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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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船長の決断

挿絵(By みてみん)

 雨の降るアルケイ港で僕らはポセイドン騎士団の見送りを受けながら出港した。

まずはダークネルス海峡を通りコンスタンティプルの東にあるガモという港町で一泊する予定だ。

翌日はガモから一気に南下してエディモン諸島を目指すことになる。

エディモンでは最大の島ベッパーに寄港予定だ。



 操舵室の椅子に座って海を睨んでいたシエラさんが声をかけてきた。


「レニー君、そろそろダークネルス海峡だね」


「はい。あと20分ほどで海峡に入ります。もう少ししたらシエラさんはフロントデッキ入り口付近で待機をお願いします」

「心得た。魔物が出てきたときは任せてもらおう」


 フロントデッキには機銃を換装してあり、フィオナさんお手製の『バリバリのバリスタ』も設置済みだ。

名前はふざけているけど、雷属性の長槍を撃ち出す攻撃の威力は高い。


「視界はどうですか?」

「さすがに晴天の日のような精密射撃は無理だな。まあ、やるだけのことはやってみるさ」


 機銃の有効射程は2000メートルあり、普段なら魔物を船体に近づけることなく倒してしまうことも可能だ。

だけど、雨に煙る海には軽いもやがかかっている。

いくら身体強化魔法で視力を補うシエラさんであっても、遠距離で敵に命中させることは難しいだろう。


 僕はマイクを手に取り船内放送をオンにする。


「これより本船はダークネルス海峡に突入します。乗組員は緊急時に備えてください。また、ただ今より火気の使用を禁止致します。厨房、給湯室、タバコの火などはすべて消すようにお願いします」


 混乱しているときに火がついていると火事の元になるからね。



 操舵室の扉が開いて興奮した顔のナビスカさんが入ってきた。


「いよいよダークネルス海峡か!」

「ちょうどよかった。今船内放送でナビスカさんを呼ぼうと思っていたのです」

「おお、先ほどのあれだな。どこからともなくカガミ殿の声が聞こえてきてたぞ」

「海峡内で戦闘になったらポセイドン騎士団の皆さんにも協力をお願いしたいのですが構わないですか?」

「もちろんだとも。我々はもとより共に戦う所存だぞ。既に全員がラウンジで待機しておる」


 さすがは血気盛んな騎士たちだ。


「で、どうする? 海馬で打って出るか、はたまたデッキで迎撃するか」


 海馬で打って出るのは最後の手段にしたい。

下手に突撃されると機銃が撃てなくなってしまうもんな。


「まずは遠距離の魔法攻撃で迎え撃ちましょう」

「うむ、定石だな」

「機銃については出航直後にお見せした通りです。最初は慣れているシエラさんが使いますが、シエラさんの魔力が切れたときはポセイドン騎士団のみなさんで運用してください」

「心得た」


 機銃とバリスタの使い方については、すでにシエラさんからナビスカさんたちにレクチャー済みだ。

戦力は独占しないで、一緒に使わなければ魔物の海域では生きられない。


「あ~、カガミ殿」

「なんでしょう?」


 ナビスカさんがウキウキとした目つきでこちらを見つめてくる。

あまりの目力につい気圧されてしまうくらいだ。


「先ほどの船内放送とやらを儂にもやらせてくれんかのぉ?」


 いざという時はここからポセイドン騎士団に指示を出してもらうことがあるかもしれない。

今のうちに覚えておいてもらった方がいいよね。


「それではこのマイクを持ってください」

「この線のついた箱かの?」

「そうです。このボタンを押して、マイクに向かって話せば先ほどのように船内全体に声が伝わります」

「ど~れ、一つ試してみるか」


 ナビスカさんはニッコニッコしながら力強くボタンを押し込んだ。

そして――


「あ~あ~!!!! 聞こえるであろうかっ!? ポセイドン騎士団百人隊長オレオ・ナビスカであ~る!!!!」


 耳が破けそうなほどの大声を出された!?


