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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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主計長ルネルナ

 カサック初日の朝もシエラさんとの訓練で始まった。

誰もいない夜明けの広場で僕たちは汗を流す。

今日はフィオナさんがくれたエルボーガードを左腕に装着して稽古をする。

これはエンジンをバラバラにしてしまったことのお詫びとしてもらった防具だ。

魔力伝導の高い合金でできていて、練習次第ではここから魔法を繰り出すことも可能だそうだ。

放出系の魔法は使えないけど、肘攻撃に火炎を纏わせるくらいなら僕でもできる。

シエラさんが魔法防壁を張って身構えた。


「よし、いつでもいいぞ。攻撃してきたまえ」

「本当に大丈夫ですか?」

「騎士の防御力を侮らないでほしいな。それに間合いを覚えるためにも対人で練習した方がいい」

「ではお願いします!」


 超近接戦闘ではナイフや拳が使えないことも多い。

こんな時にダガピアでは肘や膝を使って攻撃する。

関節技や絞め技もあるけど、短刀や魔法を使える相手では反撃をくらう恐れもあるので出番は少ない。

この肘攻撃に火炎魔法を追加して、攻撃力を高めるのが今日の訓練だ。

僕はまだ子どもで体重や筋肉量が少なく、どうしても一つ一つの打撃が軽くなってしまう。

ピンポイントで急所を狙えればいいんだけど、魔物の急所ってどこがどこだかイマイチわからないんだよね。

そこで攻撃力を魔法で補う方法をシエラさんに教わっている最中だ。

打撃と魔法が重なれば、魔物にだって通用する攻撃が放てるそうだ。


「いきます!」


 高速でシエラさんの懐に飛び込み、ほとんど隙間の無い距離へと詰める。

体と体が触れ合うほどのスタンス。

この態勢に持ち込めれば攻撃は僕の独壇場だ。

長剣を持ったシエラさんに為す術はない。

踏み込んだ勢いをそのままに、低い体勢から肘を上方に向かって振り上げる。

インパクトの瞬間に合わせて火炎魔法を発動。

燃焼音を響かせて燃えるエルボーがシエラさんのみぞおちに――。


 ガッ!


 剣の柄であっさり防御されちゃった。


「うん、いい踏み込みだが魔法の展開が早すぎるな。これでは敵に肘を使うとバレバレになってしまうぞ。まあ、それをフェイントとして使うというのも手ではあるが」

「瞬間的に魔法を出すことにはまだ慣れていなくて。なにかいい訓練方法はないですか?」

「そうだな、魔力循環の基礎練習が効果的かもしれない」

「魔力循環?」

「ああ。二人一組になって、手を繋いで、一緒に魔力を循環させる基礎トレーニングだ。私も子どもの頃に父上とよくやったものだ」


 騎士の家の子どもは幼いころからこれをやって、地力を高めていくそうだ。

やり方はそれぞれの家で方法が違っていて、秘伝になっている場合もあるらしい。


「僕もやってみたかったですけど、秘伝だったらダメですよね」

「そんなことはない! レニー君は私にとって弟にしたいというか、夫にしたいというか、息子にしたいというか……」

「はっ?」

「いやっ、何というか……そう! 家族みたいなもんだっ‼ 家族だったら秘伝を伝えるくらいどうということはない。当たり前のことだろっ!?」


 よくわからないけど、シエラさんは僕のことを家族のように思っていてくれたんだ……。

なんだか嬉しくて涙が滲んできちゃった。


「祖父が死んで天涯孤独になってしまったと思っていたけど、僕は幸運です。シエラさんみたいな人がそばにいてくれて」

「レニー君……」


 僕に本当のお姉さんがいたらこんな感じなのかな? 

どうだろう、近所のサミーとエルダの姉弟はいっつも喧嘩ばっかりしていた。


「よし、さっそく魔力循環の訓練を始めようじゃないか」

「はいっ! どうすればいいですか?」

「最初に互いの手を繋い……で……」

「手を繋ぐんですね。これでいいですか?」


 僕は目の前にあったシエラさんの手をとった。


「レニー君の手が……」

「あっ、両手とも繋いだ方がいいですか?」

「そ、そうだ。指と指を絡ませるようにつなぐと効果的だ。ほ、本当だぞ! 嘘じゃないんだ!」

「嘘をついているなんて思ってませんよ」


 シエラさんは何を動揺しているんだろう? 

