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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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魔石の回収

 60人の精鋭をのせたイワクス1は青い空に白い機体を浮き上がらせた。

こんなに重たいものが浮かび上がるのだから、ヘリコプターというのは本当に不思議な乗り物だ。

今作戦の操縦士は僕が務め、副操縦士はミーナさんに来てもらった。

これでどちらかがの具合が悪くなっても対処できるだろう。


輸送艦にはシエラさんとルネルナさんを残してきている。

たとえ敵の奇襲を受けてもシエラさんが指揮を執って何とかしてくれるはずだ。

戦車と榴弾砲の実戦投入を今か今かと心待ちにしているみたいだし、心配はいらないと思う……。


「まったく、未だに夢を見ているような心持です。こんなふうに故郷に帰ることになるとは思ってもみませんでした」


 眼下に広がる海を見つめながらノキア団長が呟いていた。

土地勘のある団長には、道案内と実働部隊の指揮を任せてある。

フェニックス騎士団にとっては一年ぶり以上で踏みしめる故郷の大地だ。

僕になんて想像もできない複雑な思いがあるのだろう。


 パレット平原はロックナ王国の王都から30㎞ほどのところにあり、王都防衛戦における決戦の地になった場所だ。

激戦地の中の激戦地であり、双方が死に物狂いで戦ったらしい。

結局人間側は敗北を喫してしまったのだけど、戦闘の最中ではベヒモスやヨルムガンドなど、非常に大型で強力な魔物も撃退したそうだ。

大型の魔石が見つかる可能性は非常に高い。


「予想以上に早くつきそうですな」

「巡航速度は時速200㎞以上を維持しています。ただ、なるべく魔物のいない場所を飛んでいくつもりですから、多少遠回りはしますよ」


 イワクス1の高度限界は2700mくらいなので、地上に魔族がいればどうしても気づかれてしまう。

魔石を探す時間を確保するためにも、魔族が多い都会の上空は飛行するべきではなかった。


パレット平原には2時間弱で到着した。

南北に長い街道が走る広い平原で、今は背の高い夏草に覆われている。

この街道を北に行けばロックナ王国の王都だ。

僕らは魔族たちが陣を張っていた南側の平地に着陸した。


「かつては羊やヤギの放牧が盛んな場所でしたが……」


ノキア団長は向かい風に目を細めながら、青く茂った草原を見つめていた。

見渡す限り草の波がうねっているだけで、今は羊も牧童の姿も見当たらない。

あるのは『地理情報』に散見される魔物の反応だけだった。


「失礼しました。作戦を開始しましょう」


ノキア団長は感傷を断ち切るように軍人の顔に戻った。



僕らは部隊を二つに分けた。

一つは僕が率いる隊で、五人の騎士と一緒に装甲兵員輸送船を使って周囲の魔物を排除する。

どの騎士もシエラさんが直接指導し、機銃の扱いにかけては特に優秀な騎士たちだと報告を受けている。

それぞれの保有魔力量も高く、交代で機銃を扱えば長時間の作戦行動にも耐えられるとあった。

残りはノキア団長の指揮のもと、魔石の回収と探索だ。

ミーナさんにはイワクス1に残ってもらい、通信機で二つの隊のやり取りをしてもらうことにした。


「いざという時は僕を置いて離陸してくださいね」

「そんなことできるわけないじゃない! 私はレニー君が帰って来るまでここを離れませんからね」


 ミーナさんならきっとそう言うと思って念を押しといたのだ。

気持ちは嬉しいけど他の騎士たちを危険に晒すことはできない。


「ダメですよ。いくらミーナさんの頼みでも作戦行動中の命令は絶対です。ノキア団長から指示があったら、すぐにイワクス1を動かしてくださいね」

「レニー君……」

「大丈夫、僕には装甲兵員輸送船がありますから。これは命令ですから絶対に守ってくださいね」

「……」

「ミーナさん。お願いします」

「わかったわ。その代わり島へ帰ったら私の命令わがままをいっぱいきいてもらいますからね!」


 可愛く拗ねられると困ってしまうな。

まあ、ミーナさんはルネルナさんやフィオナさんと違って無茶なお願いとかは絶対にしてこないので安心だけどね。


「わかりました。お手伝いでも何でもしますから、みんなのことを守ってあげてくださいね」


 あとのことをよく頼んで装甲兵員輸送船に乗り込んだ。


 『地理情報』を使って魔物の気配を探りながら、装甲兵員輸送船の魔導機銃で魔物を各個撃破した。群れになると恐ろしいけど、単体や小グループでは物の数ではない。近くに指揮を執れるような魔族がいなかった状況も僕らに有利に働いた。


「そろそろ時間です。銃塔の位置を交代してください」


 僕は同乗している騎士に声をかけた。

なるべく多くに実戦経験をさせてくれと言うノキア団長からの依頼で、さっきからローテーションを組んでやっているのだ。


「捉えた! 三時の方向にヘルハウンド七体。向こうもこちらに気づいています」


 銃塔の騎士が機銃を巡らせ、他の騎士もサポートのために天井へ上がっている。


「敵を確認! 排除します」


 草を踏み分けて殺到するヘルハウンドに魔弾丸の雨が降り注いだ。


 ヘルハウンドを倒して騎士たちが魔石を回収していると、ミーナさんから通信が入った。


(レニー君、大変よ!)

「敵襲ですか?」

(ううん、そうじゃなくて、ノキア団長がすごく大きな魔石を見つけたんですって)

(そうなのです、とんでもない大きさですよ!)


 ミーナさんの後ろから女性の声が聞こえる。

きっと仲良くしている女騎士が報告してくれているのだろう。


「やりましたね。これで目的は達成されました」

(そりゃあもう、だってミーナ料理長の胸より大きいんですから!)


 えっ……。


(バ、バカッ! ユレアさんったら何言ってるのよ! さっさと仕事に戻りなさい。ごめん、レニー君、通信終了!)


 ブチッと音を立てて報告は乱暴に打ち切られてしまった。

僕は声も出せず、しばらくマイクを握りしめたままだった。

ミーナさんの胸以上? 

スイカより大きいってことじゃないか……。


今回収しているヘルハウンドの魔石でも米粒くらいの大きさしかない。

それがスイカ以上というのだから、きっと巨大な怪物がドロップしたのだろう。

当分は大型輸送艦の運用に困ることはなさそうだ。

それにしてもあれ以上の大きさとは……。


 魔石の回収は騎士たちに一人の犠牲も出さずに終了した。

報告にあった巨大魔石は大きな卵の形をしていて、ルビーのように真っ赤だった。


「いかがですか、カガミ伯爵、大収穫でしょう?」


 ノキア団長も回収できた魔石の量に満足そうだ。

だけど、巨大魔石を掌でピタピタ叩くのは止めてほしい。

自分でもバカみたいだとわかっているけど、なんか変な妄想をしちゃうんだもん。

ミーナさんが触られているみたいでちょっと……。

巨大魔石は袋に入れて、僕が直接輸送艦の魔石タンクに入れることにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] レニー君、多感なお年頃だな
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