「ナビスカさん! そんなに大きな声でなくても大丈夫です。もっと普通の声量で話してください」

「おおそうか!? すまんの。これくらいか?」


 まだ声は大きいけど、さっきよりはだいぶマシだ。


「ポセイドン騎士団、騎士各位に通達する。これより我々は警戒体制に入る。なお船の上での指揮権は船長であるカガミ殿にある。そのことを忘れぬように! 諸君らの働きに期待する! 以上‼」


 僕はちょっと驚きながらナビスカさんのアナウンスを聞いていた。


「よろしいのですか?」

「海には海の掟がある。指揮系統が混乱すれば勝てる戦も勝てなくなるものじゃ。船の上では船長の言うことは絶対じゃ」


 嬉しさと同時に責任を感じる。

僕を信頼してくれるナビスカさんの為にも頑張らなくちゃ。



 シャングリラ号はついにダークネルス海峡へと入り込んだ。

ノワール海に通じる出口まではおよそ30キロ。

時間にして30分弱の航路になる。

前々回は魔物と遭遇することはなかったが、前回は遭遇、これを撃破している。

さて、今回はどうなることか。


「魔物が出てきた場合はどうする? この船と人員を考えれば逃げることも戦うことも可能だが」


 ナビスカさんが方針を聞いてくる。


「基本的にはなるべく逃げるつもりです。囲まれたら厄介ですから」

「儂も遭遇戦は避けるべきだと思う。叩くのなら事前の準備が必要になる」

「この船の速度なら基本的に魔物は追い付けませんからね。ただ、稀に速い魔物がいまして」

「うむ、シーモンクやツーナン系の魚型じゃな」

「はい。その場合は迎撃しつつ撤退というのが基本方針です」


 これはシエラさんと話し合って決めてあった。


「あい分かった。ただな……」

「どうしました?」

「戦場では予期せぬ事柄がしょっちゅう起こるものでな」


 ナビスカさんは思いつめたような顔をしている。


「基本方針に沿って戦えないこともある。酷なことをお願いするが、どんな決断をするにしても、なるべく早く意思を決定してほしい。それが前線で戦う仲間たちを救うことになる。どうしてもカガミ殿が決断をできないときは指揮権をライラック殿か儂に移譲してくれ」


 ナビスカさんは経験から厳しい局面を予測しているんだな。


「わかりました。ご期待に沿えるように頑張ります」


 どんな敵が出てきてもいいように、神経を「地理情報」に集中した。



 海峡に入って10分が経過したころ、僕の地理情報が魔物の気配を察知した。


「左舷11時の方角にシーモンク級6体、バルドス級4体の反応あり。距離10キロ。シエラさんとポセイドン騎士団の皆さんはフロントデッキで待機してください。繰り返します――」


 魔物たちは海峡の幅が8キロくらいしかない狭い部分にいるので、うまくすり抜けられるかはわからない。


「海峡の右側を駆け抜けてやり過ごします」

「うむ」

「あっ! まずい……」

「どうしたカガミ殿?」

「船です。魔物たちは他の貿易船を追いかけているようです」


 南からの風が吹いているので貿易船の船足は遅くない。

だけど魔物は速く泳げる奴らが揃っているようだ。

このままではたいした時間もかからずに追い付かれてしまうだろう。

基本方針通りにはいかないってこういうことか……。


 僕は舵を取り舵に切り、船の速度を上げた。


「全乗員に通達。本船はこれより魔物に襲われている帆船の救出に向かう! 総員戦闘態勢。魔物との接触予定時間までおよそ1分!」


 助けられるかもしれない人々を見捨てていくことはできない。


「素早い判断に感服した」


 ナビスカさんの大きな手が僕の肩をグッと掴む。

一瞬だけど死んだじいちゃんがそうしてくれたような気がした。


「儂もデッキに出よう。指示は船内放送で頼む。船長殿に騎士の戦いぶりを見せてくれようぞ! ダハハハハハ!」


 いつもの笑い声を残して、ナビスカさんは軽快に操舵室を出ていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ふむ流石に遊びで船長できんからなこういう時は年長者の経験、助言が必要だ(  ̄ー ̄)
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