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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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コマンドドラゴン

 スベッチ島への上陸は0時開始ということにして、僕らは休息をとることにした。


「レニー、一緒にシャワーを浴びようぜ。私の服を脱がせていいから、代わりに船のフレームを外させておくれよ」


 フィオナさんはとんでもない冗談で僕を困らせる。


「何を言ってるんですか!? 僕はいつ魔物が来てもいいように操縦席で待機しています!」

「シャングリラ号の船舶レーダーは優秀だから、船に近づく魔物があれば警報が鳴るように設定してあるんだろう? 私を一人にしたらシャワーを分解しちゃうかもだよ? だからさぁ――」


ドライバーをくるくる回しながらフィオナさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。


「何なら私が一緒に入ってやろうか? 背中を流してやってもいいぞ……」


 ものすごい形相のシエラさんがポキポキと指を鳴らした。


「一人で入ってきま~す!」


 シエラさんの迫力に押されて、フィオナさんはスルスルっと階下に消えていく。


「まったく……」

「ありがとうシエラさん。僕は女の人には慣れていないから、ああいう冗談にはついていけなくて……」

「はたしてどこまで冗談なのやら……。レニー君、何かあったらいつでも私を呼ぶんだぞ。私は君の騎士ナイトなんだからな」


 シエラさんは優しいな。

でも――。


「大丈夫ですよ、いつまでもシエラさんに頼っているわけにはいきませんから。言ったじゃないですか。僕はシエラさんの背中を守れるくらいに強くなってみせるって」

「レニー君が……私の背中……」

「シエラさんも今のうちにシャワーを浴びておいてください。上陸まではあと3時間ですよ」

「うん……背中……綺麗にしておく……」


 やけにもじもじとシエラさんも自室に戻っていった。

僕は一人で計器を睨む。

今のところは異常なしだ。

すでにサーチライトと機銃はクルーザーに換装してある。

僕も少し休んでおこう。

シートに深く腰掛け、僕は目を閉じた。


 深夜になって、僕はシャングリラ号をギリギリまで島に近づけた。

船のサーチライトが点灯すると海岸が眩しいくらいに照らし出される。

見た感じでは生物が動き回っている様子はない。

夜行性の魔物がいないというのは本当のようだ。


「ミーナさん、船を頼みます」

「まかせといて。ライトの向きもちゃんと調節するからね」


 上陸するのは僕とシエラさんとフィオナさんで、ミーナさんには船に残ってもらう。

僕らは頭に着けたおでこピッカリも点灯した。


「準備はいいか? 桟橋をかけるぞ」


 海岸まではおよそ20メートル。

シエラさんが得意の氷冷魔法を使うと、船から岸まで続く氷の橋がかかった。

時刻は0時。

今から海岸で翡電石ひでんせきを集められるだけ集める計画だ。

僕はもう一度、腰にさした形見のナイフを確かめた。

それだけで緊張が少し和らいで、力が湧いてくる気がする。


「周囲への警戒を怠るな。行くぞ!」


 船の上では僕が船長だけど、海岸では戦いに精通したシエラさんが指令を出す隊長だ。

僕らはシエラさんに続いて氷の桟橋を岸へ向かって駆け抜けた。


「おお! 翡電石が大量じゃないか。これだけあったら当分開発費には困らなさそうだね」


 おでこピッカリに反射する緑色の石を見て、フィオナさんが小躍りしている。


「無駄口を叩いている暇はない。魔物がこちらに来る前にさっさと作業を始めるぞ」

「夜はみんな眠ってるって。安心して石を拾おうぜ」


 フィオナさんはそう言うけど、起きだす魔物だっているかもしれない。

僕は周囲を警戒しつつ、岩場に置いた木箱に次々と翡電石を入れていく。

良し悪しを判別している時間はないから、とにかく端から手当たり次第に箱へ詰める。

すぐに木箱はいっぱいになってしまった。


「フィオナは箱をクルーザーへ」

「あいよ」


 シエラさんが魔法をかけなおし、融けかけた桟橋が再び凍てついていく。

フィオナさんは木箱を持ってその上をかけていった。

緊張で冷や汗が流れる中、僕は二つ目の木箱に翡電石を放り込む。


「レニー君、今物音が……」


 ふいにシエラさんが僕の動きを止めた。

