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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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国産魔導エンジン

 フィオナさんは輸送船を見て、自走する車、つまり自動車を作り出すことを考え付いたそうだ。


「そんなことできるんですか?」

「ああ。前から考えていたことではあったんだ。魔力を使った乗り物ってやつをね」

「空飛ぶ箒とか、絨毯とか?」

「あれは失われた重力魔法を使った古代の遺物だ。ロストテクノロジーの解析はとっくに諦めているさ。そう言うのはアカデミーの爺さん方の仕事だよ。あたしゃインテリじゃなくて単なる魔道具師だからね」

「僕にとってはどちらも尊敬の対象ですけど……」

「お姉さんを口説く気かい? それも嬉しいけど今は仕事の話さね」


 フィオナさんは自分が考えている魔導エンジンについて教えてくれた。


「おそらくだけど、レニーの船についている魔導エンジンは魔力を直接力学的エネルギーに変換しているんだと思う。だけどそれはとんでもないことなんだ」

「とんでもないこと?」

「この世界のどこを探してもそんな魔道具はない。古代のロストテクノロジーの中にわずかに存在しているだけさ」


 特殊なゴーレムなどがこれにあたるらしい。


「フィオナさんは失われた技術を復活させる気ですか?」

「いや、そいつは無理ってもんさ。私はちょっと腕がいいだけの普通の魔道具師だもん。そこまでの天才じゃない。だけどね、いいことを思いついちまったのさ」

「いいこと?」

「ああ。私が思いついたのは火炎魔法を使った魔導エンジンさ。要は熱エネルギーをピストンの往復運動に変換して、回転運動にするって機構なんだけど、わかるかい?」

「ちょっと想像がつきません」

「つまりだな……」


 フィオナさんは練兵場の土に棒で図を描いて説明してくれた。


「つまり密閉容器の中で火炎魔法を使うと空気が膨張する、その膨張を利用して回転運動を得るのですね」

「その通りだ。レニーは頭がいいな。このエンジンができ上れば自動車だけでなく船にだって応用は利く。絶対に大儲けできるってことさ」


 フィオナさんの話は本当に面白そうな試みに聞こえた。


「わかりました。フィオナさんに投資しますよ」

「随分とあっさり決めてくれたな」

「まあ、実は翡電石の買取が全部で352万3400ジェニーになったんです」

「ぶっ! 高騰しているとは聞いていたが、まさかその値段がつくとはな……」

「だから資金の方は潤沢なんです。当面はエネルギー源である魔石が買えれば大丈夫ですから」


 あとはパル村に寄付するお金と、カサックで売るワインを仕入れるお金があればいい。


「とりあえず200万くらいあればいいですか?」

「それだけあれば開発費としてはじゅうぶんだけど……いいのかい? 簡単にアタシを信用して」


 フィオナさんとは出会ったばかりだけど、ともに死線を潜り抜けた冒険仲間でもある。

今回の翡電石の儲けだって、フィオナさんの協力なしには得られなかったものだ。


「いいですよ。僕はフィオナさんを信じます。それにフィオナさんの作る魔導エンジンにロマンを感じますから」

「レニー! やっぱりアンタは男の子だね」


 フィオナさんが僕の首を腕でロックしてぐりぐりしてきた。


「ちょっ……やめ……」

「レニー、ついでにエンジンの分解なんだけどさ。ねえ、お願いだよぉ……」


 投資する以上はある程度の犠牲はやむを得ないか……。


「わかったから放してください」


 僕は輸送船を送還して、4馬力船外機を積んだローボートを召喚した。

オプションの10馬力は外して、出力の小さい4馬力に付け替えてある。

最悪、これなら壊れても諦めはつく。


「このエンジンなら分解してもいいです。ただし期間は今日と明日だけですよ。明後日には騎士団の方々をカサック方面へ送らないといけませんからね」


