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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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ベッパー解放戦

 朝日が昇る直前、空は闇を一層濃くする。

そんな漆黒の海で輸送艦はベッパーへ最接近していた。


「後部ハッチを開きます。揚陸艇エアロ・スクランダーは発進態勢のまま待機」

(エアロ・スクランダー1号、いつでもいけるよ)


 通信機からフィオナさんの元気な声が聞こえる。

さすがに今日は眠そうな声はしていない。


「魔導戦車を二台載せているんですから無茶な操縦はしないでくださいよ」

(わぁってるって、レニーとの伝導の儀式ぶっちゅうでぜーんぶ頭に入っているよ!)


 そういうことをオープンチャンネルで喋らないでほしい……。

でもフィオナさんだって緊張しているからこそ、そんな軽口をたたいて気を紛らわしているのかな? 

ついに僕らはベッパー解放作戦を始動させたのだから。


(エアロ・スクランダー2号、ルネルナ。こちらも準備できているわ)

「了解、発進指示を待ってください」


 二台の揚陸艇エアロ・スクランダーには計四台の魔導戦車が載っている。

この四台の戦車で島に乗り入れ、敵に奇襲をかけるのが作戦の第一段階だ。

戦車のサポートは海馬に乗った10人のポセイドン騎士団が行う。

「海馬は水陸両用でござる! ダハハハハッ」とはナビスカさんの言葉だけど、まさに今回のような揚陸作戦では頼もしい味方だ。


(こちらイワクス1、シエラだ。我々も所定の位置に着いたぞ)

