オプション選択の苦悩
ポセイドン騎士団との交渉は上手くいき、エディモン諸島に騎士団の出張所と海馬育成施設を建設することが正式に決まった。
それに伴いロックナ解放戦線に参加する騎士300人を派遣してくれることにもなっている。
アルケイでの物資調達も終了し、明日はいよいよエディモンへ帰る日だ。
照明を落とした輸送客船の通路にナビスカさんの足音が響いてきた。
今は正午だけど、窓のブラインドは全て閉めてラウンジは暗くしてある。
「カガミ船長、ナビスカでござる! ご用があると聞いて参った。ここににいると聞いたのだがどちらにおいでだ?」
暗くしてあるから不審に思っているようだ。
「カガミ船長?」
そのときすべての照明が点灯し、室内の様子を明るく照らし出す。
部屋の中で僕と待っていたのは300人のポセイドン騎士とその家族、それからシャングリラ号の乗組員だ。
「ナビスカさん、三百人長とエディモン支部長就任おめでとうございます!」
拍手と歓声があがり、驚いたナビスカさんの表情に少しずつ喜色が差し込んでいく。
「いやはや、突然のことで驚きましたな、ダハハ」
ナビスカさんは十八頭もの海馬を見つけた功績を称えられ、三百人長に出世し、エディモン派遣軍の責任者にもなった。
急のことでお祝いもできないみたいだったから、出発前に派遣される騎士とその家族も招待して、昼食会をすることにしたのだ。
今回はミーナさんがいなかったので、料理は町のレストランにケータリングを頼んだ。
とっても美味しかったけど、やっぱりミーナさんの料理には敵わない。
食べ比べると改めてミーナさんの料理の腕を実感してしまった。
ロックナ解放軍はフェニックス騎士団300人に加え、ポセイドン騎士団300人とルマンド騎士団200人の援軍を得ることになった。
さらに各島に取り残された住人や各国に散らばった移民たちから続々と志願兵として集まっていて、その数は1200人に達している。
高速輸送客船や輸送艦は毎日各地に出向き、志願兵を乗せてエディモン諸島へと帰る。
エディモン諸島最大の島であるベッパーを奪還できれば、一般移住者も受け入れる予定だ。
「レニー、カサックより西では蝗害で穀物の価格が高騰しているわ。豆や麦を積めるだけ積んでイワクス1を送って。それから、王都のワインが値崩れを起こしているみたい。大量に買ってコンスタンティプルに持っていきましょう。駐在員はもう動き始めているはずだから」
報告書を読みながらルネルナさんが売買予定表を次々と作製していく。
僕らは機動力を活かして荒稼ぎをしているのだけど、二千人の人間を養うにはまだまだ足りない。
エディモン諸島の特産品としてミーナさんを中心に魚の塩漬け工場も操業を開始し、売り上げを出し始めた。
今は11台のセーラー1が加工に従事しているけど、今後は住民たちの主要産業の一つになっていくだろう。
「シエラさん、兵士の装備は整いましたか?」
「とりあえず部隊編成の済んだ兵士の支給品に問題はない。人員は増えそうだからすぐに足りなくなりそうだがな。そこはアルシオ陛下に期待だ」
陛下はコンスタンティプル王国に援助を求めに行っている。
エディモン諸島が解放されれば、コンスタンティプルは魔族の勢力との間に緩衝地帯を得ることになる。
彼らとしても支援には積極的なようだ。
ただ、どこの国もそれほど余裕はないのでどうなるかはわからなかった。
「騎士と兵士の練度はどうですか、シエラさん?」
「騎士たちの操縦技術は上がっている。ただ兵士たちの力量はまだまだだな、三週間後に迫ったベッパー解放作戦には間に合わせるからもう少し時間がほしい」
戦いの中心は艦載機と騎士になるだろうけど、兵士一人一人の力も重要になってくるのだ。
ベッパー解放に向けて僕らは動き出している。
