼、2号は左翼を狙え。敵との距離が1000mになった時点で攻撃開始。イワクス2も反転して側面から支援攻撃し、万が一撤退するワイバーンがいるときはこれをせん滅しろ」
討ち漏らすことのないように細心の注意を払わないと。
魔導レーダーを見つめていたシエラさんが静かに合図を送ってくる。
「敵、攻撃ポイント到達まで残り5秒。4、3、2、1、到達」
「各砲手へ、攻撃開始」
すべてのワイバーンが海に沈むまで30秒もかからなかった。
それはそうだ。
魔導キャノンは毎分3000-4000発の魔弾を撃つことができるのだから。
「敵の姿がはっきり見えていたのだ。これなら輸送艦だけでなんとかなったな」
あまりのあっけなさに、拍子抜けしたようにシエラさんがつぶやいた。
「被害はないか? それぞれ状況を報告」
「揚陸艇1号、損傷なし」
「揚陸艇2号、損傷なし」
「イワクス2、損傷なし。ただドアガンを撃っていた騎士1名が魔力切れを起こして倒れました」
ドアガンとはイワクス2のドアに取り付けられた魔導機銃のことだ。
大型の魔導キャノンと違って、人間が直接魔力を送り込むタイプの魔導機銃である。
だから、これを使うと魔力切れを起こす騎士が続出する。
そういえば僕もガルグアを討伐したときに魔力切れを起こしたな。
あの時はミーナさんと二人で倒れてしまったんだ。
二人とも動けなくなって、僕はミーナさんに抱き着く形になってしまって……。
「どうした、レニー君?」
「な、何でもないです。揚陸艇へ、ワイバーンの遺体を回収できるようなら試してください」
ワイバーンは高価買い取りの対象になる。
ベッパー復興に向けてお金はいくらあっても足りないので、使えるものは何でも使うつもりだった。
今回の戦闘でまたレベルが上がった。
職業 船長(Lv.22)
MP 29128
所有スキル「気象予測」「ダガピア」「地理情報」「二重召喚」「伝導の儀式」
■新スキル「三重召喚」
■新ゴーレムを取得 偵察型ゴーレム セーラーウィング
三連魔導砲を期待したけどダメだった。
ロックナ本土攻略には支援砲撃が有効だと思ったけど、そううまくはいかないようだ。
でも、三重召喚だってありがたい。
高速輸送客船は軍事作戦とは別に商売をしている。
さらに船が使えるようになると、できることの選択肢が増えるからね。
それから新たなゴーレムが増えた。
全長3メートル以上もある大型の人型ゴーレムだ。
水色の金属ボディーをしているので、二足歩行をしている様子は巨大な騎士が歩いているみたいだ。
なんとセーラーウィングは空を飛ぶことができる。
長い腕を伸ばすと、それが翼の役割をして、高度2万mまで飛翔できるのだ。
そして超高高度から情報収集ができるという大変有能なゴーレムだった。
「あああああああ、分解したいいいいいいいい!」
セーラーウィングを見たフィオナさんがドックで大騒ぎをしている。
気持ちはわかるけど、それだけは叶えてあげられない。
戦いにおいて情報がどれだけ重要かを僕は身を持って学んでいるから、すぐにでも運用したいのだ。
セーラーウィングに攻撃能力はないけど、ある意味では三連魔導砲よりも役に立つと思う。
潜入偵察部隊と連動させれば更なる情報が得られるだろう。
「そんなに肩を落とさないでください、フィオナさん。4馬力の魔導エンジンを召喚してあげますから」
「え? だって、輸送艦と高速輸送客船を出している状態だろう? これ以上の召喚は……」
「レベルアップで『三重召喚』が使えるようになりました」
僕はローボートを出してあげた。
「おお! これでまた開発が進むぞ。4馬力エンジンだーい好き! レニーのこともだーい好き!」
久しぶりにフィオナさんにヘッドロックで抱き着かれて、頭をわしゃわしゃされてしまった。
□□□
ロックナ王国の王都ダハルの宮殿で魔族ブリエルは優雅に朝食を食べていた。
といってもパンやコーヒーなどの軽いものではなく、大皿には大量の肉料理が盛られている。
なんの肉であるかはあえてここでは言及しないでおこう。
グラスに注がれている赤い液体もワインではないとだけ言っておく。
「そういえば、昨日派遣したワイバーン部隊はもう戻ってきたかね?」
ブリエルは思い出したかのように側に控えていたタトールに聞いた。
「それがいまだに……」
タトールの答えを受けて、ブリエルは愉快そうに笑った。
「どうせ生き残りの人間を虐殺して楽しんでいるのだろう。困ったものだが、気持ちはわからんでもない。闘争心に燃えた目が絶望に染まる瞬間……あれは何度体験してもたまらないものだ」
「御意にございます」
タトールもニヤニヤと追従する。
「ほら、あれは何と言ったかな? 四肢に縄を括り付けて、ブラッドブルに引っ張らせるあれは」
「十字架裂きでございますか?」
「おお、それよ、それ! 私はアレが大好きでね。仲間が四つに引き裂かれるのを見ると、どんなに反抗的な騎士でもおとなしくなったものだ」
「さようでございますな。特に部隊で一番強い騎士や美しい女の騎士を刑にかけると効果がございました」
「うむ。久しぶりにムラムラしてきたよ。こんなことなら私もベッパーに行けばよかったかな? こう平和な日々が続くようでは退屈してかなわん。たまには狩りにでも行かないとね」
タトールの顔に焦りが滲んだ。
「ブリエル様、任地を離れることはまかりならんと、魔王様からのご命令がございます」
「そう心配そうな顔をしないでくれ、タトール君。私も魔王様の言いつけに背いてまでロックナから出る気はないよ。どこかで人間の反抗組織でも立ち上がらんかな。そうしたらできるだけ無慈悲に殺してやれるのに」
ブリエルは言葉こそ紳士的なのだが、行動は狂戦士そのものだ。
いざとなれば他国まで虐殺を楽しみに行くほど気性は荒い。
今回はそこまで残虐な気持ちが高ぶってはいないようで、タトールはホッと胸をなでおろした。
だが数日後、ブリエルはいつまで経っても戻ってこないワイバーン部隊に怒りを爆発させることになる。