「了解しました。突入のタイミングはこちらで指示します。そのまま待機していてください」


 海岸から僕たちは魔族に奇襲をかける。

敵の目が戦車に集中したところを狙って、空から住民の収容所を急襲し確保するのが作戦の第二段階だ。

その間にも揚陸艇エアロ・スクランダーは輸送艦と陸の間を行き来して、人員、装輪装甲車、装甲戦闘車、高機動車、偵察警戒車、魔導榴弾砲車などなど、全武力を陸にあげる。

そして魔物のせん滅を目指すのだ。


 島に潜入している騎士たちからの報告では、ベッパーにいる魔物と魔族の数はおおよそ2000体くらいで僕らの戦闘員と数は変わらない。

輸送艦と艦載機があれば、短期決戦で十分カタをつけられると僕らは読んだ。



 東の空がうっすらと明るくなってきた。

まもなく太陽が昇ってくることだろう。

緊張でこわばる手でマイクをつかみ、僕は命令を下した。


揚陸艇エアロ・スクランダー、順次発進」


 ホバークラフトは海や陸の上を風魔法の力で浮かんで進む乗り物だ。

揚陸艇エアロ・スクランダーは轟音を立てながら波立つ海上を滑るように進んだ。


「魔導キャノンの砲手は揚陸艇エアロ・スクランダーの上陸を支援。魔導戦車が陸に上がるまで敵を近づけるな!」


 できる限りの援護射撃はするつもりだけど敵が揚陸艇に近づくほどそれは難しくなる。

揚陸艇にも機銃は搭載されているし、騎士200名と海馬で出撃したポセイドン騎士10騎がサポートについている。

兵員を乗せた水陸両用装甲兵員輸送船も随伴している。

きっと大丈夫だと思うけど、魔導戦車が上陸できなければ作戦は灰燼かいじんすので、心配は尽きない。


 ただ、今のところ『地理情報』に敵の気配はない。

長く魔族の支配が続いたために、人間がここを奪還しに来ることなんて考えていないのだろう。

潜入部隊からの報告でも海岸線に特別な見張りなどはいないとあった。

夜行性の魔物が這いまわっているだけのようだ。


 本当は僕も上陸作戦に参加したかったんだ。

みんなを危険な目にあわせて僕だけ輸送艦の中で待つなんて心が張り裂けそうだよ。

でも僕が死ねば船や艦載機がどうなるかわからない。

「将には将の務めがあるのだよ」と、笑顔でそういったシエラさんだったけど、その目はいつもより厳しかったと思う。


「こちら揚陸艇エアロ・スクランダー1号、フィオナ。魔導戦車は二台とも陸に上がった。繰り返す。魔導戦車は二台とも陸に上がった」


 艦橋のスタッフから小さなため息が漏れる。

続けてルネルナさんの乗る2号からも戦車上陸の報がとどいた。

僕は『地理情報』に全神経を集中させるけど、敵が集結して海岸へやってくる様子はまだない。


「今のうちにどんどん人員と兵器を陸にあげるよ。次の車両と騎士たちの準備を」


 一瞬の弛緩しかんも許されない緊張の中で、僕は情報を集めて指示を出し続けた。



 魔導戦車から放たれた攻撃に大地が吹き飛んでいた。

輸送艦からは詳細はうかがえないけど、たくさんの魔物を撃破しているのだろう。

海岸線から現れた戦車部隊に対処するため、魔族の軍勢が続々と砂浜を目指している。

だけど慌てて取りまとめた魔物の軍勢でしかないようで、組織的な抵抗はできていない。


「西側から新手が近づいています。数100未満。距離およそ1000m」


 ばらばらに反撃してくるのなら各個撃破していくまでだ。


(イワクス1、これより収容施設へ突入する。レニー君、作戦の成功を祈っていてくれ)


 シエラさんから住民収容施設への突入報告が来た。

ここは『地理情報』の範囲から外れているので敵の動向はわからない。

イワクス1、2に乗っている精鋭部隊とあらかじめ潜入していた偵察部隊が頼みだ。


「お願いします。ベッパーの皆さんを助けてあげてください。道が確保でき次第、偵察警戒車と高機動車で増援を送ります」

(心得た)


 僕は祈るような気持ちで通信を切る。

すると今度はルネルナさんから連絡が来た。


(7名が重症。兵員輸送船で帰還させるので受け入れよろしく)

「了解。救護班は後部ハッチに急げ。特殊医務室のセーラー1は治癒魔法加速カプセルの用意。受け入れ人数は7名だ!」


 激しい戦闘は始まったばかりだった。



 魔導戦車の力は圧倒的で並み居る敵をことごとく打ち払っていく。

戦闘は午前五時ころに開始されたが、七時前には敵の拠点は陥落していた。

奇襲が大成功したといっていいだろう。

艦橋には相変わらず続々と報告が集まってくる。

僕はアルシオ陛下と分担して、それらの情報を取りまとめて指令を出していた。


「ノキアより報告。目標収容施設の奪取に成功したそうだ!」


 団長からの報告を喜びいっぱいで陛下が伝えてくる。

僕の方にもシエラさんからの報告が入ってきた。


(レニー君、こちらの収容施設は確保したぞ。住民は無事だ。怪我人をイワクス1で送る)

「了解。もう一つの施設もノキア団長たちが奪取に成功しました。敵の本拠地もつぶしたので後は掃討戦に移行します。住民は何人ぐらいいますか?」

「こちらの施設には2000人が収容されていた。他にも小さな施設がいくつかあったが、こちらもすべて我々が抑えている」


 シエラさんが押さえた収容施設には反撃の脅威になりそうな成人が押し込められていたそうだ。

抵抗しなさそうな老人や子どもは別の施設に100人単位で押し込められていたが、そちらは見張りの数も少なく、騎士の分隊が各個に開放していったそうだ。それもこれも潜入偵察部隊の騎士たちが命懸けで情報を集めてくれたおかげだ。

安全を確保された人々は全体で4000人くらいになっているようだ。


「艦橋より食料部隊へ。ミーナさん、配給の数はおよそ4000強です。いけますか?」

(とりあえずは干し肉と果物、バターを挟んだパンになるけど数だけなら大丈夫よ)

「それでは食料部隊を連れてイワクス1で飛んでください」

「了解、物資の搬入にセーラー1を五体借りるわ」


 戦闘は終了したけど忙しくなるのはこれからだろう。

解放した住民の衣食住を用意し、医療体制を早急に整えなくてはならない。


「イワクス2を寄こしてください。僕も上陸します」

「カガミ伯爵も出るのか?」


 驚いたようにアルシオ陛下が訊いてくる。


「掃討作戦には僕の『地理情報』が欠かせませんから。イワクス2で空から敵の潜伏先をあぶりだしてきます。船のことはお任せしましたよ」

「うむ、安心いたせ」


 アルシオ陛下はさっと左右に視線を走らせた。

そして僕の手に自分の手を重ねる。


「気をつけるのだぞ、レニー」


 眉間のしわが一層深くなり、ものすごく心配そうな顔になっている。


「大丈夫ですよ。陛下はここで吉報をお待ちください」


 大々的な戦闘は終了し、もう散発的な遭遇戦が起きているだけだ。

僕が出ればそれだけこちらの被害は少なくなるだろう。

僕は艦橋を後にして後部甲板へと向かった。


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