両方の手で指を交差させて手を繋ぐ。

握り返してくるシエラさんの握力が強くてびっくりしたけど、これも訓練なのだろう。

僕も負けないように手に力をこめた。


「こうもあっさり願望が成就されるとは……。最近の私はついている? のっている? 次はハグ。絶対にハグ。ルネルナばっかりずるいんだ。目の前でああも自然にレニー君を抱きしめやがって。でも、私だって負けない。騎士の意地と沽券にかけて、きっとレニー君を抱きしめてみせる。そしていつかレニー君のくちび――」

 シエラさんは目を閉じてぼそぼそと何事かをつぶやいている。

声がくぐもってよく聞こえないけど、きっと訓練のための詠唱を開始しているのだろう。

僕は心を落ち着けながら、シエラさんの詠唱が終わるのを静かに待った。



 朝食をすませ、お店が開く時間になると、僕らはルネルナさんと合流して商品を仕入れた。

カサックで仕入れるものと言ったら、フラボアン国特産の銀食器と絨毯だ。

北西の山脈をはるばる超えてもたらされる品は王都でも人気が高く、高値で卸すことができる。


「といっても、フラボアンの銀食器や絨毯なら何でも売れるってわけじゃないのよ。やっぱり流行しているデザインや、これから流行りそうな柄を選ばないとダメね」


 その辺はセンスの問題になってしまうな。

ルネルナさんやミーナさんはそういうのが得意なんだけど、僕やシエラさんは苦手だったりする。

値段交渉も上手で、感心しどうしだ。


「すごいです。これだけのものが元値の8割で買えるなんて……」

「ふふふ、私はシャングリラ号の主計長ですからね」


 主計長とは船の経理を司る役職だ。

まさに不動のポジションって感じだよね。


「レニー、これはハイネルケで販売するの?」

「ええ、そのつもりですけど」

「でもさ、あのクルーザーだったらもう少し遠くまで運べるんじゃないかしら?」

「たしかに……って、もしかしてルギア港まで持っていくつもりですか?」

「違うわよ。もっと遠く」


 ルネルナさんの瞳がキラキラと輝いている。


「遠くって……」

「隣国コンスタンティプルよ。あそこまで持っていけば相当な高値がつくはずだわ」


 コンスタンティプルはルギア港から北西へ500キロほどの大国だ。

かなり遠い場所ではあるが、カサックからでもクルーザーなら3日で到着できる。


「経済的には大陸一の規模だし、あそこまで荷物を運べれば大儲けができるわよ」


 ニヤリと笑うルネルナさんの瞳が怪しく光る。


「それはそうかもしれませんけど、ダークネルス海峡を通るわけですよね」


 ルギアから北西へ進めば、大陸同士が非常に近いダークネルス海峡というところを通らなければならない。

魔物がしょっちゅう現れるので、たくさんの貿易船がここで沈没させられている。

それでも国家間貿易は非常に儲かる。

儲かるから命を懸けて船乗りたちは荷物を運ぶ。


「たしかにそうだけど、クルーザーの船足なら魔物を振り切れるんじゃないかしら? 生き残った船乗りたちは、みんな追い風のおかげで逃げ切れたって言ってたわ」


 一般的な帆船のトップスピードは、どんなにいい風が吹いたって時速30キロを上回ることは滅多にない。

そう考えると時速40キロを出せるクルーザーなら魔物を振り切ることができるのか。

まして、クルーザーには機銃だって換装できるのだ。返り討ちにする可能性だってある。


「どう、レニー。覚悟を決めてやってみない?」

「う~ん」


 クルーザーの船舶レーダー、僕のスキルの地理情報、この二つを使えば危険を未然に察知することも可能か……。


「もしもコンスタンティプルまで荷物を運べれば、5倍以上の値段がつくかもしれないのよ」


 100万ジェニーで仕入れた銀食器と絨毯が500万ジェニー!


「わかりました。やってみましょう」


 欲をかき過ぎかなとも思ったけど、これからは自動車会社の資金も必要になる。

それに海を越えて世界を見るのは僕の夢でもあるんだ。

僕らは今日仕入れた荷物をコンスタンティプルへ運ぶことにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 脳内BGM「無敵ロボトライダーG7」 ♪タケオゼネラルカンパニー♪ ♪オレは社長で小学生♪
[一言] ラッキー過ぎると絶対後でアンラッキーが起こるぞ( -_・)?
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