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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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飛んでみせる!

 ポセイドン騎士団は海戦には慣れているらしく、湾の入り口に集結して、たちまち陣形が組まれている。


「海を前にして半円の形をしているだろう。湾に入り込まれないように側面で迎撃して、可能なら包囲するための陣形だよ」


 シエラさんが騎士たちの動きの意味を教えてくれた。


「どうしてそんなことがわかるんですか?」

「よく見てごらん。陣の中央に装甲の厚い重騎兵が、周囲には軽騎兵が配置されているだろう。つまり重騎兵で攻撃を受け止めて、その間に足の速い軽騎兵が敵の背後へ回り込む作戦なんだ」


 言われてみれば中央では海馬の鎧まで重厚だった。

さっき出会ったオレオ・ナビスカさんも重騎兵なのだろう。


 魔物までの距離はもう800メートルになっていた。

僕たちのいる場所からは見えないけど、海馬の上にいる騎士たちにはとっくに見えているはずだ。


「レニー君、ここからでは戦場がよく見えない。陣の左端後方に移動しよう」

「了解です」


 スピードを少し上げて陣の端まで移動していくと、白い波を立てながら魔物が接近してくるのが見えた。

敵の真ん中にいるのはひと際大きい緑色をした海竜だ。


「バクナワか。水魔法を使って大きな波を起こすことができる強力な魔物だ。レニー君もじゅうぶん気をつけてくれ」

「はい。シエラさんも振り落とされないようにしっかり掴まっていてくださいね」

「う、うむ……」


 いつビッグウェーブが来てもいいようにバイクの舳先を魔物に向けておく。

横波を食らったらすぐに沈没してしまうからだ。

波に対して真っ直ぐ船を向け、全力で乗り切るしかない。


 騎士団の方でも攻撃準備が整いつつあるようだった。

中央最前列の重騎兵たちはマジックシールドを展開して敵の突進に備えているし、後方の部隊は攻撃用魔法陣を展開して射程に入り次第魔法を放つ構えだ。

そして敵との距離が200メートルを切ったとき風魔法を使った攻撃合図が三回鳴り響いた。


プアーッ! プアーッ! プアーッ!


 部隊の各所から攻撃魔法が一斉に放たれて魔物の群れに襲い掛かる。

海上では大爆発が起こり、魔物は消滅したかに見えた。


「やったか……」

「まだだ、よく見たまえ、レニー君」


 あれ? 

シエラさんの言う通り「地理情報」では魔物の気配は消えていない。

それどころかまだこちらに向かってきている。

あっ!


「海中に潜って、攻撃をやり過ごしたのか!」


 相手が水の中では魔法攻撃も届かない。

僕たちの機銃だって、深いところに潜られては威力がガタ落ちだ。

いったいどうすれば……。


 パプーッ! パプーッ!


 突如信号音が再び響き渡り、近くにいた士官らしき人の声が聞こえてきた。


「音響魔法攻撃用意!」


 命令に合わせて騎士の槍の先に水魔法と風魔法の魔法陣が展開される。


「シエラさんあれは?」

「水の中に振動を送って敵の聴覚や脳にダメージを与える合体魔法だよ」


 戦場では様々な魔法が開発されていると聞いたけど、これは海を舞台に戦うポセイドン騎士団のオリジナル魔法とのことだった。


 水に浸された槍の先端から合体魔法が繰り出され、魔物の方へ向かって青光りする海の炎が飛んでいったように見えた。

その次の瞬間、甲高い鳴き声を上げながらバクナワが海上へ躍り出る。

よく見るとバクナワの現れた周辺では無数の魚がプカプカと浮いていた。

音響魔法のあおりを食って死んでしまったのだろう。


 もがき苦しみながらも、バクナワは息絶えてはいなかった。

引き連れていたシーモンクたちも恨めし気にこちらを見ている。

シーモンクは人魚の一種で人間に近い上半身と魚のような下半身を持った魔物で、肌が蝋のように白く頭には毛がない。

ぬめぬめとした粘液に覆われていて打撃系の攻撃が利きにくいそうだ。

けれども、もうそんなことは関係ないだろう。

魔物たちが音響魔法攻撃を食らっている間に軽騎兵たちが背後に回り込み包囲陣を完成させつつあったのだ。


「放てぇっ!」


 上官の命令に攻撃魔法が一斉に繰り出されて、魔物たちはハチの巣状態になっている。

色とりどりの魔法が魔物に向けて飛散し、爆散し、貫通し、敵を塵芥ちりあくたに変えていく。

大量魔法のすさまじさに僕は呆然と見守るばかりだった。


 ブブーンッ! ブブーンッ! ブブーンッ!


