11体いる⁉
謁見の間で陛下の御前に出るのかもしれないと緊張して王宮へ行ったのだけど、通されたのは普通の部屋だった。
中にはアルシオさんとノキア団長、執事のアクセルさん、それからハイネーンの役人がいるだけだ。
アルシオさんは正式にロックナ王国の女王になったと聞いたから、シエラさんに教えてもらった作法に則りきちんと拝謁しておいた。
顔を合わせるのは初めてじゃなかったけど、港で出会ったときはみんなで大泣きしていて、挨拶する機会はなかったのだ。
拝謁が終わると、僕はハイネーンの役人から王命を授けられた。
曰く、「臣民レニー・カガミは同盟国ロックナを助け、アルシオ女王に協力せよ」だそうだ。
命令を伝える役人は、まるでこちらが断ることなんてないという口ぶりで、聞いていてちょっと腹が立った。
もっともノキア団長とアルシオ女王に協力するのはやぶさかじゃないから断るつもりはない。
協力期間は半年で、支度金として20万ジェニー、報奨金として30万ジェニーが与えられるそうだ。
ちょっと泣けてくるなぁ……。
今回の交易で稼いだ額は38万ジェニーだよ。
一週間もあればそれだけ稼げるのに、半年かけて50万ジェニーとはね。
いや、お金の問題じゃないことはわかっている。
ただ、僕の船を過小評価されていることに腹を立てているだけ。
でも、王国がシャングリラ号の真価に気づいたらもっと自由がなくなっちゃうかもしれないから、これくらいでちょうどいいのかもね。
ハイネーンの役人が退出するとアルシオ陛下は腹立たしそうに、溜息をついた。
「こちらの足元を見おって! ハイネーンは何もしないと言っておるのと同じではないか」
アルシオ陛下はもともと目つきのきつい人で、普段から少し怒っているように見えてしまう。
だけど、今はハイネーンのやり口に相当腹を立てている様子だ。
「三年前のイベルダ戦役の折、ロックナはハイネーンへ1万の援軍を送っているのだぞ。我が国にも余裕はなかったというのにだ。その返礼が船一つとはなっ!」
そういってテーブルを思いっきり叩いたアルシオ陛下だったけど、急に僕のことを思い出したらしい。
僕の方を見て申し訳なさそうにお詫びを言ってきた。
「いや、カガミ船長が頼りないと言っておるわけではないのだ。気に障ったのなら許してほしい」
この人は一見怖いだけで、元来は優しい人なのだと思う。
フェニックス騎士団との港でのやり取りを見ているから僕にはわかっている。
「わかっております。お気になさらないでください」
相変わらず眉間に少しだけしわが寄っていたけど、アルシオ陛下は少しだけ笑顔になる。
「ノキア団長にそなたのことは聞いた。フェニックス騎士団が大変に世話になったとな。1ジェニーの得にもならないというのに300人もの騎士に食事を振る舞い、ここまで運んでくれたというではないか。感謝している」
「人として当然のことをしたまでです」
そう言うと、アルシオ陛下の眉間のしわまで取れてしまう。
「聞いたか爺! このような少年もいるのだ。世の中もまだまだ捨てたものではないな」
「はい。このような御仁が集まってくれれば、ロックナ王国の復興も早いかと」
そこまで期待されるのはどうかと思うけど、やれることを頑張ろうと思った。
アクセルさんの言葉を受けてじゃないけど、ノキア団長までこんなことを言い出した。
「陛下、これはこれでよかったかもしれません。カガミ船長のご助力が得られるというのは五千の兵を借りられるよりも貴重なことでございます」
「どういうことだ?」
「我らフェニックス騎士団を乗せたカガミ船長のシャングリラ号は、おそらくハイネーン王国艦隊に匹敵する強さを発揮するかと……」
さすがにそれは言い過ぎだと思ったけど、ノキア団長はかなり真面目に発言しているようだ。
フェニックス騎士団は魔法攻撃に主軸を置いた遠距離攻撃及び一撃離脱攻撃部隊だから、シャングリラ号との相性もいい。
そのへんの事情もあっての発言なのだろう。
でも、実際にシャングリラ号を見ていないアルシオ陛下はよくわかっていないようだ。
「ふ~む、そのようなことがあるのかのぉ……」
首をひねりながら不安そうに考え込んでいる。
やっぱり船に乗ってもらって視察してもらう方がいいのかな?