すでに偵察隊の騎士50名が夜間に揚陸艇で島に潜入しているのだ。
人間の捕虜がどこに住んでいるか、魔族や魔物の数がどれくらいいるかを調べるのが彼らの主な任務だ。
捕虜の居住地が分かれば、イワクス1、2で強襲して彼らの安全を確保し、同時進行で海岸からの攻撃も開始するのが作戦の概要だった。
目が回るほど忙しくしているけど、誰もがロックナ解放の狼煙をあげる日は近いと感じている。
貿易、食料生産、戦闘訓練などをしながら二週間が過ぎて、ある日僕のレベルは突然上がった。
艦載機の走行距離や指揮下にある騎士が魔物を倒してもポイントは入るので、気が付かないうちにあがったのだ。
職業 船長(Lv.21)
MP 24362
所有スキル「気象予測」「ダガピア」「地理情報」「二重召喚」「伝導の儀式」
レベルアップにより船にオプションがつけられます。
a.三連魔導砲(輸送艦にのみ搭載可能な武器)
b. 特殊医務室(高速輸送客船か輸送艦に特殊医務室を置ける、付け替え可能だがどちらかの船に一つだけ)
今回は武装と医務室との選択か。
三連魔導砲はこれまでで一番の出力が出せる武器だ。
分厚い城壁でも軽く吹き飛ばせるし、連続で砲撃すれば地形が変わってしまうほどの威力があるらしい。
射程だって30キロもあると書いてある。
もちろんデメリットもあって、これを取り付けると輸送艦の前部甲板(1、2階ともに)が使えなくなってしまう。
そうなると積載量は大幅に少なくなってしまうというのが悩ましい。
でも、支援射撃の有用性を考えるとそれも仕方のないことのような気もする。
一方で特殊医務室というのもすごかった。
だって治癒魔法加速カプセルという装置が12基も据え付けられているんだ。
これは完全自動制御でカプセル内の患者を治してくれる魔導医療器械である。
高位聖職者が使う最上級の治癒魔法を連続で使えるので、どんな怪我や病気も治すことができる恐ろしいものだ。
聖職者の魔力は限られているけど治癒魔法加速カプセルは魔道具なので、魔石で魔力を補充したり、他の人の魔力を使って動かすことだってできる。
つまり際限なく魔法をかけ続けることができるというわけだ。
オプション選択については、これまでもどちらにしようか迷うことは多かった。
でも、今回ほど迷いに迷ったことはない。
三連魔導砲があれば海岸にある都市の制圧はかなり楽になると思う。
というよりは圧勝かもしれない。
また、特殊医務室があれば重傷を負った兵士を完全に癒せるから安心でもある。
平時のときだって役に立つだろう。
迷いあぐねた僕は五人のお姉さんに相談してみた。
まずはシエラさん。
「それはもちろん三連魔導砲だろう。ベッパー解放作戦も近いし、発射ボタンを押してみたいし……」
お次はミーナさん。
「私は医務室かな。怪我や病気の人が治るのは嬉しいもの。死なずにすむ命が多い方が絶対にいいわ」
ルネルナさんはと言うと……。
「絶対に特殊医務室よ。そんな医務室があるのなら世界の要人がこぞってシャングリラ号を頼ってくるはずだわ。その場の報酬もだけど、各国の協力が取り付けやすくなりますからね」
フィオナさんは……。
「レニーの好きな方を選べばいいだろう? アタシはちょろっと分解させてもらえればそれでいいからさ。どうしても選べないときはアタシがクジを作ってやるから、そいつを引いて決めればいいさ」
アルシオ陛下。
「支援射撃があれば兵への負担は軽くて済むのだな。だが、特殊医務室があればより多くの命が助かるか……。すまん、少し考えさせてくれ……」
そう言って、いつもよりも眉を吊り上げて考え込んでしまわれた。
結局、僕は船長の責任において判断を下した。
いろいろな考え方があるのはわかったけど、決めるのは僕自身だ。
「新しいオプションは特殊医務室を選択します」
反対する人は誰もいなかった。