じっと海岸の端の方を見つめて気配を探っているようだ。

サーチライトとおでこピッカリの光に照らされて、海岸の地形がもそもそと動いている気がした。


「大地が……うねっている?」

「違う。あれは……コマンドドラゴンだ!」


 コマンドドラゴンとは地竜の一種だけど、見た目は大きなトカゲに近い。

頭から尻尾の先までの長さは3メートルにも及び、太い脚と頑丈な顎が特徴だ。

そんな魔物が50体以上の群れで僕らの方へ走ってくるところだった。


「何が夜行性の魔物はいないだ。変態分解魔道具師がぁ!」


 シエラさんは忌々しそうに叫びながら手に魔力を籠めた。

たちまち空中に五つの魔法陣が展開され、青白い光を放つ。


「くらえ! アイスランス!」


 魔法陣から五本の大きな氷柱が放たれ、五体のコマンドドラゴンを貫く。

それだけじゃない。

船の方から聞きなれた攻撃音が響き、きらめく無数の矢がコマンドドラゴンを横から貫いた。


 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!

シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!


(レベルが上がりました)

 今はそれどころじゃない。


シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!

シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!


「ミーナさん!」

「援護するわ!」


 ガルグアを倒した経験者だけあってミーナさんの機銃攻撃はどうっている。


「レニー、これを使え!」


 フィオナさんがビリビリのシャルウルを投げてよこした。

たしかに地を這うコマンドドラゴンが相手だと、僕のナイフでは不利だ。


「持ち手の底部に起動スイッチがある。つまみを右側へ捩じるんだ」


 言われた通りにスイッチを入れると、トゲのついた鉄球が青い稲妻を放ちだした。


「レニー君、私から離れるなよ!」


 魔法でさらに五体のコマンドドラゴンを倒したシエラさんが剣を抜く。

フィオナさんも桟橋から追っかけの矢でコマンドドラゴンの頭を確実に射抜いていた。


シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!

シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ……。


(レベルが上がりました)


「ごめ~ん、こっちは魔力切れ」


 ミーナさんの魔力は切れてしまったけど、おかげで数はだいぶ減らせている。

それに、もうコマンドドラゴンと僕たちの距離が近すぎて、機銃での攻撃は無理だろう。

残るは八体。

ここからは白兵戦だ!


「行くぞ!」

「はいっ!」


 僕とシエラさんは武器を手にコマンドドラゴンへと突っ込んだ。

迫りくる敵との間合いを測って冷静にシャルウルを振り下ろす。

頭部を狙った攻撃はわずかに外れて首にヒットしたけど、ほとばしる雷撃がコマンドドラゴンの息の根を止めていた。


「次!」


 息を継ぐ間もなく右から襲い掛かるコマンドドラゴンを横払いの攻撃でぐ。

電撃にのたうちながら巨大な体が浜に沈むのを見届けることもなく、次の攻撃に備えた。

と、そのとき……背中に感じたのはシエラさんの背中だった。


「ははっ、レニー君、ちゃんと動けているじゃないか!」

「これもシエラさんとの特訓のおかげですね」


 互いに背中を合わせながら僕らは呼吸を整えた。


「まさか本当にレニー君と背中を合わせて戦うことになるとは……。幸福過ぎて胸が痛い!!」

「はっ?」

「安心したまえ、こんなところで私は立ち止まらない。次なる野望へと突き進む」

「ちょっと、何言ってるかわからないんですけど……」

「次なる野望は手を繋ぐこと。それまでは死ねるものかっ!」


 よくわからないけど、シエラさんは気合が入っているようだ。

僕たちは再びコマンドドラゴンへと襲い掛かる。

そして一体、また一体と魔物の死体を積み重ね、ついにすべてのコマンドドラゴンを排除することに成功した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] たまにはこういうのんびりもいいな〜 [気になる点] ヒロインは処女ですか? [一言] 地図のやつ線が綺麗で羨ましい
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