「あの、もしよろしかったらシャングリラ号に乗ってみませんか? 僕らはエディモン諸島へポセイドン騎士団を迎えにいかなければなりません。そのついでに、船を見ていただければいいと存じますが」
「ふ~む、良いのか?」
良いも何も王命が下っている。
しかもフェニックス騎士団がいてくれれば、船を動かすための魔力補給はしてくれるし、攻撃力がとんでもないから魔物を恐れずに最短距離でエディモン諸島へ向かえる。
こちらとしても願ったり叶ったりなのだ。
「カガミ船長、我らの力をアルシオ陛下に見ていただきましょう!」
ノキア団長も力強く頷いていたけど、アルシオ陛下は少し不安そうだ。
外見とは裏腹に気の弱い一面を持っているのかな?
セミッタ川に現れたシャングリラ号の巨大さに、アルシオ陛下はしばらく言葉を失っていた。
「これが僕のシャングリラ号ですよ。乗船にはこちらのクルーザーをお使いください」
「う……あ……ああ。驚いたぞカガミ船長! 噂には聞いていたがこれほど大きな船があるとはな!」
アルシオ陛下は満足そうに頷いているけどシャングリラ号の真価が発揮されるのは洋上だからね。
僕らの戦いを目にしたらきっと度肝を抜かれることだろう。
海に出て最初の戦端が開かれたのはダークネルス海峡の中心部あたりだった。
魔物によってほぼ半包囲された形ではあったけど、圧倒的機動力によって僕らは敵を各個撃破していく。
今回はアルシオ陛下に僕らの力を知ってもらうための戦闘だから、いつものように消極的ではなく、敗走する魔物を追いかけ、徹底的に掃討した。
おそらく、この海域の魔物はほとんど殲滅されているだろう。
アドレイア海で一番危険な場所と言われたダークネルスだけど、今この瞬間だけは一番安全な海になっているかもしれない。
それくらい徹底的に魔物を排除した。
(レベルが上がりました)
職業 船長(Lv.19)
MP 19109
所有スキル「気象予測」「ダガピア」「地理情報」「二重召喚」
走行距離 5526キロ 討伐ポイント 158314 トータルポイント163841
レベルアップにより船にオプションがつけられます。
a. 船員ゴーレム:セーラー1×10体(乗り換え可能)
b.魔導機銃×5(換装可能)
久しぶりのオプション選択だけど、これは迷う。
今までで一番と言っていいくらい迷っている。
フェニックス騎士団への協力を命じられている今、戦力アップはとても魅力的なオプションだ。
機銃はどれだけあってもありがたい。
だけど、今後の本格的な商売を考えれば、セーラー1が11体になるのだって捨てがたい。
セーラー1は荷物の積み降ろしから、調理の補助、清掃までをこなす万能ゴーレムだ。
最終的に僕はaのセーラー1を選んだ。
長い目で見ればこちらの方が有用だと判断した。
「す、すごい……。すごいではないかカガミ船長!」
鬼の形相で戦闘を見守っていたアルシオ陛下だったけど、今は晴れやかな顔で俺に笑いかけている。
「この戦で騎士団に被害が出るかと思ったが、まさか負傷者一人ださんとはな。驚きを通り越して踊り出したい気分であるぞ!」
その感覚はよくわからないけど、アルシオ陛下はやっぱり優しい人なのだと思う。
さっきまでの鬼の顔だって、騎士たちが心配で心配でたまらなかったからなのだろう。
「船長、これからもよろしく頼むぞ」
「はい」
「ピポッ!」×10
俺の周りにいる10体のセーラー1も同時にアームをあげてあいさつした。
「ところで、カガミ船長……。このゴーレムはいったい……」
すみません。
オプション選択をした途端にこの場所に出現してしまったのです。
操舵室はセーラー1でいっぱいになっていた。