 船の同時召喚は無理なので、ローボートをだしている間はクルーザーが呼べなくなってしまうのだ。


「いいよ、いいよ。今日から徹夜で解体するから。そうと決まれば善は急げだ。レニー、この船を私の工房で召喚してくれないかな」


 フィオナさんには敵わないな。

なんだかんだで結局分解を許すことになっちゃった。

でも、国産の魔導エンジンなんて本当に夢のある話だと思う。


「わかりました。工房まで送っていきますから輸送船に乗ってください」


 輸送船を再召喚して、フィオナさんを工房へ送り届けた。



 フィオナさんに船を預けている間は出航もできず、僕は騎士団に混じって訓練をしたり、ミーナさんと必需品の買い出しなんかをして過ごした。

そんな感じで二日間が瞬く間に過ぎ、ついに出航の日がやってきた。


 今回運ぶのは騎士15名とその家族7名だ。

ほとんどは独身者だけど、奥さんや夫を連れて任地へ向かう人もいた。

出航間近の桟橋で、見送りに来たシェーンコップ団長が僕に白い包みを差し出してきた。


「レニー君、これを君にプレゼントするよ。私たちからの感謝の気持ちだと思ってくれ」


 団長がくれたのは白地のマントで、中央には大鷲の紋章がついている。


「これはルマンド騎士団のマントじゃないですか!? どうして……」

「今日から君もルマンド騎士団の名誉団員だ。騎士たちを無事に任地へ送り届けてやってくれ」

「よろしくな、レニー」

「頼むぜ、船長」


 騎士たちが次々と僕に声をかけてくれる。

それだけで僕は嬉しくなってしまった。

団長は自らの手でマントを着せてくれ、金属製のエンブレムで前を留めてくれた。


「なかなか似合っているじゃないか」

「ありがとうございます。皆さんのことはどうぞお任せください。必ず最寄りの寄港地へ送り届けますので」

「よろしく頼む」


 がっちりとした団長の手が僕の小さな手をぎゅっと握った。


 港には大勢の見送りが詰めかけていた。

涙を流す人、笑顔で見送る人、手を振って叫ぶ人とそれぞれだけど、どの顔にも悲しみが色濃く出ている。

人の旅立ちっていうのはそういうものなのかもしれない。

だからこそ僕は思うんだ。いつか僕は今日旅立つ人々を乗せて、このハイネルケへ帰港したいって。

出迎えの人々が浮かべる喜びの顔に思いを馳せながら、僕はハイネルケの港を出航した。



 セミッタ川の遡上を開始した僕らは最初の寄港地であるミラルダを目指した。

ハイネルケ‐ミラルダ間の距離はおよそ320キロ。

9時間弱の航行時間を予定している。

ミラルダでは5人の騎士が下船する予定だ。


「レニー君、疲れてはいないかい? 操船を代わるよ」


 飲み物を持ったシエラさんが操縦席まで来てくれた。

スベッチ島へ行ったときから講習しているので、シエラさんの操船技術はしばらく舵を任せられるくらいに上がっている。

今回の旅ではシエラさんとミーナさんの二人が同道してくれている。

フィオナさんもカサックを見てみたいと言っていたけど、魔導エンジンの開発を優先してハイネルケへ残った。

僕が渡した4馬力エンジンを分解して、構造がだいぶ理解できたそうだ。

今のうちにレポートをまとめたいと言っていた。


 実は4馬力エンジンのローボートは今朝方取りに行ったのだけど、その段階ではエンジンはバラバラの状態だった。

元に戻す暇もなかったからそのまま送還を試みたんだけど、こちらは何とか上手くいった。

もしも送還できなかったら騎士団を送るクルーザーが召喚出来なかったわけで、思い返しても背筋が凍る思いだ。

フィオナさんは分解途中のエンジンを送還されて残念がっていたけど、続きはカサックから帰ってからにしてもらった。

あれ、本当に元に戻るのかな……? 

かなり心配だけど、発明に犠牲はつきものなのかもしれない。

フィオナさんは必ず元に戻すと言ってくれたから、今はそれを信じるとしよう。


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