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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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楽しい実験

 僕らは会社設立のためにハイネルケへと戻った。

エンジンの開発者であるフィオナさんを抜きにしては話は進まないし、各種の書類は王都で提出する方が都合もいい。

フィオナさんの工房でもう一度ミーティングを開いて詳細を決めた。


「アタシは魔導エンジンの開発ができればなんだっていいよ。レニーたちが資金を出してくれるって言うんだったら助かるしね」


 フィオナさんは儲けにはこだわらない性格だから、会社のこともとやかく言わなかった。

適当に進めておいてくれればいいそうだ。


「私も役員になるんですか? 私、ただの料理人なんですけど?」


 ミーナさんは役員になることに戸惑っていたけど、彼女はシャングリラ号専属料理人であり、僕がボートしか持っていないときから支えてくれた乗組員クルーだ。

ガルグアに襲われ、ギリギリの死線を二人で越えたことだってある。

外すなんて選択肢はあり得なかった。


「社長はレニーで社長秘書兼、副社長兼、主計長が私ってことでいいわね?」


 ルネルナさんが確認すると、シエラさんが少しだけ不満を漏らした。


「秘書の枠は一人だけなのか? 私も立候補を……」

「シエラは役員兼護衛隊長なんだからそれでいいじゃない」

「いや、秘書という響きがうらやま……ゲフンゲフン!」

「ああもうわかったわよ。シエラは役員兼、護衛隊長兼、第二秘書ってことで」

「うむ! それなら問題ない」


 満足そうな笑顔を見せながら、シエラさんは書類に自分のサインを書き込んでいた。

煩雑な事務手続きはルネルナさんがやってくれることになり、ミーナさんは食料の買い出し、僕とシエラさんは航路の確認をしておくことにした。


「レニー、次の出発までにはまだかかるんだろう?」


 嬉しそうにフィオナさんが聞いてくる。


「はい。出発は明日を予定していますけど」

「だったらそれまで、この前のエンジンを出しておいてくれよ。少しでも理解を深めておきたいんだから」


 フィオナさんに魔導エンジンの開発を任せることにしたんだから、僕としても異存はない。

元には戻らないと覚悟して4馬力エンジンを出してあげよう。


「召喚 ローボート!」


 たちまち工房の床に船外機付きのローボートが召喚される。

フィオナさんが土台を用意していてくれたから倒れることもない。

って、あれ!? 

どういうことだ?


「おや? 魔導エンジンが元に戻っているじゃないか。レニーが直したのかい?」

「違いますよ」


 バラバラになっていたはずの船外機がきちんと組みあがった状態で召喚されたぞ。


「ひょっとすると、送還して再召喚すれば元に戻るのかもしれません」

「なるほど……。よし、一つ実験してみようぜ」


 フィオナさんは勢いよく立ち上がると、嬉しそうにドライバーをクルクルと回す。


「実験って?」

「今からアタシがもう一度これを分解するから、レニーは送還してから召喚してくれよ」


 それでエンジンが元通りになっていれば、送還の際に修理が行われるということが証明されるというわけか。


「わかりました。やってみてください」

「おう!」


 フィオナさんは満面の笑顔で分解していく。

二回目ともなると手慣れてしまったようで作業もスムーズだ。

外装が外されて、他の部分も次々と解体されていく。


「もうそれくらいで……」

「今いいところなんだから、もうちょっと待ってなよ。もう少しで……」


 僕の心配をよそに、黒光りするレンチが次々とボルトを外していった。


 15分後


「こんなもんかな」


 フィオナさんはやり遂げたって顔をしながら袖で汗を拭いている。

エンジンはかなりバラバラにされ、各パーツは整然と台の上に乗せられていた。


「短時間で頑張りましたね」

「へへっ、好きこそものの上手なれって言うだろ? あれだよ」


 言いながらフィオナさんはナットの一つに工具を使って傷をつけている。


「何やってるんですか?」

「いや、もしかしたらこの傷も消えるかもと思って」


 送還したら自動的に修理か……。

考えてみると召喚したての船はいつも新品のようにピカピカだった。

おかげで掃除の手間が省けている。

あれも修理の一部ってことだったのかもしれないな。

百聞は一見にかずということで、さっそく確かめてみることにした。

まずは送還でローボートを戻して、そののちに――。


「召喚、ローボート! ってあれ?」


 現れたのはバラバラのエンジンと船の本体だ。


「おかしいですね。組み立てられていると思ったのに……」

「いや。レニー、ここを見てみろ」


 フィオナさんがレンチで指し示す先はエンジンの一部で長細いパイプがある。


「それがどうしたんですか?」

「さっきは外れてた」

「えっ?」

「アタシが外しておいたんだよ。どうやら一気に修理されるわけじゃないようだね」


組み立てや修理にはある程度の時間がかかるみたいだ。


「見てごらん」


 フィオナさんがナットを僕に手渡す。


「さっき傷をつけておいたやつだけど、心なしか傷が浅くなっているんだ」

「ということはこういう傷も時間とともに修復されていくわけですね」

「多分ね。ここからは時間を計りながら送還と召喚を繰り返してみようぜ」


 5分ごとに時間を計って召喚してみたけど、そのたびにエンジンは少しずつ組み立てられ、15分の時点では完璧に組み上がっていた。


「ナットの傷はまだありますね」

「組み立て自体は大した手間じゃないのかもな。バラバラにしてあるとは言っても、部品は傷つけないように細心の注意を払ってるんだ」

「組み立てよりも、壊れた物を直す方が手間はかかるってことですね」

「そういうことだ。でもこれで船が壊れても一安心だな」

「はい。フィオナさんが元に戻せないかもしれないってヒヤヒヤしていました」

「バーロー、あたしゃ完璧に直せる自信があってやってるんだよ。それに本当にヤバそうなコアの部分にはまだ手を付けていないんだからね」


 一応気を使ってはくれてたんだ……。


「ごめんなさい。これからはもっとフィオナさんを信じます」

「ほんとーに信じてるのかあ?」


 フィオナさんはグイッと僕の首に腕を回して体を引き寄せてくる。


「ちょっ……」

「だったらさぁ、水上バイクを分解させてくれよ。どうせならおっきいエンジンも見たいんだもん。フィオナのお願い聞いて」

「ええっ!?」

「いいだろう? アタシの外装を外させてやるからさ……」


 ガツンッ!


「いってぇ! 何すんだよシエラ!」


 シエラさんの拳がフィオナさんの後頭部に振り下ろされて、かなりすごい音がしていた。


「警備隊長としての職務を全うしただけだ。まだ続けるのなら私も自分の任務を遂行するだけだが……」

「い、いや、いい。さ~て、魔導エンジンのお勉強でもしよっかなぁ。4馬力エンジンだ~い好き!」


 フィオナさんは逃げるようにローボートの点検を始めた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 料理、護衛、天気予測、資金運営、整備士?と居るけど 後は必要なのはマッパー?(全裸ではない)
[良い点] なんやかんやで皆さんやりたい放題やって増すね〰️賑やかになったものだ(  ̄- ̄) 天国のじいさんもさぞ羨ましがってるなこりゃ(#゜Д゜)y-~~ [気になる点] 船長のレニー、秘書、料理…
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