 戦場に鳴り響く命令音。

それが四方の海に広がると、怒涛の攻撃は潮が引くように収まっていく。

海の上には魔物の残骸すらなく、ただ濁った海と波が揺れているばかりだった。


「オオオオオオオオオオオッ!!!!!!」


 戦場のあちらこちらからポセイドン騎士団の勝鬨かちどきが上がり、僕も興奮のままに叫んでいた。


「やりましたね、シエラさん!」

「うむ……。だが戦いは終わりかけに一番気が緩むのだ。レニー君、こんな時でも冷静さを忘れてはいけないよ」


 シエラさんは静かに微笑んで僕を見つめる。

……なんて落ち着いていて凛々しいんだろう。

この人こそ騎士の鑑のような人だと感じてしまう。

僕は自分の興奮が少しだけ恥ずかしくなってしまった。

と、落ち着いた僕はとんでもないことに気が付く。


「しまった!」

「どうした、レニー君!?」

「魔物です。巨大な魔物が海底を移動してきていたんです。もう、すぐそこに」


 なんとうかつだったのだろう。

その魔物は戦闘のどさくさに紛れて海底を近づいていたのだ。

音響魔法と僕の興奮が影響して探知が遅れてしまった。


「みなさーん! 新手が来まーーーすっ!!!!」


 あらん限りの声を張り上げるけど、騎士たちがあげる鬨の声に僕の忠告はかき消されてしまう。

そして、それは突如として海上へ浮かび上がってきた。


「なっ、カリブティスだとぉ!?」


 平たく、真っ赤な巨大イソギンチャクのような魔物を見て騎士たちが驚嘆の呻きを漏らしている。

直径は100メートル以上はありそうだ。

魔物の出現とともに大きな波が起き、海馬たちもよろめきながら足を動かしている。


「恐れるな! 攻撃用意!」


 隊長の命令に騎士たちは迎撃に移ろうとするが、一足早くカリブティスが中央にある大きな口をぱっかりと開けた。

赤と白でできたグロテスクなまだら模様の口内が見えている。


「まずい、渦潮が来るぞ!」


 渦潮? 

何の事だろうと見ていると、開かれたカリブティスの口へ大量の海水が流れ込み始めた。

たちまち周囲には渦ができ上り、態勢を崩して倒れた海馬と騎士が次々に渦に飲み込まれていく。

なんとか倒れずにいた騎士たちは一目散に退却に転じている。

海馬たちは走りづらそうに、うねる海上を陸へと向かって駆け出した。


「レニー君、我々もいったん退却だ!」


 僕はスロットルを全開にしてその場を離れようとするのだけど、すでに渦に飲まれかけている船体の速度は上がらない。

すぐそこには湾の堤防が見えているので、あそこまで行ければ脱出の見込みはあるのだけど……。


 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!


 すぐ後ろでシエラさんが機銃を使ってカリブティスに攻撃を開始したけど、ほとんど効き目はないようだ。

そんなことをしている間にも、僕らのすぐ横を海馬に掴まった騎士たちが流されていく。


「助けてくれぇっ!」


 あれはっ⁉ 

さっき僕と決闘をした騎士じゃないか! 

スロットルを維持したまま手を思いっきり伸ばしたけど、彼の手は僕の手のわずか先をすり抜けていく。

名誉のために戦いはしたけど、むざむざと魔物の餌にされるのを見るのは心が痛かった。


「シエラさん、このままじゃ飲み込まれます。イチかバチか輸送船に乗り換えてグレネードを使いましょう」

「わかった。だがどうする? 渦の中では氷を使っての乗り換えはできないぞ」

「僕を抱えて真上に飛ぶことはできませんか?」

「レニー君を抱えて……?」


 シエラさんが身体強化魔法を使えば驚異的な能力を発揮する。

僕を抱えた状態でも10メートル以上は飛べると思うんだ。


「もし可能なら、空中にいる間に送還と召喚をやります。できるだけ長く飛んでいてほしいんですけど、無理でしょうか?」


 無謀な作戦かもしれないけど……。


「やりゅ……」


 シエラさんも極限状態で緊張しているんだな。

言葉を噛んでいるぞ。


「レニー君を抱きしめて、どこまでも飛んできゅっ!」

「わかりました。お願いします!」


 僕は振り向いてシエラさんに抱き着いた。

ちょっとだけ恥ずかしかったけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。

僕を抱きしめるシエラさんの腕に力がこもる。


「我が人生に一片の悔いなしっ!!!!」


 耳元でシエラさんが叫び、水上バイクを蹴って空中へと躍り上がった。



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― 新着の感想 ―
[一言] シエラさん鼻血出しながら良い笑顔してそうw
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