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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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続 伝導の儀式

 『伝導の儀式』も四日目に入り、今夜フィオナさんの番だ。


「へんなことをされそうになったら大きな声で叫べ。いつでも助けに行くからな」


 シエラさんの言葉に苦笑してしまう。


「大丈夫ですよ、手を繋いで眠るだけなんですから」

「わかっているが、相手はあのフィオナだ。欲情に駆られてレニー君にいかがわしいことをするやもしれん」


 フィオナさんは冗談で絡んでくるだけなのに、シエラさんは心配性だな。

生真面目な性格だからジョークとかがわからないのかもしれない。


「これでもダカピア遣いです。戦いの素人に何かされるわけありませんから」


 ダカピアには絞め技や関節技もある。

たとえベッドの上であっても後れを取るはずがなかった。


「うむ、いざとなったら腕をへし折ってやれ」


 過激な発言をするシエラさんに別れを告げて、フィオナさんが待つ船室へ向かった。



 僕を出迎えてくれたフィオナさんは黒い下着とタンクトップというあられもない姿だった。


「なんて格好をしているんですか⁉」

「ええっ? 寝るときはいつもこれだけど?」


 フィオナさんは悪びれもせずに、笑いながら僕を部屋へと引き入れる。


「もう、恥ずかしくないんですか?」


 視線を逸らして訊いてみるけど、あっけらかんとした態度は崩れなかった。


「まあ、レニーは特別だからな。誰にでも見せているわけじゃないぜ」


 男としては見られていないのかな……?


「そんなことより、今日の話を聞かせてよ。どうだったの、イワクス1による長距離飛行は? 巡航速度や風の影響はどれくらい受けた? 高度はどれくらいを保ったの?」


 僕を引っ張ってベッドの上にぺたんと座り、矢継ぎ早に質問してくる。

まるで友だちとお泊り会をしているようなはしゃぎようだ。

僕も次第にフィオナさんのペースに飲み込まれて、緊張することなく話ができるようになった。


「アタシも一緒に魔石探しに行きたかったなぁ。でも、また行くんだろう?」

「ええ、魔石はいくらあっても困りませんからね」

「そのときは絶対にアタシがイワクス1を操縦するからな。あんなでかい物が空を飛ぶなんて、本当にどうなっているのやら!」


 イワクス1は小型トラックを2台積めるほど大きいのだ。

フィオナさんの疑問は僕ら全員の疑問だった。


「まっ、明日になれば私も操縦できるんだ。今夜はよろしく頼むぜ!」


 二人で並んでベッドに横になったけど、フィオナさんは興奮でぜんぜん眠れないようだ。


「シエラは戦車が好きなんだけどさ、私はやっぱり輸送艦それ自体に憧れるね。それと揚陸艇エアロ・スクランダー! あんなにでかくて戦車まで積めて、さらに海から陸へそのまま走れるって何なのさ⁉」

「しかも最高時速76㎞ですもんね!」

「それな!」


 フィオナさんは風魔法で動く揚陸艇エアロ・スクランダーにご執心だ。

原理自体は理解しやすいようで、小型のものならいつか作れるかもしれないと言っていた。

ただ、どうやって機体を制御するのかがさっぱりわからないそうだ。


「早く明日にならないかな。朝になったらぶっちゅーってして、その足で車両置き場に行っちゃうもんね!」


 ぶっちゅーって……。


「気持ちはわかりますけど、事故だけは気をつけてくださいね」

「……」

「フィオナさん?」

「スー、スー、スー……」


 寝てるっ!? 

直前までしゃべり続けていたのに、子どもみたいにいきなり寝ちゃった……。

僕は手を繋いだままフィオナさんの羽根布団を直してあげた。


「おやすみなさい」


 ベッドサイドの魔導ランプを消す前に、もう一度フィオナさんの様子を見た。

子どもの僕から見ても無邪気な寝顔だ。

正直に言うと、フィオナさんのことを初めてカワイイと感じてしまった。

この人はお姉さんだけど、心のどこかに少女のまま年を取らないキラキラした部分があるような気がした。



 大量の魔石を集められたので、すべての艦載機に魔力を満たすことができた。

講師にフィオナさんを迎えて、騎士たちの操縦訓練実技講習も本格的になってきている。

五人で知恵を出し合って講習マニュアルなんてものも作り始めた。


 僕としても騎士たちに船や艦載機をバンバン使用してもらいたい。

そりゃあ事故の心配もあるけど、それがロックナを解放する早道だし、僕にとっても大きなメリットがあるからだ。


 どういうことかというと、お姉さんや騎士たちが艦載機を使用しても、僕の経験値に反映されることが分かったのだ。

つまり、騎士たちがイワクス2で哨戒に出るだけで僕の総走行距離は上がり、搭載された武器で魔物を撃破すれば討伐ポイントも加算される。

レベルも20に上がり、次のレベルアップは当分先だと思っていただけに、これは嬉しい誤算だった。



 明日から僕はお姉さんたちと別れてアルケイへ戻らなくてはならない。

ポセイドン騎士団が集めた海馬も一八頭になり、人にもだいぶ慣れてきた。

長いたてがみを撫でてやると嬉しそうに首をこすりつけてくるくらいだ。

好物の海草も人の手から食べるようになっている。

ナビスカさんと話し合って、そろそろ輸送船に乗せて運んでも大丈夫だろうということになった。


 イワクス2が哨戒任務に出るようになって、上空から新たな海馬の群れがいくつも見つかっている。

ポセイドン騎士団は今後も海馬を捕獲し、この地で訓練する予定だ。

その見返りに騎士団はロックナ王国解放に協力する。

拠点構築が優先課題だから土魔法を使える人がたくさん来てくれると嬉しいな。


 今回の旅ではエディモン伯爵となった僕がポセイドン騎士団の団長と正式に契約を取り交わせればと考えている。


「安心召されよ。団長ならきっと儂の百人隊をこの地に派遣してくれるはずじゃ」


 ナビスカさんは大丈夫と請け合ってくれた。

帰りの船では、大量の物資と100人の騎士たちを運んできたいものだ。



 『伝導の儀式』もいよいよ今夜で最後になる。

ついにアルシオ陛下の番が来たか……。

相手が女王陛下ということで、これまでのお姉さんたちとはまた違った緊張感がある。

陛下の準備が整うまで船長室で待つように言われたので、僕は静かにそのときを待っていた。


 やがて執事のアクセルさんが僕を呼びに来た。


「お待たせいたしました、カガミ伯爵」

「もうよろしいのですか?」

「はい、陛下のご準備はすべて整いました。後はおやすみになられるだけでございます」


 王様となると寝るだけでいろいろな準備がいるのかな?


「伯爵……」


 アクセルさんが遠慮がちに話しかけてくる。


「どうしましたか?」

「このようなことを私の口から申すのも恐れ多いのですが、どうか陛下をよろしくお願いします」

「伝導の儀式は必要な知識を魔力に乗せて送るだけのものです。心配するようなことは何もありませんよ」


 最後にキスをしなくちゃいけないけどね……。


「いえ、私が申しているのは儀式のことだけではございません。これから先のこともです。陛下はお優しい……恐れながら王としては優し過ぎるお方なのです。今も抱えきれないほどの不安を胸に抱きながら日々を過ごしていらっしゃいます。ハイネルケ滞在中はいつもご不快なご様子で……。ですが、カガミ伯爵の知己を得て、この地に移り住んでからは笑顔が……陛下に笑顔が戻りました。失礼……」


 アクセルさんは声を詰まらせながらハンカチで涙を拭いた。

優し過ぎる女王の執事も、同じく優しい人柄だった。


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