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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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フェニックス騎士団

 問題の島の沖合で僕らは海馬と輸送船に乗り換えた。

改めて見ると煙はうっすらと東から西へとたなびいている。


「やはり人がいるぞ!」


 銃塔に座ったシエラさんが叫んだ。

きっと魔法で視力を強化しているのだろう。

僕もフィオナさんに借りてきた双眼鏡で砂浜を確かめる。

見れば砂浜にはずらりと300人以上の人たちが並んでいるではないか。

近づくにつれその姿がはっきりしてくるが、みんなボロボロの鎧や服を纏っていた。

馬に乗った人も数人いたけど、どの馬も痩せて元気がない。

だけど人間はもっと痩せていて、さらに元気がないように見えた。


「軍旗が見えるな。あそこにいるのはやはりロックナ王国の騎士団のようだ」

「相手を刺激しないようにゆっくり行きしょう」


僕らは島に向けてゆっくりと進んだ。


「私たちは輸送客船シャングリラ号の乗組員です。私は船長のレニー・カガミ。ハイネーン王国の人間です。あなた方はロックナ王国の方々ですか?」


 馬に跨った背の高い騎士が一歩前に出た。

頬はこけて顔色は悪かったけど、眼光には力がある。

年齢は40代くらいだろうか。


「我々はロックナ王国フェニックス騎士団だ。私は団長のパズール・ノキア。君たちを歓迎するよ。とはいえここは何もない島だがな」


 僕らは案内されて島の中の砦に入った。


「それではもう1年もこの島にいるのですか⁉」

「そうだ。首都ルベンドが魔族の手に落ちたときに我々は第二王子のスクノア様をお守りして何とか脱出しを果たし、この島にたどり着いたのだ」

「えと、そのスクノア様という方は……」


 辺りにそれらしき人物はいない。


「亡くなられてしまったよ。もともと体の丈夫な方ではなかった。戦闘時の攻撃で船も使えなくなってしまい、我々はこの島に取り残されてしまったのだ。祖国を取り戻そうと思っても身動きが取れない始末さ」


 ノキアさんは自嘲するように笑っていた。


「カガミ君、ロックナ王国はどうなってるか教えてくれないか?」

「いまだに魔族に支配されたままです」

「そうか……私は陛下の最期を見ている。王太子殿下もだ。もはやロックナ王国の王族は誰も生きてはおられないだろう……」


 あれ? 

そんなことはないよね。


「お名前は存じませんが、王都ハイネルケにロックナ王国の公爵令嬢が身をお寄せになっていると聞いたことがありますよ」

「なんだと! エールワルト公のご息女か⁉」


 ノキアさんは突然立ち上がって周囲をうろうろしだした。

いろいろと考えを巡らせているようだ。

やがて僕の方を真剣な目で見つめてきた。


「カガミ殿、突然のお願いで申し訳ないのだが頼まれてはもらえないだろうか?」

「何でしょう?」

「私からの手紙をアルシオ・エールワルト様へ届けてほしいのだ。頼む!」


 ノキアさんは膝をついて僕に頭を垂れた。騎士にとっては最大限な礼節のあらわれである。


「ノキアさん! そんなことをされなくても大丈夫です。きっと手紙を届けますから!」


「私にはこれしかないのだ。もはや財産も身分も国もない。せめてもの誠意を受け取って下さい」


 その言葉を聞いて周りの騎士たちも一斉に跪いてくる。

僕は両手を取ってノキアさんに立ってもらった。


「大丈夫ですよ、必ず届けますから。それよりも今は食料です。船に置いてある食べ物を持ってきますから皆さんでしっかり食事をしてください」

「カガミ殿……」

「ちゃんと食べないとエールワルト様だって心配するでしょう、ね?」

「かたじけない」


 フェニックス騎士団の人々はこの1年間は魚くらいしか食べていなかったらしい。

もともとここには小さな畑しかなく、324人もの人間を養えるほどの食材はなかったからだ。

最近では木の根や雑草まで食べて飢えを凌いでいうのだからひどい話だ。

シャングリラ号にはまだ500食以上の食料ストックがあるからこれを放出してしまうとしよう。


「ナビスカさん、すいませんがこの危機的状況を見捨ててはおけません。我々の食料をいったん供出しましょう」

「もちろん構わん」

「そう言っていただけると助かります。ただ、そうなると僕らが滞在する間の食料がなくなってしまいます。そこで僕はいったんガモまで戻って食料を仕入れてこようと思うのですが」

「だったらガモよりコンスタンティプルに戻った方がいいわ」


 そう提案したのはルネルナさんだ。


「ガモみたいな小さな港よりもコンスタンティプルの方が品物は手に入りやすいもの。それにコンスタンティプルならニーグリッド商会のコネクションが使えるから、仕入れはずっと楽になるわ」

「そうですね。とにかく、まずは腹ごしらえをしましょう。難しいことはその次です。ミーナさん、お願いします!」

「任せといて。セーラー1、忙しくなるわよ」

「ピポ!」


 食料の管理はすべて専属料理人に任せてあるのだ。


 僕は島に接近できるギリギリに輸送客船を召喚した。

シエラさんを中心とした騎士たちが魔法で100メートル以上の桟橋をかけてくれる。

こうして僕らはフェニックス騎士団の皆さんを船に招いた。


「まずはみなさんお風呂を使ってください。その間に料理をしますから。お風呂に入ってさっぱりした方は料理を手伝っていただけるとありがたいです」


 すべての船室を解放してフェニックス騎士団の人たちにくつろいでもらい、その間にミーナさんは煮込み料理に取り掛かった。

なんといっても300人分以上なのでシチューやスープが手っ取り早い。


「レニー君、冷凍してあるパンのストックを全部出してオーブンで温めて」

「了解!」

「私たちも手伝うわよ」


 なんとエプロンを着けたクレイリーとマチルダさん、他にもポセイドン騎士団の皆さんまで助っ人に来てくれた。


「ダハハハハ! 何でも言いつけてくれ。激戦を生き抜いた騎士たちに敬意を払うためなら何でもするぞい!」


 ナビスカさんの巨体にエプロンがやけに小さく見える。

後ろで紐が縛れなくて、ロープでぐるぐる巻きにとめてあるのが可笑しかったけど、その心意気がありがたかった。


「それでは、冷凍のパンを運んできてください。後はテーブルの準備なんかも」

「任せてもらおう! ラムサス、ダンケル、付いてくるのじゃ!」


 ナビスカさんは部下を連れて冷凍庫へ行ってしまった。


「私たちは何をしたらいいの?」


クレイリーが聞いてくる。


「料理の経験はあるの?」

「馬鹿にしないで! こう見えて、少しくらいならできるのよ……」

「そうなんだ! 騎士のお嬢様だから料理の経験なんてないかと思っていたよ」

「そ、それは、その……、少しだけって意味で……」


 クレイリーの後ろでマチルダさんが首を振りながら、指でバッテン印を作っている。

見栄を張っちゃっただけなのね。


「そっか。とりあえずはテーブルのセッティングからお願いするよ。クレイリーは几帳面だから安心して任せられそうだしね」

「そ、そう。まあいいわ」


 クレイリーはホッとした顔になって調理場から出ていった。


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